文:小川 勤/写真:南 孝幸
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ヤマハ「XSR900GP ABS」インプレ(小川 勤)

YAMAHA
XSR900GP ABS
総排気量:888cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
シート高:835mm
車両重量:200kg
税込価格:143万円
あの頃に浸るもよし、新たな感性で挑むもよし
これほど注目を集めているバイクでありながら、登場から初試乗まで1年以上かかってしまった。ヤマハXSR900GPは、1980年代のヤマハの世界GPマシン「YZR500」へのオマージュとして、2024年5月に発売された。
発表・発売と同時に、現在60歳前後の熱狂的なバイクファンや、当時の華やかなGPシーン、レーサーレプリカに憧れていたリターンライダーたちが盛り上がり、33万円のワイズギア製外装セットは瞬く間に完売した。
今年51歳の自分にとって、1980年代はリアルタイムではないが、このカラーや「GP」の名の重みは十分理解しているつもりだ。だからこそ、なかなか試乗の一歩を踏み出せなかったのが正直なところ。
実際に乗ってみると、そこまで重く考える必要はなく、もっと気軽に乗っておけばよかった。
ただ一方で、このカラーは自分にとってはケニー・ロバーツのイメージが強く、1983年のWGP熱狂時代を振り返るきっかけにもなった。このあたりの思い入れは人それぞれだろう。もちろん、今となっては思い入れや時代背景を問わないライダーのほうが多いのかもしれないが……。

走りの組み立てを工夫しワインディングを謳歌
XSR900GPなら、気軽に思い出に浸れる──そんなバイクだと思っていたが、実際はそんな気軽さはなく、生半可な気持ちで乗るのは難しい。ただ、そこにはスーパースポーツと同じような美学があった。
跨ると前傾は緩やかだが、ハンドルの垂れ角の大きさに驚かされる。この日は300kmの行程。ツーリング後は首や腰、手首が疲れるだろう。ただし、それが心地よい疲労感なのか、それとも苦行なのかでバイクの評価は分かれる。

跨ったときの景色はよく、カウルを固定するステーやベータピン、肉抜きされたメーターステー、少し突き出した調整機構が目立つフロントフォーク、デジタルながらアナログ表示のメーター、立ちを抑えたスクリーンなど、ヤマハの愛情が感じられる。世代ではないものの、レーサーレプリカ感を盛り上げる演出が心憎い。
エンジンと車体は熟成を重ねたMT-09系。XSR900GP専用のバランスが与えられたアルミダイキャストフレームに、888ccの3気筒エンジンを搭載する。始動すると、馴染みのある3気筒サウンドが響く。市街地を走り出すと、トルクフルな特性が心地よい。ギアは発進後、クイックシフターで素早く5速、6速へ。モードはレインかストリートで、低回転を繋ぎながら走る。
ただ、20分ほどで右手首に違和感が出る。やはり混雑した都内は得意ではない。高速道路ではスロットルを開け続けると右手首に角度がつきすぎるため、積極的にクルーズコントロールを使いたい。速度調整も左スイッチで行えば、疲労を軽減できる。
しかし、ワインディングに入ると、それまでの市街地や高速道路の行程は、悦楽のコーナリングの準備期間だったかのように、XSR900GPは伸びやかに走る。

モードはストリートでも十分パワフルだが、スポーツに切り替えるとさらにレスポンスが向上。ヤマハらしいと感じるのは、サスペンションのピッチングモーションを掴みやすく、曲がるタイミングが探しやすい点。前輪がステアする動きがリニアで、コーナーを組み立てやすい。
ただし、この動きを引き出すにはコツがあり、それは後ろに座ること。XSR900GPのシートは前下がりのため、多くのライダーは前乗りになりがちだが、思い切り後ろに座るとハンドリングが軽くなり、しっかりと向きを変えられるのでスロットルを開けるタイミングも早くなる。
立ち上がりでは3気筒の咆哮が炸裂。3000〜4000回転からスロットルを開けても後輪のグリップを引き出しやすく、そこから高回転へと伸びていく音の良さと爽快感は格別だ。各制御の介入もわかりやすい。
気がつけば、ポジションの辛さは忘れていた。帰宅後、確かに手首や首、腰に疲労感は残るが、それはスポーツ後の充実感にも似た心地よさだった。
「GP」という言葉を重く受け止める必要はない。もっと自由に、純粋にヤマハスポーツとして楽しみたい、そんなXSR900GPだった。