アドベンチャーの王者といえば、やっぱりBMW、GSシリーズ。けれど最高峰R1250GSとなれば、乾燥重量300kgのスーパーヘビー級……。でも、大丈夫! 気軽に楽しめる「G」があるのだ!
文:中村浩史/写真:島村栄二

BMW「G310GS」インプレ

画像: BMW G 310 GS 総排気量:312cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ単気筒 シート高:835mm 車両重量:175kg 税込価格:77万4000円~

BMW G 310 GS

総排気量:312cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ単気筒
シート高:835mm
車両重量:175kg

税込価格:77万4000円~

全天候型ロングラン可能それがアドベンチャー

試乗を始めてすぐに雨が降り出した。撮影日は初夏、梅雨明けしたとニュースで言っていたけれど、不安定な天気が続いていた。この日の予報でも、夕方までは大丈夫、と言っていたのに、降り出しが予報よりも何時間も早かった。

けれど、不思議と撮影を中止して雨が止むのを待ったり、レインウェアを着込む気も起きなかった。ちょっとくらいの雨ならいいやぁ、夏雨じゃ、濡れて参ろう、と気分はまるで月形半平太こと武市瑞山だ。これが、アドベンチャーの大きな魅力なのだ。

G310GSは、ロードモデルG310Rをベースにオフロード風味を味付けしたアドベンチャーモデル。アドベンチャーモデルに正確な定義はないけれど、オンロードモデルにオフロードアレンジ、または逆にオフロードモデルにオンロードアレンジを施して、ロングツーリングに向いた、行動範囲の広いオンオフ共用モデル、といったところだろうか。

オンロードベースにオフアレンジをしているアドベンチャーといえば、スズキVストローム250/650/1000やヤマハ・テネレ700、ハーレーのパンアメリカなんかもこちら。

逆にオフロードベースでオンアレンジといえば、ホンダCRF250ラリーなどが思い浮かぶ。ヤマハセローツーリングなんかもこっちだろう。

そんなアドベンチャーのキャラクターは、とにかく長時間乗っていても快適だし、オンロードを軸にオフロードまで踏み入って行けたり、オフロードをベースにオンロードをこなす、という行動範囲の広さが挙げられる。

そして、実はアドベンチャーは、どんな走行条件でも走っていられるモデルだ。それが冒頭の部分。ツーリングしていて不意にゲリラ豪雨に見舞われても、視界さえ確保できていれば走り続けていられるし、ウィンドプロテクションもしっかりしているから、冬の寒さへの対応力も高いことが多い。

アップライトなポジションによるアイポイントの高さ、前後タイヤがしっかり接地している安心感、そして全天候型の対応力。だからアドベンチャーは旅人に愛されるのだろうと思う。

G310GSで走っていて、雨が降り出しても停まりたくなかった気持ち。実はこれこそがアドベンチャーモデルである証拠なのだ。どこか遠くへ、走りに行きたくなる旅バイクだ。

画像1: BMW「G310GS」インプレ

BMWの開発&品質管理で新しいアイディアを投入

まずもってG310GSは、BMWのアドベンチャーラインの末弟に当たるモデルだ。BMWのGSシリーズといえば、アドベンチャーキングR1250GSを筆頭に、F850GS、F750GSに続く312cc。日本では普通二輪免許枠のモデル。

もちろん、日本仕様として開発されたわけではなく、アジア圏や中南米向けのスモールGS。BMWの歴史の中では1953年のR25以来の、日本市場の「普通二輪」にあたるモデルだ。

そこが、日本で注目された理由のひとつ。というのも、BMWといえば、クルマ、バイクを問わず高級車のイメージがあり、大人の大排気量車、それに高価なモデルという認識があるブランドなのに、そこに312ccで、当時の販売価格も消費税込み58万円のG310Rが発売されたのだ。

この価格は、ヤマハMT-03やホンダVTR250、KTM390DUKEあたりと同じ価格帯で、国産モデルとの価格勝負もできる「プライスバリューの高いBMW」と日本市場、いや世界各国に受け入れられたのだろう。

ちなみに開発と品質管理はBMW本社で、生産はインドのTVSモーターカンパニー。TVSはインド国内ではモペッドやミニバイク、3輪バイクまで生産している大メーカーで、アジアロードレース選手権でワンメイクレースが行なわれている「TVS選手権」のOEMモデルとして、アジア圏内で人気急上昇しているモデルだ。

画像2: BMW「G310GS」インプレ

G310GSの基本パッケージは、そのG310Rと同じ。スモールサイズのシングルエンジンモデルで、車格はG310が国産250ccクラス、G310GSはちょっと大きくて400ccクラスと考えればわかりやすい。ホイールベース、車重、さらにエンジン排気量を考えると、KTMの390アドベンチャーにかなり近い。

車体の構成はごくオーソドックスで、水冷シングルエンジンをパイプフレームに搭載し、フロント倒立フォーク、リアにモノサスを組み合わせたストリートバイク。けれど、エンジンにはBMWらしいオリジナルな新しいアイディアが投入されている。

DOHC4バルブヘッドを持つ水冷単気筒は、エンジンマウントが通常の逆、つまり前方吸気/後方排気なのだ。これは、エキパイをフロントホイール側に出さないことでエンジン搭載位置を前に持って行き、前荷重を稼いで軽快なハンドリングとしているのだ。

これでスイングアームを長く取ることができ、リアサスの動きのよさにもつなげている。動きがいいから乗り心地が良く、大柄なライダーが長時間乗っても、疲れが少ないことにつながっている。これも、G310GSのキャラクターに貢献しているのだ。

画像3: BMW「G310GS」インプレ

ロングツーリングにベストマッチするスモールGS

走り始めると、G310Rのコンパクトさとは大違いの大柄なライディングポジションが際立っている。もちろん、R1250GSのようなヘビー級ではなく、スモールサイズというよりミドルクラス的な印象。シートはクッション厚があって足着き性をやや犠牲にしているけれど、どちらを優先するか、でGSはシート厚やサスペンションストロークを取ったのだ。

エンジンの回り方は、まさに水冷DOHC単気筒のそれで、単気筒らしいドコドコ感というより、吹け上がりが軽く、シャープだ。アイドリング域すぐ上からトルクがあって、回転を上げなくても発進がラクだった。

現行G310R/GSは、初期モデルをベースに2021年モデルとしてマイナーチェンジが施されていて、スロットルバイワイヤ、スリッパークラッチを追加している。そのためか、初代モデルよりもスロットルレスポンスが鋭くなったフィーリングだ。
 
バーグラフ式のタコメーターが4000回転以下あたりのエリアで街乗りをこなすことができて、トップ6速で3000回転ほどで街乗りのほとんどをこなすことができる。回転を上げるよりも、とんとんと高いギアにあげていくような走りは、普通免許モデルというよりビッグバイク的だ。

盛り上がってくるのは4000回転以上、そして6500回転といったあたりで、もう一段グンとスピードが乗ってくる。このあたりの回転域ではレスポンスがさらにダイレクトで、アクセルを空けた瞬間のツキがいい。まるで400ccオーバーの排気量かと思うパワーだ。
 
しかし、なんといってもGSは高速道路のクルージングで本領発揮するモデルだった。310Rよりも10kgほど重い車体は安定感が抜群で、フロント19インチホイールのおかげもあってか、直進安定性も強い。安定感があることで、スピード感がなく、100〜120km/hの巡行で、スピード出しすぎ感がまったくなかったのだ。

トップ6速でのクルージングは、80km/hが4800回転、100km/hが6000回転、120km/hが7200回転といったところ。310ccといえども120km/h巡行が快適で、ここでも車体の快適性がロングランに向いていることがよくわかる。

ハンドリングは、安定感をたっぷりとった乗り心地のいい動き。シャープな運動性というよりも安定感を重視している印象で、これはG310Rも似たようなフィーリング。ただフロントの車高が高い分、GSの方が直進安定なキャラクターが強いだろう。

これは、前述したエンジン搭載位置やロングスイングアームの効果なのか、安定性がある中で動き出しの軽快感がうまく両立されている。少しワインディングに踏み込んでみても、車体の重さを感じることなく、恐怖感のない安定感と軽快さが上手く同居している感じだった。ビギナーからベテランまで乗る人を選ばないモデルなのだろう。

画像4: BMW「G310GS」インプレ

アドベンチャーだけに、ちょっとロードサイドのブッシュに踏み込んでみたら、装着タイヤがメッツラー・ツアランスということもあって、ちょっとしたダートならばまったく不安はなし。ロードでグリップするタイヤなのに、未舗装でもちょっとしたガレ場でも、不安なく踏み込んで行けるキャラクターだった。

舗装路から脇道に入って、ロードバイクでは入って行けないような絶景ポイントにも、G310GSならば躊躇なく到達できる。それもアドベンチャーモデルを選びたい理由のはずだ。

渋滞の一般道を抜けて高速道路に乗り、郊外のバイパスを流してワインディングへ。そこから、いつもは入って行かない脇道に踏み入ってキャンプ場まで。そんな、日本にぴったりのツーリングにジャストフィットするキャラクターなんだと感じさせられた。これぞ、排気量は違えど、BMWのGSシリーズらしい性格付けなのだ。

遠くに行きたいな、アドベンチャーなんかいいな。でもあんなヘビー級のバイク、乗れないしな…そんな思いのライダー諸君、G310GSがあるじゃないか!

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