スーパースポーツのコンプリート車では3台目となるトルネードIII 零-50(ゼロ・フィフティー)。これまでのモデルと決定的に異なるのは、レースで培われた技術を市販車に落とし込む、というより、レーサーに保安部品を付けただけにも思えるマシン設計であったことだ。
まとめ:オートバイ編集部/協力:RIDE編集部
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ヨシムラ「トルネードIII 零-50」概要

画像: YOSHIMURA TORNADO III ZERO-FIFTY

YOSHIMURA
TORNADO III ZERO-FIFTY

限定5台で登場した3代目トルネード「零-50」

トルネードIII 零-50は、GSX-R1000を基に製作されたヨシムラのレーサーを公道走行可能にしたレプリ力とも言えるマシンで、スーパースポーツのコンプリート車としては三台目にあたる。ここまで本物を追求したものは、これまでなかったと言ってよい。このマシンには、ヨシムラがGSX-R1000に求める究極の方向性が凝縮されていると言えるだろう。

実際、今回の峠道の試乗でも、ヨシムラがこのマシンに何を求めたかが、明確に伝わってきた。それは、GSX-R1000という素材の美点を生かしつつ、サーキット走行における欠点を克服し、とにかく純正よりも、はるかにレーサーそのものだった。

純正の車体は、最新の競合車よりタンクが長く、ハンドルがやや遠いため、乗車姿勢に特徴がある。これは、制動時の減速に対するホールド性などを考えると適当かもしれないが、体重移動の自由度はもっと高くてもいいような気もする。

今回試乗した零-50に装着されたアルミ製タンクは、前後長を同等としながら、後部上面の膨らみを抑えることで、ライダーの下腹部との干渉を避けている。ハンドルが低くなっているため上半身の前傾度は強まり、それに合わせてステップも上方かつ後方に移動しているが、その乗車姿勢にもこのタンクは見事に適合し、体重移動の自由度もフィット感も最高だった。

公道走行車としての評価をつけ加えておくと、足つき性は純正より劣るものの、同クラスの市販車と比べても劣悪ではなく、バックミラーの視認性も悪くなかった。ただハンドルの切れ角はレーサー並みに小さかった。

画像1: ヨシムラ「トルネードIII 零-50」概要

このカテゴリとしては異例のロングストローク傾向である純正のエンジンは、ツアラーと見紛うばかりの太い低中回転域のトルクを持っている。一方、零-50では、全域でトルクを上乗せしながら、特に高回転域を強化、スーパースポーツらしくサーキットを攻めやすい特性となっていた。それでいて、トルクカーブの起伏はほとんど感じられず、滑らかさはベース車の相似形を思わせるほどだった。公称される後輪出力は約175PSと強力だが、その性能は非常に扱いやすいと言えるだろう。

とはいえ、低中回転でのパワー感は、よくも悪くもレーサー的。純正がスロットルを開いた際に背筋が高まり、充填効率の向上とともにムワッとトルクが湧き出るのに対し、零-50は排気の抜けが良すぎるため、ある程度開いてからトルクが高まる感じがして、微妙な操作感や味わいに欠けた。感覚的にもトルク感は希薄なわけだが、そのおかげでギクシャクしたり、ドンツキはなかった。

そのため、峠道では6000rpm以上を保つことになる。そもそもこれ以下は狙った領域ではないのだ。その代わりに、本来の領域でスロットルを開けると、シャープにトルクを取り出すことができ、フリクションなくトルクが後輪に伝わり、トラクションをダイレクトに感じることができる。

等間隔爆発の並列4気筒であっても、右手の手中にあって弾けるようなトルク変動がみずみずしく後輪に伝わるのは、いかにも上質の4ストレーサーらしいフィーリング。これは、トラクションコントロールの要求に応えて追求されてきたことでもあろう。

コーナリング性能も純正の素直さをベースに高次元化。初期旋回では比較的明確に舵角がつき、その分しっかりと曲がり、ステアリングの動きも軽快である。これだけ舵角がつくと 車体が起き上がったり、ラインがスムーズでなくなることもあるが、零-50はそのまま旋回性を高めてくれる。

スロットルを開けて次旋回に移行すると、ますますレーシングマシンを思わせる。上がったリアに対し、スイングアームピボットを下げてアンチスクワットを適正化、立ち上がりを小さくしたリンク特性と相まって、リアサスは変に突っ張らず、はるかにコントロールしやすく、スロットルを開けながらでもグイグイ曲がることができ、ラインの自由度も高い。

画像2: ヨシムラ「トルネードIII 零-50」概要

また、純正ではフル加速で前後とも持ち上がるかのようにダッシュする傾向があるが、零-50の姿勢変化は自然で加速状態でもコントロールしやすい。前後ショックは、レース用ながら公道用に対応させており、日常域でも姿勢変化は容易だ。

ただゆったりとした波状路を流すと減衰力の過多により凹凸を吸収しきれない場合があり、路面の状況をありありと伝える半面、それが硬さとして感じられることもある。だが、ダイレクトな接地感は信頼感につながり、フルバンクで荷重がかかるとさらに安定感も増してくる。

ブレーキは言うまでもなく絶品である。効きは強力でも尖って感じられず、扱いやすい。また、これだけのブレーキが目立って感じられることがなく、全体の性格に溶け込んでいる。すべてが高水準なのである。

希望を言わせてもらえば、峠道で得られる芸術的要素を考えたセッティングを施したうえで、オーナーに手渡されることを期待したいところだが、そうした思いに駆られるのも、これが究極のロードゴーイングレーサーであることの証なのだ。

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