「サーキットで培った技術をユーザーに還元する」という方針の下、GSX1300Rハヤブサをベースに組み上げられた・ハヤブサ X-1。その誕生に至る経緯や、Xフォーミュラの技術が存分に生かされた各部の装備・ディテールを深掘りする。
まとめ:オートバイ編集部/協力:RIDE編集部

ヨシムラ「HAYABUSA X-1」概要

画像: YOSHIMURA HAYABUSA X-1

YOSHIMURA
HAYABUSA X-1

ヨシムラスペックを多くのユーザーが楽しめるようにと100台限定で発売

1999年、ヨシムラはGSX1300Rハヤブサをレーサーに仕立て、Xフォーミュラに挑戦することを決意。この英断の背景には、レースコンストラクターでありスペシャルパーツメーカーでもある同社ならではの「サーキットで得た技術をユーザーに還元する」という考えがあった。実際、ピストンやカムなどのハヤブサ専用品が、同社製パーツのラインナップに新たに加えられた。

しかし、ヨシムラの「ハヤブサプロジェクト」は、それで終わりではなかった。ハヤブサX-1の開発という第二章があったのである。しかも、この車両には、売値を抑え、量産と呼べるだけの台数を造るという前提条件が定められていた。

この点で、レーシングキットパーツを随所に盛り込んだ「トルネード/トルネードF-1」や、マグネシウムキャブなどレース用スペシャルパーツを贅沢に使った「トルネード1200ボンネビル」といった、極めて高価でごく少数しか生産されなかった過去の完成車とは異なっていた。

誰の力も借りず、独自に編み出した手法で能力を高め、1999年のXフォーミュラを制したヨシムラには、ハヤブサに関する膨大なデータとチューンアップへの確固たる自信があり、それこそどんなマシンでも造ることができた。しかし、手を加えたりパーツを交換する個所を増やせば、そのぶん手間がかかり、台数を望めなくなる上に価格も高くなってしまう……。今回のハヤブサX-1の場合、そのやり方ではダメだったのだ。

画像1: ヨシムラ「HAYABUSA X-1」概要

価格は200〜300万円を目安に、その範囲内で可能な最高の仕事をする。純正の性能を凌駕するのは当然だが、さまざまなユーザーが想定されるため、誰もが臆せず乗れ、市街地も走れる特性を持たせる必要がある。それでも、チューンアップされたマシンであること、そして、それがヨシムラによるものだと感じさせる個性を与えなくてはならない。

エンジンやショックなど、ユーザーには難易度の高い部分にはしっかりと手を加え、それ以外はあえて純正か、あるいは高性能化させたパーツを使用することで、購入後に自分だけのハヤブサX-1を造る、つまり「カスタマイズ」というオートバイ乗りにとって大きな楽しみも同時にユーザーに提供。さらに、眺めても満足できる、このマシン固有のフォルムを造り上げる外装部品も開発した。

以上のコンセプトが掲げられ、それに従ってエンジンや車体などの担当者が仕様を絞り込み、実際に造って何人かで試乗、狙い通りの仕上がりかを確認した。初めて試作車が走行したのは1999年10月で、あのハンドリングを実現するために着座位置を検討したり、エンジンが予想以上の馬力を発揮したため、フロントフォークの内部パーツの製作をメニューに追加したりと、細部の材質や形状、表面処理などを変更していった。最終的な仕様が決まったのが2000年2月で、量産が本格的に始まったのが、同年3月上旬だった。

画像2: ヨシムラ「HAYABUSA X-1」概要

100台限定のうち、最初の8台が出荷されたのは2000年3月13日。そこに至るまで、開発チームの努力はもちろんのこと、電装部品の装着や、塗装が施された外装を丹念に磨き上げるなど、完成までの多岐にわたる作業に携わる多くのヨシムラスタッフによってプロジェクトは支えられていた。

価格を定め、量産を前提に開発するのは同社初の試みだったため苦労が多く、量産体制の構築や人員の配置を考えることも同様に未経験で、車両開発・製作以外の部分でも苦労も絶えなかったそう。

ハヤブサレーサーの外装も手掛け、それに通じるハヤブサX-1用を新たに製作したデザイン工房YDSの協力なくしては純正の面影を残しつつ独特の雰囲気を漂わせたあの姿は生まれず、販売ルートの確立もスズキの支援がなければ、多くの手が加えられたハヤブサX-1を256万円で販売できなかった。

純正から変更した部品については、すべてに部品番号が用意され、ヨシムラで管理され、オーナーには部品を注文するためのパーツリストや特典品が進呈された。さらに、試乗車が装着していたクロスミッションに加え、燃料噴射のセッティングを変えるイグニッションアジャスターやリアショックなど、ハヤブサX-1専用に開発したオプショナルパーツも充実させていた。

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