まとめ:オートバイ編集部/協力:東京エディターズ
※注:開発者の肩書きなどはインタビューが行われた1989年当時のものとなります。
カワサキ「ゼファー」開発者インタビュー
▶パワーユニットエンジニア・安藤 信氏
安近 信氏
エンジン設計担当 CP事業本部技術統括部
プロジェクト室 係長
Z400FXをはじめとする4気筒エンジンを手がけ続けてきた、エンジン開発のエキスパート。

空冷4気筒2バルブ400ccエンジンの確立された系譜
ゼファーのエンジンについていえば、Z400FX以降のZ400GP、GPz400と今日に続く一連の系譜にあるエンジンと同一のものです。確かゼファーとZ400FXのクランクシャフトのサイズは共通だったと思います。
それほどまでに、この空冷4気筒400ccエンジンは完成度が高く、しかもコンセプトが馬力を追求するものではなかったため、技術的に特に苦労した記憶はありません。それでも油温を下げるためにオイルクーラーを新設したり、点火系を改良したりと、細部には多くの手が加えられています。

設計段階では3バルブ化なども検討しましたが、最終的には「シンプルな構成の方がこのコンセプトにふさわしい」と判断し、この空冷2バルブエンジンを採用しました。性能第一のレーサーレプリカとは異なり、「馬力はこの程度で十分」と割り切り、その分デザイン性を重視したエンジンと言えるでしょう。街乗りやツーリング、そして走り込みたくなるような場面でも、必要にして十分な性能を備えたエンジンだと思います。
マフラーに関してはかなり議論がありましたが、最終的には「このようなスタイルの短いタイプの集合マフラーでなければならない」という結論に達しました。そのためメインスタンドを犠牲にしてチャンバーを設け、バンク角を確保しています。
今こうしてゼファーが好調に売れているのは、ややひいき目かもしれませんが、軽やかでさわやかなイメージがあるからではないでしょうか。全体として、お客さんを自然と惹きつける「何か」があるのだと思います。
▶デザインエンジニア・藤本幸憲氏
藤本幸憲氏
車体設計担当 CP事業本部
プロジェクト室 開発一班
GPz400/550シリーズをはじめ、GPZ400RやGPX400Rなど一連のシリーズも担当。

技術者としての葛藤と走りを楽しむための2本サス
技術的な面からのみ見れば、はっきり言って抵抗がなかったわけではありませんでした。カワサキには「ユニ・トラック」というリアサスペンションシステムがありながら、あえて逆戻りするように2本サスを採用することには、技術者としてやはり抵抗があるものです。
しかし、このゼファーの持つコンセプトを理解すれば、目に見えないところにあるユニ・トラックよりも、堂々とした2本サスこそがふさわしいと考えました。もっとも、2本サスといっても古いタイプをそのまま流用するようなことは、技術者としてできません。
ユニ・トラックほどではないにせよ、峠でも十分に楽しめるものにしようということで、Z1000Rタイプのリザーバータンク付きリアサスを採用したのです。

フレームにしても、ただ単に剛性を追求すればいいというものではありません。かといって、走りに悪影響が出るようでも困ります。ゼファーのコンセプトからすれば、アルミフレームではなく丸パイプ構造を採用することが最適であるのは言うまでもありません。こうして、走りとフレームワークの美しさを両立させた形が、ゼファーのフレームとして具現化されたのです。
ブレーキに関しては「何か新しいことをやってみたい」と4ポッドキャリパーなども検討しましたが、重量やコストの問題があり、また性能的にも2ポッドで十分な制動力が得られるとの判断から、採用を見送りました。
今、街中でゼファーを見かけると、本当に嬉しいですね。特に人が乗って走っている姿は、軽快で美しく見えます。初めて街中でその姿を見たとき、ゼファーに惚れ直しました。
▶テストライダー・斉藤昇司氏
斉藤昇司氏
テスト走行担当 CP事業本部
技術統括部 プロジェクト室
ベテランテストライダーとして、Z1000Rをはじめとするリッタークラスのスポーツモデルのテストも担当。

「これはいける!」の予感が確信に変わった瞬間
このゼファーのテストを始める直前まで、ZX-10のテスト走行をやっていました。当時最速のリッターバイクに毎日毎日乗り続けていたので、ゼファーに初めて乗った第一印象は「なんだか走らないバイクだな」というものでした。
まあこの第一印象は、あくまでもZX-10に乗った後の相対的な感覚ですから、だんだんと乗り続けていくうちに、「これならば街中でも充分だし、峠もかなり楽しめるんじゃないか」と思い始めるようになりました。
また、走り始めた季節は2月頃だったので、「なぜこんなに冷たいんだろう?」と思ったものです。カウル付きのバイクが当たり前だったので、それに身体が慣れていたのでしょう。ゼファーがノンカウルであることを、改めて再認識させられました。
サーキットでも、FISCOのようにストレートが長くアップダウンの激しい高速サーキットではなく、中山や筑波サーキットのようなテクニカルコースならば、レーサーレプリカが相手でもいい勝負になると思います。当時は「ZXR250には負けられない」と思いながら、テスト走行を行っていました。
馬力で走るものではなくエンジン性能は割り切って、その分、総合的な乗りやすさを追求した結果、その気になれば走るゼファーが完成しました。レーサーレプリカのように高性能を追求するバイクももちろん必要だと思いますが、このゼファーのように、乗り手に合わせた、無理の利く乗り方ができるバイクも、絶対になくてはならないものでしょう。
ゼファーの誕生に関係したひとりとして、このように売れていることはたいへんな誇りです。完成した時「これはいける!」と思ったそのとおりの結果になったことも、嬉しい限りです。1年目はともかく、2年目に入った今年も売れ続けているということは、ゼファーの扱いやすさがみなさんに受け入れられた結果でしょう。これからも末永くロングセラーを続けてほしい一台です。
