ホンダを代表するオートバイの1台、当時登場したレーサーレプリカの中でも代表格としても挙げられるホンダ・NSR250R。この記事では、月刊『オートバイ』本誌にて長年テスターを務める太田安治がレーサーレプリカブームが巻き起こった80年代当時を振り返ってNSR250Rの魅力を語る。
文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、松川 忍、南 孝幸/協力:Bikers Station、H&L PLANNING
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歴代NSRの性能・特徴を振り返る

画像1: 歴代NSRの性能・特徴を振り返る

今もなお忘れることのない感覚とあの匂い

NSRに初めて乗ったときは面食らった。RCバルブというホンダ独自の排気デバイスによって低中回転域でも意外に扱いやすく、高回転域でのピーキーさも薄いのだが、とにかく乗り心地が硬く、公道の速度域ではハンドリングも重くて狙ったラインのトレースが難しい。たぶんサーキットでの戦闘力を優先し、ハイグリップタイヤ+高荷重に合わせて車体を作った結果だろうが、サーキット以外でも乗りやすいTZRとは対称的だった。

ワークスマシンのNSR250に乗せて貰ったときは、身のこなしの軽さに驚いた。旋回中に頭の傾きを変えるだけでラインが変わるような軽さ。現在のモンキー125よりも軽い90kg台の車重に90PS近いパワーの組み合わせなんて、今のライダーに想像できるだろうか。

NSRの二代目となるのが完全新設計のMC18型。1987年11月発売の88年型で、マニアは「ハチハチ」と呼んでいた。今では伝説扱いされているが、確かにハチハチの速さは別格だった。カタログ値は自主規制値上限の45PSながら実際は50PS程度で、シート下のリード線を1本抜くとRCバルブの開度リミッターが解除されて55PSオーバー。

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チャンバーを装着してキャブセッティングを変えると約68PS、F3レース仕様では約80PSと、市販レーサーRS250Rと同等のパワーを発揮。一新された車体もハンドリングのシビアさが薄れ、峠道レベルでも扱いやすくなった。

ホンダのレース部門であるHRCとの関係が深まったことで、市販車のNSR250Rにレース用キットを組み込んだレース専用モデルが「NSR250RK」として発売され、僕が監督を務めていたチームでも2台走らせていた。タイム的には純レーサーのRS250Rより僅かに劣る程度で、富士スピードウエイでのテストでは240km/h近い最高速を記録したのを覚えている。

MC18型の「後期」と呼ばれるのが1989年2月発売の1989年型。チャンバー形状の変更とエンジンコントロールユニットの進化でオーバーレブ特性が良くなり、ギア選択に迷うコーナーでも乗りやすくなった。このあたりはサーキットでの戦闘力に対する拘りだろう。キャスター角の見直し、前後ラジアルタイヤの採用でハンドリングの素直さも増し、形式名は同じMC18だが別物に仕上がっていた。

当時のF3や耐久レースは2スト250cc車と4スト400cc車の混走だったが、MC18の登場で、それまでの「4スト優位」という勢力図が一変。1990年の鈴鹿4耐ではNSRが2スト車として初優勝。速さに加え、耐久性も飛躍的に上がった結果だった。

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三代目のNSRが1990年2月発売のMC21型。チャンバーとの干渉を避け、排気チャンバーを効率よくレイアウトできる、湾曲デザインのガルアーム(スイングアーム)、リアタイヤの17インチ化が判りやすい違いだが、実はエンジンも主要パーツを大きく変更して中高回転域のパンチ力を増した新型で、フレームも剛性バランスを見直した新作。前後サスペンションの減衰特性も変更された。

僕は歴代のNSRに試乗しているが、最も好みに合うのがMC21。MC16/18の車体はガチガチ感が強くてラインに乗せることに気を使ったが、MC21は旋回中と立ち上がりのコントロール性と接地感が劇的に高くなり、レースで競り合ったときや峠道のようなRの読めないコーナーでも無理が効いて、手足のように扱えるハンドリングにまとまっていた。

NSRシリーズは絶版車市場でプレミア価格になってるが、僕なら切れのいい乾式クラッチと前後サスの調整機能を備えた「SE」か、SEのホイールを軽量なマグテックに換えた「SP」を選ぶ。
 

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10年という中に詰め込まれた濃すぎる魅力

1990年代に入るとレースブームは沈静化に向かう。追い打ちを掛けるように1992年から馬力の自主規制値が「250ccで40PS以下」に引き下げられ、誤差も認められないことに。レーサーレプリカの存在意義が問われる状況になったが、ホンダは開発を進め、1993年11月に四代目となるMC28型をリリース。

エンジンは排気チャンバーの入り口を絞って40PSに抑えていたものの、チャンバーを交換すれば本来のパワーを取り戻し、カードキー内に収められた制御プログラムを書き換えることでフルパワー仕様にできた。

車体もスイングアームを片持ちとしたほか、ディメンションを変更し、さらにラインの自由度が高められた。シリーズの中で最も街乗りが楽で、峠道を駆け足で流すような走り方も快適。ある意味、時代に合ったキャラクターなのだが、ユーザーのレプリカ離れが進んだことで開発が止まり、1999年に生産を終了した。

NSRはレースブームを牽引し、常識破りの短いスパンで進化、レースブームの終焉と共に消えた。今後、似たキャラクターのオートバイが登場することはないだろう。試乗できる機会があれば、2スト250ccレプリカの世界を体験して欲しい。きっと走りに特化した乗り味にロマンを感じるはずだ。

文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、松川 忍、南 孝幸/協力:Bikers Station、H&L PLANNING

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