ヨシムラがGSX-R1100(主に1987年型や1988年モデル)をベースに全日本TT-F1などで培った技術を注ぎ込んで徹底的に磨き上げたトルネード1200ボンネビル。公道で走る楽しさを追求した究極のスーパースポーツは、実に特別な一台だったのである。
まとめ:オートバイ編集部/協力:RIDE編集部

ヨシムラ「トルネード1200ボンネビル」概要

画像: YOSHIMURA TORNADO 1200 BONNEVILLE

YOSHIMURA
TORNADO 1200 BONNEVILLE

国内外のサーキットで培った技術を礎として開発された「ボンネビルキット」

ヨシムラトルネードボンネビルは、いつの日か自らの手でモーターサイクル(レーシングマシンにあらず)を送り出すことをひとつの目標に定めるヨシムラが、そのテストケースとしてスズキGSX-R1000をベースに、究極のスーパースポーツ、コンプリートモデルとして造り上げた一台である。そう、これと同じものは、この世に2台とないのだ。

ただし、高い技術力と生産能力をも併せ持つヨシムラは、コンプリート車を市販はしない代わりに、「ボンネビルキット」と呼ばれるパーツ群を販売していたため、このキットを組んだ車両が何台か存在する。

ボンネビルのベースとなったのは1988年モデルだが、1989年モデル向けのボンネビルキットの開発も行われていた。ともあれ、ボンネビルが「世界最速のストリートバイク」という名誉を維持するマシンであったことは間違いはない。

画像1: ヨシムラ「トルネード1200ボンネビル」概要

ボンネビルのエンジンは純正の76×58mm、1052ccをボア78mmのピストンを使って1108ccへ拡大し、カムシャフト、バルブスプリング、キャブレターなどを変更したものだ。試乗車は、これら全てに加えて、念入りなバランス取りをはじめとするヨシムラワークスレーサー並みの作業が施された上で、キャブレターに限定販売のヨシムラ・ミクニΦ40mmフラットバルブが採用されていた。

ステージ別の出力は、ノーマルの130PS/8500rpmのプラス10PSくらいから設定されているが、この試乗車はなんと170PSと、同社F1マシンより最高速度は上である。また、フロントフォーク、リアショック、ホイール、ブレーキなども大幅に変更されていた。

ボンネビルを走らせると、「圧倒的」という言葉しか思い浮かばないほどに速い。300km/hオーバーする最高速度は到底試せるものではないが、その3/4程度までならごく気軽に楽しめてしまう。それが可能なのは、単に馬力があるからではなく、ピークヘ至るまでの出力特性のよさ、それを完璧に受け止めることのできるシャシー系の実に素晴らしい仕上がりなどによるものだった。

これだけの実力車を乗りこなすのは並のテクニックでは不可能だが、注意深く操れば、その片鱗を堪能することはできる。そして、そのレベルでさえ、得られる喜びの大きさは、何物にも代えがたいと言い切れるだろう。

当時で1100ccをオーバーする排気量のエンジンが軽々と12000rpmまで回り、コーナーの立ち上がりではライダーがその気になればウイリーすらしてしまうほどの馬力を見せつけながら、それでもコントロール可能な範囲内にある、この仕事ぶりは、いくら称賛しても称賛しすぎることはないだろう。

初代トルネード・ボンネビルをベースとした「発展型」もある

画像1: 究極のコンプリートマシン・ヨシムラ「トルネード1200ボンネビル」(1987-88年)を解説|GSX-R1100をベースとした世界最速のストリートバイクが誕生

初代トルネード・ボンネビルをベースにしつつ、各部に細かく改良を加えた発展型も存在。赤と黒のヨシムラカラーやカーボン仕様となったサイレンサー、油圧作動式に戻ったクラッチ、ヨシムラ・ニッシン製ブレーキキャリパー、ニーグリップ部のフレームカバーなどが異なる。

キットパーツとして販売されていた、いわゆるボンネビルキットは、エンジンパーツ/シャシーパーツ/スベシャルパーツに分かれ、個々は講入することも可能なように設定されていた。したがって、コンプリートモデルの台数としては少ないものの、キットパーツはカウルが300セット生産され販売されていた。

画像: ※写真はオーナー車両のため、当時の仕様とは異なります。

※写真はオーナー車両のため、当時の仕様とは異なります。

レーシングマシンのスペックを投入されたスペシャルマシン

GSX-R1100を使ってヨシムラが製作したコンプリートモデルの正式名称が「ヨシムラ・トルネード1200ボンネビル」。市販品のレベルを超えたスペシャルパーツと、レースで培った技術をふんだんに注ぎ込んで、スポーツバイクとしての理想を追求・実現した車両として、ボンネビルはヨシムラ自身にとっても重要なマイルストーンと言えるだろう。

ボンネビルの魅力は、全日本TT-F1で何度もチャンピオンを獲得したヨシムラが、公道で走る楽しさを追求してGSX-R1100を磨き上げた点にある。パワフルでよく止まり、よく曲がる。それを彼らの手法で徹底的に追求したのがボンネビルだった。

エンジンにはΦ78mmピストン、カムシャフト、コンロッド、チタニウム製エキゾーストシステムが開発され、車体にもショーワのスペシャルショックや17インチのワイドマグネシウムホイール、アルミタンクが投入された。こうしてアメリカのヨシムラR&Dで1台のプロトタイプが製作され、日本に逆輸入されたのである。

TT-F1やデイトナを走るレーサーを彷彿させ、止まっていても速さを感じさせる。凄みと力強さが存分に伝わってくる黒いGSX-R1100は、かつてヨシムラが販売したトルネード1200ボンネビルキットを組み込んだスペシャルマシンである。このキットは、エンジン、シャシー、スペシャルという3つのブロックに分かれたパーツ群で構成されており、各ブロックをまとめて購入することも、個別に購入することも可能だった。

画像2: ヨシムラ「トルネード1200ボンネビル」概要

当時、試乗と撮影に使用した車両はヨシムラジャパンが開発を行ったテストマシンであり、細部に至るまで徹底的にチューンアップが施されていた。また、ワークスレーサーが使用するマグネシウムボディのミクニ製フラットバルブキャブを装着し、取材に合わせて外装パーツをブラックに赤のピンストライプへとペイントしてくれたという、実にスペシャルな一台。

レース活動やパーツの販売に加え、公道を走れるコンプリート車を販売したいという考えをヨシムラは抱いており、ボンネビルキットはその実現に向けた第一歩であった。キットの発売が知られると多くの注文があったそうだが、レース活動の多忙さからコンプリート車の製作依頼に対応できず、実際にコンプリート車として世に出されたのはごく少数(一説には3台)で、しかも非常に高価だったという。

さらに付け加えると、この取材車の仕様で売るなら価格は? という問いに対し「工賃など計算しにくい部分もあるが、500万円前後では」という返答があったと当時の記事に記されてあった。もしも時間を戻せるのであれば、ぜひ購入したいと思う読者もいるのではないだろうか。

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