ホンダ「NSR250R(MC16)」(1986)エンジン解説
新作の90度V2を選択、中回転域の応答性を高め整備性にも配慮したエンジン

初代NSR250Rの90度V型2気筒エンジン、型式名「MC16E」は開発が同時進行した1987年型市販レーサーRS250Rに通じる。NSR250Rは発売即公道走行ができるから発売が10月でも1986年型と認識されたが、レーサーはシーズンオフに入りこの時期に発売された(多くは予約受付)ものは翌年型で、RS250Rは1987年型ということになる。
その共通性の中で、中回転域での優れた応答性や強大なパワー、感覚に訴える振動などの味わいを残しながら、扱いやすい出力特性にするとともに燃料やエンジンオイル(2ストロークオイル)の消費量を改善、整備性の向上などに留意し、1984年のNS250Rや同年を初代とするRS250Rで採用された特殊めっきのNSシリンダーや、コンピュータ制御のオイルポンプ、新排気デバイスのRCバルブ、アルミ製シングルコアラジエーターなどを備えた。
ホンダが250クラスのレーサーでVツインを選んだのは、並列よりも横幅が狭いために前面投影面積が少なくなり空力特性に優れる上にバンク角を稼げる。前側気筒を前傾させる=低く置けることで低重心化でき、前輪分布荷重を増やせるなどの理由からだ。
MC16Eは、同じボア×ストロークで並列2気筒とした場合よりエンジン横幅を約50mm削減しており、前側気筒を水平から20度前傾させてエンジンを搭載、理想的な前後重量配分を得たという。

上の写真でで分かるように、シリンダーは六角柱状。またキャブレターがV型エンジンで多く使われる前後気筒間でなくリヤシリンダー後方に置かれたため、2本の排気チャンバーはそれぞれ前側に向かって伸び、大きく湾曲して(管長を稼いで)、クランクケース下に潜り込む。左右のサイレンサーは総アルミ製で、チャンバーにボルト留めされるフロントプレートとそれに続く外筒を一体成型。後端には湾曲した細いパイプを持たせ、外観だけでなく軽量という機能面でもレーサーのそれを踏襲している。

上は「MC16E」エンジンの混合気の流れを示した図。左上のキャブを通過した新気は混合気となってエンジン(クランクケース)に入り、ケース内でクランクにより圧縮された(1次圧縮)後に吸気ポート→掃気ポート→シリンダー内(ピストン上昇による2次圧縮)→燃焼室と進み、燃焼して排気ポートから排出される。
MVX250Fが積んだV型3気筒のMC09E、NS250R/F用の90度V型2気筒のMC11Eなどは吸入形式にピストンリードバルブを採用していたが、このMC16Eではクランクケース内が負圧の時はいつでも吸入行程が可能などのメリットがあるクランクケースリードバルブに変更した。
クランクケースリードバルブ化でポートの大型化、また吸気ポートが排せるために掃気/排気ポートレイアウトの自由度が増し、シリンダーの剛性を高められるなどの利点があると、ホンダは発表時の技術資料で説明している。

キャブレターはHRCの市販レーサーで早くから使われたフラットバルブタイプだがNSR250Rに採用するにあたり、バルブ本体の横幅をさらに狭くしかつバルブ下端部の形状を滑らかなものとして、低中回転域での吸入抵抗を大幅に低減。バルブ下方で乱気流が発生するのを抑え、吸気速度を高めた。
エアクリーナーボックスはシート下部に設け、5Lの容量を確保。キャブとエンジンをつなぐインシュレーターの上にはチャンバーが生み出す呼吸作用を利用してクランクケース内に安定して混合気を送り込むのを助けるインテークチャンバーを装備する。
上で解説したリードバルブは図のように縦置きで、これはバルブの表面積を広げながらもエンジンの横幅が増えるのを回避した結果。ケース内の正圧、負圧に対する確実なバルブの開閉を求め、バルブの材質は自己振動が少ない樹脂を採用しており、超高回転域でのバルブサージングを防止し、ケースからキャブへの吹き戻しを防止している。

上はMC16Eの透視図で、主な特徴と補機類について触れている。シリンダーは、NS250R/Fなどと同様にNSシリンダー(下イラスト)を採用。
NS500のノウハウでシリコンカーバイドの粒子をニッケル素地に分散させ、これでアルミ製シリンダーの内壁をコーティング(めっき処理)。鋳鉄スリーブが不要となりシリンダー重量が減り、放熱性や強度にも優れる(耐焼き付き性、耐摩耗性が向上)といった利点が挙げられるという。
ピストンはフラットサーフェスタイプでクランクは摩擦抵抗を低減するほか1軸クランクシャフトとし、前後気筒はベアリング部のシールで1次圧縮圧力の抜けを抑える形。分離給油となるエンジンオイルは、MC16EではCDIからエンジン回転数を検知して低回転時の吐出量を適切に抑えながら回転数が上がるとソレノイドバルブが作動して量を増やす。
クラッチの奥に置かれる6速ミッションは、250ccクラス初搭載となるカセット式で、エンジンを降ろさずにミッション本体や変速機構を整備できるのが大きな利点だ。なおこのMC16Eはボア×ストロークΦ54×54.5mmの249.6ccから最高出力:45PS/9500rpm、最大トルク:3.6kgf・m/8500rpmを公称した。
なお、排気デバイスはNS250R/Fが採用した排気サブチャンバー式のATACでなく、排気ポートにエンジン回転数に応じて作動しポート高さ/面積を変える可変バルブ=RCバルブを備えた。RCバルブについては次ページで解説する。

NSR250R(MC16)発売と同時に発表されたHRC(ホンダ・レーシング)製フォーミュラ3KITの概要。動力系パーツが主で、「パワーアップキット」はシリンダーセット/ピストンセット/シリンダーヘッド/CDIユニット/RCバルブユニット/エキゾーストチャンバーセット/キャブレターセッティングパーツ。
「オプショナルパーツ」はドライブスプロケット(14T、16T)/トランスミッション・ドライクラッチ(クロスミッションは湿式仕様も可)/ラジエターCOMP/バックステップセット/メーターセット/ステアリングダンパーセット/ドリブンスプロケット(37T~42T)/リヤークッションアーム(今で言うリンクプレート。キャスターとレバーレシオを変更する)。
ミッションは1986年10月、ほかは1987年1月発売で、NSRをよりサーキット向けにするべく開発したと記載された。

