油冷から水冷へが発端で車体データを合わせた
「テイスト・オブ・ツクバのハーキュリーズクラスも最近はいろいろと新しいマシンが出てきて、GS1200SSでやってきた#82の谷さんも油冷エンジンではパワーの面でも、パーツ供給でもきつい。じゃあ水冷エンジンを移植しようかって、それがきっかけです」
カスタムファクトリー刀鍛冶の石井さんはこの車両について言う。鉄フレーム以外の制限がない(後述)DOBARハーキュリーズクラスにはオリジナルフレームに現代スーパースポーツエンジンを積んだ車両が続々参戦し、元々の’80~’90年代エンジン車は苦戦を続けてきた。
刀鍛冶でも油冷エンジンに1277cc化ほか多くのチューニングを施して160PS仕様とし、GSX-R1000K5ディメンションのオリジナルフレームとカタナ外装を組み合わせた“刀”を#34行方知基選手に託し、最高位3位(’23年春)を得た。それも次へのパワーアップを図るべく、ハヤブサエンジンへのスイッチが現在進行中だ。この車両ではどうか。

「谷さんが’09年型のGSX-R1000K9を持ってらしたので、“これが載るやろ”って手を付けて。これまで参戦してきたGS1200SSの時代(GS1200SSは元から17インチ車だ)にも足まわりのセットアップは進んでいましたから、同じに作れば多少セッティングをいじるくらいで行けそう。それなら車体はGS1200SSのままで行けるねって」(石井さん)
フレームは前の#82車(水色×白のカウル)のものでなく、石井さんがたまたま持っていたというGS1200SS用が元になった。この“たまたま”がこの車両には結構効いてくる。リヤは従来の谷さん車同様のモノサス化を行い、ダブルクレードルのダウンチューブをカットしてGSX-Rエンジンを合わせてみる。ここしかないという前後位置があり、スイングアームピボットやスプロケット(出力軸)位置、チェーンラインもと、3次元で調整する。
そこに置かれたエンジンに合わせてフレーム前サイドにスチールパイプを溶接してその先にアルミエンジンハンガー部を追加。このあたりのフレームワークや加工、調整は刀鍛冶&石井さんの得意とするところだ。改めて吸排気を装着……となったが、この車両はキャブレター仕様となっている。

▲写真は2025年5月に開かれたTOT SATSUKI-STAGEを走る、谷さん+GS1200SS。
「ハーキュリーズではキャブとFIでクラス分けするというような話(’26年1月の取材時。’26年2月に、同年5月のSATSUKI-STAGEからはハーキュリーズがキャブレター車のみに変更。また制限が鉄フレームのみというHYDRAクラスが新設され、FIだとこちらになる旨の発表が筑波サーキットから行われた)が出てはいましたが、それとは関係なしに“刀鍛冶としてはキャブ”だったんです。今付いているのはダウンドラフトのTDMR40。#34車で使うハヤブサエンジン用に、知り合いからオークションからめちゃくちゃ探しまくっていたんですね。ないならFCRで行くかと思っていたところに、ドイツのキャブ屋さんから“最後の20セットが出荷される”と聞いて、ひとつ譲ってもらえたんですよ。
その後ハヤブサエンジン用には’99~’01年のキットパーツ用TDMR42の程度いいのが手に入ったので、TDMR40はこちらに譲りましょうとなって付けました。GSX-R1000エンジンに付けるためにピッチも高さもすべて作り変えてもらって。それでキャブを付けてエンジンをフレームに積んだら、FI仕様で積んだ位置合わせの時よりもスペースが厳しい。なのでファンネルも短いのを作ったんです」
そうして狙った位置にエンジンとキャブレターは付き、排気系はアクラポビッチのフルエキゾースト。左右出しになっているのはエンジンがGSX-R1000K9、つまり純正でもこのレイアウトだから。よく考えれば、カタナ純正も4-2-1-2の左右出しだ。石井さんもカタナらしくてかっこいいと、この仕様に納得する。

フレームに話を戻すと、ダブルクレードルからダウンチューブをカットして落ちた分の強度を戻すために新たなダウンチューブを製作、シートレールもアルミで新作。アルミタンクやラジエーターステー等も石井さんが次々と作っていき、車体まわりができた。
ここまでくると仕上げは外装。同店が“刀”レーサーで使ってきたものと同じ外装=前後カウルとタンクカバーが載る。
「エンジンもタンクもフレームに載せたところで、カタナになるんじゃないのって“刀”のタンクカバーを冗談で載せてみたら谷さんもかっこいいと言う。じゃあカタナにしよう、刀鍛冶で走るんだしという具合でした」
こうして完成したのがカタナルックの新GS1200SSだった。シェイクダウンは’25年11月のTOT・KAGURADUKI-STAGEのレースとなった。予選は1分00秒240で17位(総合19位)、決勝も13位(総合14位)と、デビューでの手応えは十分にあったようだ。
「パワーが後軸で184PS出ていて、軽くなったので他とも競り合えるようになりました。油冷の時は140PSそこそこでしたし。燃料タンクもGS1200SSの時より短くなってライダーが身体を動かしやすく、乗りやすくなった。スーパースポーツエンジン+キャブレターというのも、点火系にPE3ユニットを使うことを教えてもらって使えるようになった。全体のパッケージとして正解かなと思います。
ただパワーが出た分、足まわりは従来の仕様では柔らかくなってしまうので、そこは調整していきます。何年か乗っていくでしょうけど、そんな変更で進めて行けそうですから、これから楽しみです」
たまたまのエンジンにフレーム、外装のスズキ・ミックスでできた新しいスタイル。これで“刀鍛冶のカタナ”は完成を待つ#34ハヤブサエンジン“刀”との2台が同ルックスで揃う。
「カタナ2台で1-2フィニッシュできたらいいし、それは狙いたい」と、石井さんには新たな楽しみもできたようだ。
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Detailed Description 詳細説明

フューエルインジェクションのGSX-R1000K9エンジンの燃料供給をキャブレターに換えたため制御/点火にはJAM扱いのパフォーマンス・エレクトロニクスPE3・IG2を使い、ユニットをフロントカウル内のカウルステーにセットした。

フロントマスターはブレンボ・レーシングでセパレートのハンドルはベビーフェイス、メーターは多機能ワンパネルのAim・MXm+ヨシムラPRO-GRESS1の組み合わせ。

空冷カタナ形状の外装は刀鍛冶“刀”用のカーボン製オリジナルが載せられる。

フレームはGS1200SSのスチールダブルクレードルがベースで、ヘッドパイプから下に伸びるダウンチューブをカットし、フロントサイドにスチールパイプを加えてその先にへの字状のアルミハンガーを新作してGSX-Rエンジンを積む。その上でダウンチューブカット分の強度を取り戻すべく当該部(写真中央下)はアルミで作り直している。

燃料タンクは石井さんのアルミハンドメイド。この写真でTDMR40キャブレターとフレームの近さ、それをクリアすべく作られたショートエアファンネルの短さも分かるだろう。

GS1200SSのツインショックをモノサス化するのは谷さんが走らせていた前車両に同じ。シートレールも刀鍛冶のアルミハンドメイド品で、ここにカーボンのシートカウルが載るのだ。

フレームはスイングアームピボット部を見ればGS1200SSベースと分かる。リヤはモノショック化され、別項で説明した新作ダウンチューブはエンジン前から下に這うように作られている。

油冷から水冷に変わったエンジンは谷さんが持っていたGSX-R1000K9のもので、この車両にはキャブレター仕様として搭載。そのキャブは石井さんが持っていた新品のミクニTDMR40。ステップとステムはウッドストック、スライダーはベビーフェイスを使う。ダイノジェット・クイックシフターも見える。

フロントフォークはオーリンズ倒立でブレーキはニッシン・ラジアル4Pキャリパーにマジカルレーシングのクーリングダクトを加え、アドバンデージ・ダイレクトレーシングドライブディスクを組み合わせた。

リヤキャリパーもニッシンで排気系はアクラポビッチ・フルエキゾースト。GSX-R1000K9純正が左右出しなのに準じてこれも左右出しとしてある。

リヤはGSX-R1000K5スイングアーム/リンクにオーリンズTTXショック。3.50-17/6.00-17サイズの前後ホイールはゲイルスピードTYPE-SでタイヤはメッツラーRACETEC RR の120/70ZR17・200/55ZR17サイズを履く。ドライブチェーンはD.I.Dの520サイズだ。






