自社初の2ストロークロードスポーツ、MVX250Fでレプリカや2ストの見知を深めた後に市販レーサーRS250Rとの共同開発によってレーサーとの近似度を強めたNS250R/Fは高人気を得た。だが1985年にヤマハが同様にTZ250との近似性を濃くしたTZR250で市場を一変させる。対するホンダはGPノウハウのレーサーを開発した上でそれを公道用にする、という究極の発想でNSR250Rを開発し大ヒットとなり、市場を主導していく。

低中速域のトルクを補い高速域は本来の出力をとつながりよい特性を作る排気デバイス・RCバルブ

その構造上、ポートの面積や高さによって基本特性が決まる2ストロークエンジン。高回転高出力でも低回転のトルクが足らない、逆に低中回転は充実していても高回転は回るだけといった特性を、目的によって割り切るしかなかった。

だが吸気脈動を生かすなど、補機類の進化によって、4ストロークまでとは言わなくても過渡特性を良化し、低回転域を扱いやすくしながら高回転パワーを持たせるということが2ストにも可能になった。

排気デバイスはそのひとつ。1970年代末、世界GPでヤマハがYPVS(ヤマハ・パワー・バルブ・システム。切り欠きのある鼓状バルブを排気ポートに置き、エンジン回転数により排気ポート高さを変えた)をケニー・ロバーツのファクトリーマシンYZR500に使うと、排気デバイスの可能性が知られていく。

2ストロークの市販車にも排気デバイスは応用され、ホンダもMVX250Fにこそ使わなかったが、NS250R/FではNS500のノウハウによってエレクトリックコントロールATAC(Auto controlled Torque Amplification Chamber)を採用する。

これは排気ポート外にサブチャンバーを置き、エンジン回転数を検知してソレノイドがリンケージを動かし、このチャンバー入り口のバルブを開閉する。低回転時はサブチャンバーも生かしてタイミングのよい(吹き抜けのない)脈動圧力波を作り、高速域は主チャンバーのみで排気する。

NSR250Rに採用されたのは、排気ポートに設けた可変バルブをエンジン回転数の上下に応じてサーボモーターで上下に移動させ、ポートタイミングを最適化しようという可変排気ポート式排気デバイス(発表資料には「コンピューター制御の可変排気孔バルブ機構」と記された)、RC(レボリューショナル・コントロールド)バルブだった。

画像: RCバルブ全開(高回転)

RCバルブ全開(高回転)

画像: RCバルブ全閉(低回転)

RCバルブ全閉(低回転)

上左の写真は高回転時のポートの様子で、別パーツ=バルブは上に上がりきり、排気ポート(穴)がそのまま開口している。ポートタイミングは早く取られ、排出ガスの排出量も大きくなって、本来の設計性能=高出力になっている。右の写真は低回転時で、バルブがほぼ全閉と言えるほど下がりポート高さを抑え、開口面積も小さくなっている。

今でもそうだが、こうした新機構には機構そのものだけでなく周辺部にも特許が関わることが多く、RCバルブも他社特許を避けながら最大の効果を得るべく作られた。上掲の写真(左右)はともにNSR250Rシリンダーを下から見たもので、排気ポートを主に見せている(RiseOnの協力により撮影したMC21用シリンダーだが、MC16と基本構成は同じ)。

つまりタイミングを遅くし排出量を抑えて適度なトルクを得るようになる。右の写真の全閉から左の写真の全開までのバルブ作動を連続的に行うことでつながり特性も良くなり、2ストでありがちな唐突さも抑えて全域での特性が良くなるということだ。

なおバルブはL字というか座椅子に近い形で、右の写真でシリンダーに向いて見えるのが座椅子の背中、ポート内に見えるのが座る位置というイメージでいい。写真で見える排気ポート中央の柱(ピストンリング飛び出し等を避ける)を挟みながら避ける左右分割式で、気密を保つべくシリンダー内壁ぎりぎりを上下(回転)し、ポート奥上側に作動軸を持つ。


画像1: 低中速域のトルクを補い高速域は本来の出力をとつながりよい特性を作る排気デバイス・RCバルブ

RCバルブの構成。シリンダーの排気ポート外にL字状(“ギロチンバルブ”と呼ぶ向きも)バルブがあり、その先にバルブ支持アーム/作動軸がある。この軸につながるリンケージにワイヤがつながり、回転数に応じてモーター(上イラスト)でバルブが駆動される。ひとつのモーターで各シリンダーに備わるRCバルブを動かす。


画像4: ホンダ「NSR250R(MC16)」(1986)詳細解説【ホンダNSR伝】
画像5: ホンダ「NSR250R(MC16)」(1986)詳細解説【ホンダNSR伝】

排気ポート外から見たRCバルブの作動。上左の写真はバルブが上がった全開。上右はバルブが下がったほぼ全閉。建造物のシャッターのような全閉に見えないのは、手前に支点があるバルブの形状にもよる。


画像2: 低中速域のトルクを補い高速域は本来の出力をとつながりよい特性を作る排気デバイス・RCバルブ

装飾の少ない印象があるMC16型NSR250Rだが、サイドカウル、「NSR250R」車名の下に「RC VALVE」の文字が入り(ほかはHONDAロゴとマークのみ)、自信を伺わせた。


RCバルブは初代MC16と1988年のMC18前期まではエンジン回転数を検知してそれに応じてコンピュータ制御で作動させ、充填効率を高めた(上のイラストはMC18後期用のものを元に、MC16用に加工したもの)。

1989年のMC18後期からはスロットル開度も検知してマップコントロール化し低回転ガバ開けなどのような状況でも最適な排気ポートタイミングを得るようにした。

大きな開き角と吹き抜けや乱流の少ない基本構造でNSR250Rに一貫して使われたRCバルブは、NSRの代名詞となるとともにNSRの全域で分厚いトルク、最大出力を規制された中でも台形カーブというトルク特性を作り、その走りを大きくサポートした。

This article is a sponsored article by
''.