文:中村浩文/写真:松川 忍/まとめ:オートバイ編集部/協力:Bikers Station
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ヨシムラ「KATANA1135R」インプレ

様々なカタナを乗った上で語る最上級な仕上がりと性能
1135Rは、製作当時のヨシムラらしい、走りを意識したチョイスで構成されている。エンジンは、それまでヨシムラが発売してきたパーツを使用した標準的な仕様で、カムもハードすぎないストリート向けともいえるST-1。排気量は当時の通常ラインアップだったΦ47mmピストンを使用した1135cc。
しかし、これをヨシムラのスタッフが魂を込めて組みつけた、という事実が1135Rの真髄と言える。開発スタッフも「特別なことはなにもなく、ただし吸排気ポートの仕上げには、ヨシムラ独自のノウハウを使用した」と証言している。
1135Rは、車体のあらゆる個所に手が加えられているといっても過言ではない。フレームには、AMAカタナレーサーや鈴鹿NK1レーサー同様の補強が施され、走行テストを重ねることで最終的な形状を決定された。ステアリングヘッドまわりから、タンク下のメインチューブの上下、左右のメインフレームを連結するなど、その後のカタナフレーム補強のお手本ともなっている。
サスペンションも実戦志向で、フロントには当時すでに一般的だった倒立フォークではなく、GSX-R600用のレーシングキットパーツである正立フォークを採用。これは、内部構造を専用チューニングした上で、倒立フォークよりも走行フィーリングがいいとして使用されたものだった。
リアサスにも、当時ヨシムラで販売していたオーリンズ製ツインショックを、AMAスーパーバイクレーサーに近いデータでレイダウンしてマウント。サスの全長もいちばん長いものを選び、リアの車高を上げてディメンションを最適化。世界にたった5台しかない1135Rのために正立フォーク、手曲げチタンサイクロン、アルミ総削り出しトップブリッジ、スイングアームなど専用パーツが用意された。
こうして出来上がった1135Rは、ヨシムラ計測による乾燥重量が197.8kgと、同条件で実測した純正よりも43.4kgも軽量化されていた。最高出力も、ヨシムラ計測で150PSをオーバーし、55PS以上もアップ。40kgの軽量化と50PSのパワーアップを同時に実現した、まさに当時のヨシムラにしか作れなかった、最高峰のカタナである。

実際に乗った1135Rは、まさに夢のような体験、インプレッションだった。サイドスタンドの停車状態から引き起こしただけで、1135Rの凄まじさはすぐに理解できた。通常のカタナを引き起こすつもりで手をかけたら、まるで400ccだった時のような拍子抜け感。
つまり、それほど軽かった。カタナの走行可能状態の車重が約260kgに対し、1135Rは実に40kgも軽い。これは、激痩せの女子がタンデムしているかどうかに匹敵するほどの大きな差なのだ。
エンジンは、特別なものは何もない1135ccのTMRキャブ、ST1カムのチューンドカタナエンジン。しかし、その出力特性とドライバビリティは、今まで味わったどのエンジンよりも最高の部類に入るものだった。本当に、スロットルを1mm開けると1mm分だけトルクが出て、ピンと張ったチェーンの後にリアタイヤがギュッと路面に押しつけられる感覚が、一瞬のうちに連続して伝わってくる。
しかも、これがどの回転域でも起こるのだ。もちろん、絶対的なパワーは当時のGSX-R1000やハヤブサには及ばないが、回転の吹け上がりも落ち込みも軽快で、トルクがあり、高回転も伸びる、どのギアでも、どの回転域でも、文句のつけどころがない。
コントロールしやすいエンジン以上に心に残ったのは、車体、つまり1135Rの動きそのもの。前後サスペンションを交換し、ディメンションを変更したうえでのフレーム補強、タイヤは径もサイズも違うハイグリップともなれば、車高から前後の姿勢、重心位置も変更されたことになるので、なにかのクセが残るはずなのだが、それがまるで感じられなかった。
それどころか、カタナらしいパワーフィーリングはそのままに、車体は前後に軽快に動き、前後タイヤもピシッと整列が取れて、しかも車体はひと回り小さく、軽く感じられた。純正のカタナがべたりとバンクしてゆっくり起き上がるのに対し、1135Rは軽く、短くバンクし、スッと起き上がる。
ハンドリングはあくまでもニュートラルでありながら、わずかにアンダーがあるもの、これこそが「乗せられる」現代のスーパースポーツとの大きな違いだ。ライダーが優位に位置し、きちんとコントロールして曲がっているのがよくわかる。
まっすぐ走っても曲がっても、ペースを上げても流しても、その走りはまさに夢心地で、文句のつけようがない楽しさ。1135Rには、ハッキリとヨシムラのDNAが宿っている。この魂を感じられる幸せは、オートバイ乗りの一つの夢なのではないかと、強く思った。
