スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

軽量・高出力・コンパクトを狙った革新のGSX-R750 油冷エンジン

画像1: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

最初のGSX-R750に用意されたDOHC4バルブ並列4気筒エンジン、型式「R705」は、エンジンオイルを潤滑だけでなく、エンジンで最も温度の上がる燃焼室の裏、すなわちシリンダーヘッド上面に強く吹き付けて冷却にも活用する点が通常の空冷とは異なる。エンジン重量を抑えつつ、空冷より優れた冷却性能を得るために考案された手法で、スズキはこれを“油冷”と命名した。

上の写真はその全バラ状態で、上は単体+マフラー。後掲写真のように前面には大型のオイルクーラーを装着し、シリンダー前にオイル回収部とそれにつながるパイプ、後ろにホースのオイル通路を持つのが外観の特徴。内部ではクランクケース下部に潤滑用と冷却用のオイルポンプを置き、ヘッドカバー裏にシリンダーヘッド上面にオイルを噴射するノズルを備える点が注目される。

一方でカムチェーンは2/3番気筒の間にあり、部品点数は空冷のそれとほぼ変わらないなど、エンジンの構成は非常にオーソドックスだ。多くの場合クランク端部に置かれるACGは、R705ではミッションの真上に配されプライマリードリブンギヤで駆動し、耐久レーサーGS1000Rと同等となる55度のバンク角の確保に貢献。この背面ジェネレーターや油圧作動のクラッチ、吸排気カムを駆動させるスプロケットの間に置かれるアイドラーギヤなど、スズキでは初採用の機構が多く見られる。

空冷エンジンでは点火プラグとシリンダーヘッドの接触面を外部に露出させて熱がこもるのを防ぐが、この油冷では筒状の穴の底部にプラグを装着、穴の上端を塞ぐラバーキャップを持つプラグコードを使うなど、水冷エンジンと同じ構成を採る。

ボア×ストロークは、直前モデルとなる空冷4バルブのGSX750E(4型)のΦ67×53mm(747.4cc)に対しΦ70×48.7mm(749.7cc)とショートストロークとされた。エンジン性能は、GSX750Eの日本仕様が72PS/9000rpm、6.3kg-m/7500rpm、海外向けは84PS/9500rpm、6.8kg-m/8500rpmと資料に記されるが、GSX-R750は日本仕様:77PS/9500rpm、6.4kg-m/8000rpm、海外仕様:106hp/10500rpm、6.5kg-m/8000rpmを公称。

日本仕様と海外仕様の相違は、後者を基準にすると、①吸排気カムのリフト量を8.8→7.8mmに小さくするとともにプロファイルを変更。②サイレンサー内部のパイプ径を細くする(騒音対策含む)。③エアクリーナーの吸入口を小径化。④吸排気カムの仕様変更を受けて点火時期のセッティングを改める、などが挙げられている。

エンジン単体重量67.6kgで106PSを発揮し所期の目標を油冷で達成

シリンダーやヘッドカバー周辺に刻まれた細かな冷却フィンが油冷ユニットの外観上の特徴。なお“油冷”の語は横内さんが運輸省(現国土交通省)への認可の際に、社内での実験同様の冷却実践を見せて油冷として申請(61%がオイル、残りが空冷となった)、認可が下りて正式にカタログ等でも謳った正当なものである。

画像2: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

SACS(Suzuki Advanced Cooling System)
空冷を超える冷却性能と出力を水冷よりもシンプルで軽く実現

画像3: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

上と下の図2点は初代GSX-R750での油冷=SACSの解説。冷却専用のオイルポンプを介したエンジンオイルはシリンダー背面の2本のオイルライン(ホース)からシリンダーヘッドカバー内の通路に圧送され、8本のノズルから各気筒のヘッド上側に20L/分という量が高速で吹き付けられる。これで燃焼室裏の熱境界層を壊して溜まった熱を奪い、オイルはヘッド前側の2カ所のポートから前面のパイプと、前側のシリンダースタッドボルト周部を通路としてオイルパンに回収された後にオイルクーラーで冷やされ、再度エンジン内の潤滑や冷却等に使われる。

画像4: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

狙った軽量高出力コンパクトを油冷という革新手法で実現する

初代GSX-R750のエンジン開発では高出力とともに軽量化も重視され、補機の追加が水冷より少なく重量増を最小限に抑えられる“油冷”を採用。400ccと同等の67.6kgという単体重量を実現し、パワーウエイトレシオ2.32kg/PSを獲得した。

画像5: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

ダブルクレードルフレーム内にコンパクトに収まる油冷ユニット。エンジンマウントは片側3カ所ずつの都合6カ所で、エンジン下左右と後ろ左右はアルミプレートでリジッドマウント、エンジン前左右はクランクケース前側のホール部に大径ラバーブッシュを差し込んだ上でボルトで止めるフローティングマウント。フラットタイプのオイルクーラーは8000kcal/hの放熱容量を持つ。

画像6: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

エンジン細部をさらに検証

画像7: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

エンジン+オイルクーラーを前側から見る。クランクケース底部から出た2本のオイル通路は、シリンダー前面の脇を通りオイルクーラー上端部に接続される。写真で右側がオイルクーラーへの送り、左側がエンジンへの戻しで、冷却されて戻ったオイルはクランクケース前中央に見えるカートリッジ式フィルターを介してクランクやミッション、カムなどの潤滑経路に送られる。

オイルはもうひとつのオイルポンプによってシリンダーヘッドカバー裏にある8本のノズルへ送られ、ここからシリンダーヘッドに噴射された後前側に集められ、1/2番と3/4番の排気ポート間に位置する湾曲したパイプ等でオイルパンに戻される。


画像8: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

上の写真のようにシリンダー背面にはオイルをヘッドカバーに送るホースとパイプがある。冷却用ポンプの圧送量は20L/minと大容量。シリンダーヘッド上面に噴射されたオイルは2本のパイプに加え、中央部のうち前方2本のスタッドボルト貫通穴からも戻る。


画像9: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

上はオイルの流れを示す図で、クランクケース下部には冷却用と潤滑用の2個のトロコイド式ポンプが同軸に並ぶ。この冷却機構では、シリンダーヘッドにオイルを単に流すのではなく噴射することが重要で、温度の高い燃焼室裏の熱境界層を壊して熱を奪うという仕組みだ。


画像10: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

吸排気カムのカム山は各4個で、Y字型ロッカーアームで気筒あたり2本ずつある吸排気バルブを開閉する2バルブ1ロッカー式。後に1991年型Mでカム山が8個でI字型ロッカーアームの1バルブ1ロッカー式になり、クリアランス調整もスクリュー(ネジ)からシムに変わる。

燃焼室(上)は空冷4バルブのGSXで採用した2渦流燃焼室TSCC(ツインスワール・コンバッションチェインバー)を進化させたニューTSCCで、吸排気バルブは先代モデル1983GSX750E(4型)のΦ25/21mmに比べΦ26/24mmと大径化。

ピストンヘッド(下)は現代のようなフラットではなく台形だが、DOHC4バルブに向いたペントルーフ型が採用されている。


画像11: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

シリンダーは空冷用のそれとほぼ同様で、水冷でのウォータージャケットに類するものは持たない。外観表面には細かいフィンが刻まれ、1/2番、3/4番気筒の間に走行風を通す穴を備えている。これは上の前面写真でも確認できる。なおエンジン表面は、ガンコートと呼ばれる特殊塗装で仕上げられている。放熱性が高く傷が付きにくいのが特徴だ。

画像12: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

コンロッドは過剰に強い部分を削り落とすことで徹底的に重量を削減し、GSX750Eより25%の減量を果たした。


画像13: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

エアクリーナーボックスは筒状で、大型のエレメントを収める主室と、キャブレター後方の副室による2室構造として8Lの大容量を確保。燃料タンク底面にはフレーム上方に飛び出た主室を避ける大きな逃げがある。

画像14: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

副室の内部、キャブレターとの接続部には樹脂製のエアファンネルがあり、1/4番と2/3番気筒の長さを変えて新気の流れを最適化。このファンネルから吸気バルブ直前までを直線化して吸入抵抗を低減、スズキはこれをDAIS:ダイレクトエアインテークシステムと呼んだ。


画像15: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

キャブレターはメインボアがΦ29mmのミクニVM29。スライドバルブは筒型でなくフラットな板状で、これを負圧ではなくアームで直接引き上げる。1、3番気筒のキャブには加速ポンプが付く。


画像16: スズキ「GSX-R750(GR71F/F)」(1985年)エンジン解説

排気系はスチール製の一体式で、表面はジェットエンジンのタービン部にも使われ、優れた耐熱効果を持つサーメテル処理で黒仕上げされる。集合部は1/3番エキパイを上側、2/4番が下側に配される4into1構造。写真は日本仕様のエンドパイプで、騒音規制に対応、出力を抑えるため開口部を絞っている。

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