1988年1月デビューのCBR400RRだった。1986年7月に登場したフルカバードボディのCBR400Rをベースにフレームや前後足まわり、外装を変更。エンジンはシリンダーヘッドを刷新、排気系も改めレプリカ路線に進んだ。
写真:平野輝幸/まとめ:岡本 渉/協力:バイカーズステーション、佐藤康郎、H&L PLANNING
※本記事は2025年7月2日に発売された『レーサーレプリカ伝 4ストローク編』の内容を一部編集して掲載しています。
ホンダ「CBR400RR(NC23)」(1988年)の各部装備・ディテール解説

ホイールベースはCBR400Rより10mm短い1370mm、キャスターは26度から25度15分に立てられ、トレールは102mmから95mmに減少。左右ステップもレーサーを意識した構造で、鍛造製として強度を高めたブレーキ/チェンジペダルをステップバーと同軸に装着することで、滑らかな操作性を得ている。
17/18インチ径は不変だが、タイヤは、フロントが100/80から120/60、リヤが130/70から150/60と2サイズずつ太くされ、構造もバイアスからラジアルに変更。60%という扁平率は当時のレーサーに倣って選択されたものだ。

フレームは、ヘッドパイプとスイングアームピボット上方を直線的に結ぶアルミツインスパーで、左右のメインレールは6角形の目の字断面材を使う。基本はCBR400R用と同じだが、ニーグリップする部分を大きく内側に絞り込んでいる。車体を挟みやすくすることで一体感を高め、上半身を大きく前傾させなくてもレーサーに通じるピッタリとした乗車感を味わってもらおうとした開発意図があったという。

スイングアームはCBR400Rと同様にアルミだが、直線的な左右レールを用いる一般的な構成から、上部にサブフレームを追加することで横からは3角形に見えるトライアームに変更。V型4気筒のレーサー、RVFの片持ち式アーム(プロアーム)で得たノウハウで設計され、横およびねじれ剛性を大幅に高めている。鋳造製で、加えると市販車でこの製法のスイングアームを採用したのはCBR400RRが初だったという。
リヤサスはボトムリンク式ではなく、左右レールとほぼ水平まで前傾させたショックユニットでスイングアーム上部とフレームをダイレクトに連結。ショック本体はカムでプリロードが変化、縮み側と伸び側の双方に専用の減衰力バルブを備える“2ウェイバルブ・ダンパー”を採用。当時のホンダ車が誇る最先端のリヤショック関連の技術で、その時点で国内でのホンダ・フラッグシップだったCBR750スーパーエアロもこの機構を装備した。

ヘッドライト両脇の開口部からカウルの内側に沿ってダクトを伸ばし、キャブレターに空気を導くための“フレッシュエアダクトシステム”を採用。エンジンの熱で燃料の気化が影響を受けるのを防ぐために新鮮な空気を直接キャブに導くのが目的との説明があり、充填効率を高めるラムエア方式とは狙いが異なる。

正立フロントフォークは、インナーチューブをΦ39→41mmに大径化して剛性を向上。フリーバルブの構造を見直すなどで作動性を高めている。ボトムケース上端部に白い樹脂製のリングを介してフロントフェンダーを装着、これもレーシングマシンを意識した作りだ。アルミキャストホイールもRR専用で、3本のスポークをS字断面から中空構造として重量を削減。

メーターは、中央に16500rpmが上限、14500rpmからがレッドゾーンのタコメーターを配置。速度計は左下にあり、190km/hスケールだが文字は180km/hまで。オド/トリップは今となっては懐かしい機械式だ。右端には同じく指針式の水温計を配備。キーシリンダーに隠れてよく見えないが、速度計の右下には、ウインカー、オイル、ニュートラル、ハイビームの警告灯が四角形に並べられる。Φ41mm正立フロントフォークはエアアシスト式で、左右のトップキャップにエアバルブが見える。

樹脂製のリザーバータンクやダイヤルで開き角を調整できるレバーを組み合わせるフロントブレーキのマスターシリンダーもレーサーを思わせる装備。ワイヤ作動のクラッチ側は実にシンプルな構造で、レバーの開き角を調整する機構は持たず。

樹脂製のリザーバータンクやダイヤルで開き角を調整できるレバーを組み合わせるフロントブレーキのマスターシリンダーもレーサーを思わせる装備。ワイヤ作動のクラッチ側は実にシンプルな構造で、レバーの開き角を調整する機構は持たず。

CBR400Rが元の399.1cc(Φ55×42mm)水冷DOHC4バルブ並列4気筒は、ロッカーアームを廃してバルブ直押し式にするなどシリンダーヘッドを変更。吸排気バルブはステム径をΦ3.8mmと細くしながらIN/EX:Φ22/Φ19.5mmと傘径を大きくし、摺動抵抗を減らしつつ吸気効率を高めている。

燃料供給はメインボアがΦ32.5mmの負圧式キャブを4連装着。排気系は4-2-1構造で、排気効率向上とともに迫力ある排気音の追求も行われた。カートリッジ式フィルターの基部にも水冷用のクーラントを循環させてエンジンオイルの温度を下げる水冷式オイルクーラーをここで早くも導入している点にも注目されたい。

最大トルクは10000rpmの発生回転数は変更せずに3.8→4.0kgf・mに増加している。最高出力:59PS/12500rpmは不変だ。

サイレンサーはアルミの一体成型品。肉抜き穴を持つステーやバンドで吊り下げる装着方法はレーサー的な演出と言える。

フロントブレーキは、焼結パッドを装着したピンスライド片押し2ピストンキャリパーとΦ296mmフローティングディスクをダブルで装着。スピードメーターのギヤボックスをフロントホイールの軸受け部からエンジン後部に移動することで、バネ下重量を削減するとともにすっきりとした外観を得た。

リヤブレーキは、肉抜き穴を持つソリッドディスク(外径は未公表)と、片押しシングルピストンキャリパーの構成。ブレーキ関連のパーツはニッシン(現・日立Astemo)で統一される。キャリパーをスイングアーム上側に配してマスを集中させており、ホンダ製スポーツ車は当時から現代までこの配置とする機種がほとんどだ。
ホンダ「CBR400RR(NC23)」(1988年)の主なスペック・当時価格
| 全長×全幅×全高 | 2020×690×1110mm |
| ホイールベース | 1370mm |
| 最低地上高 | 120mm |
| シート高 | 765mm |
| 車両重量 | 162kg (乾燥) |
| エンジン形式 | 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒 |
| 総排気量 | 399cc |
| ボア×ストローク | 55.0×42.0mm |
| 圧縮比 | 11.3 |
| 最高出力 | 59PS/12500rpm |
| 最大トルク | 4.0kgf・m/10000rpm |
| 燃料供給方式 | キャブレター(VG04) |
| 燃料タンク容量 | 15L |
| 変速機形式 | 6速リターン |
| キャスター角 | 25°15' |
| トレール量 | 95mm |
| ブレーキ形式 前・後 | Φ296mmダブルディスク・ディスク |
| タイヤサイズ(前・後) | 120/60R17・150/60R18 |
| 発売当時価格(1988年) | 69万9000円 |
