文:ノア セレン/写真:関野 温
ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」VS ドゥカティ「ムルティストラーダ V4 S」|深堀りチェック
1.エンジンまわり

TRACER9 GT ABS

Multistrada V4 S
おーヨシヨシ! トラが飼えるほど余裕のヤマハ
かなり前傾角の深いトレーサーのエンジンは、シリンダーの後ろのスペースに余裕があるためY-AMT搭載やプラグインハイブリッドの開発といった発展もできているのが面白い。3気筒のトルクフルさが魅力だが、ツアラーとしてはもう少し振動が抑えられるとなお良いかも。
ムルティストラーダのV4エンジンは完成度に舌を巻いた。レッドゾーンを1万回転に、最高出力を170PSに抑えたことでこの素晴らしいトルクを達成したのだろう。横についている羽は中にフラップがあり、手動で簡単に開け閉めが可能。エンジンの排熱や、冬は膝に当たる寒風を遮ることもできる便利機能だ。
かなり前傾角の深いトレーサーのエンジンは、シリンダーの後ろのスペースに余裕があるためY-AMT搭載やプラグインハイブリッドの開発といった発展もできているのが面白い。3気筒のトルクフルさが魅力だが、ツアラーとしてはもう少し振動が抑えられるとなお良いかも。
ムルティストラーダのV4エンジンは完成度に舌を巻いた。レッドゾーンを1万回転に、最高出力を170PSに抑えたことでこの素晴らしいトルクを達成したのだろう。横についている羽は中にフラップがあり、手動で簡単に開け閉めが可能。エンジンの排熱や、冬は膝に当たる寒風を遮ることもできる便利機能だ。
2.電子キー

TRACER9 GT ABS

Multistrada V4 S
電子キーは普通だけど、電子キーホルダーもある!
いずれも電子キーを採用しているのはもはや珍しくもないが、2台ともその電子キーを収めておく小物入れまであるのに時代の進化を感じた。
その小物入れには電源取り出しも付いていたためメインの使用用途はスマホ入れだろうけど、実際はスペースが狭くて今どきの大きなスマホは入れられる機種がかなり限られそう。
なおトレーサーはアクセサリー設定されているボックスにロックスイッチを追加することでスマートキーに対応する!
3.コックピットまわり
▶トレーサー9 GT ABS

ヤマハらしいギミックでファンも嬉しいぞ
メーターの表示が3種類も用意され、しかも遊び心を感じる設定もあるのがヤマハらしい。大写真が出荷時のようで、事細かな表示が宇宙船みたい。



黒バックはタコメーターが振れるとそれを追うように電流のような表示があって盛り上がる仕様。筆者はその下の白バックを使っていた。もちろん、Yコネクトアプリを介してガーミンの地図など表示も可能だ。
クルコンは追従型ではなく通常のもの。追従式に慣れていないせいかこちらの方が使いやすい印象もある。
スイッチ類は個人的にマイナスポイント。上付きの十字キーを親指で操作するにはほぼグリップから手を放さなきゃいけないし、ウインカーは出した方角にもう一度押すことでキャンセルするタイプのため、いちいち路面状況から目を離しメーター内の表示を確認する必要がある。同じヤマハ車ならTMAXのスイッチボックスの方が直感的に使えた。


▶ムルティストラーダ V4 S

先行車との車間を一定に保ちながら自動追従する様は圧巻の一言
ツーリングを主眼とした上級モデルには追従型クルコンも珍しくなくなってきた。
追従型どころか普通のクルコンも使わない筆者としてはちょっとわかりにくいと感じることもあるが、メーター内の表示やスイッチ類の操作が比較的わかりやすく、説明書を読まずとも前走車との距離や速度の設定ができた。
V4エンジンの優しさを考えれば前の車に淡々とついていくのも良いのかもしれない。

ドゥカティのスイッチボックスでいつも感動するのは、ホーンやウインカーといった必須ボタンへのアクセスが容易なこと。
機能が複雑化するほどにこういった部分の直感的操作感は大切だろう。ホーンの隣のジョイスティック型ボタンもとても使いやすく、しかも反応が瞬時で迷うことがなかった。


4.スクリーン
▶トレーサー9 GT ABS

LOW

HIGH
手元のスイッチで電動で上下するスクリーン。ハンドルガードとグリップヒーターも標準
長距離、しかも高速道路を走る機会の多いモデルで防風性は大切。トレーサーは上下の可動域が100mmで、その中で無段階に高さを設定可能。高い位置に設定しても巻き込みが気になるようなことはなかったし、高さに関わらずヘルメットへの影響にあまり変化がなかった印象だ。
ただ速度が上がってくるとフロントまわりからブルブルとした振動が出ることがあったのはヤマハとしては珍しい。
純正でグリップヒーターがついているのもプラスポイント。またMT-09よりもスイングアームが長いトレーサーはUターンがちょっと大まわりだったのだが、今回のモデルチェンジでハンドル切れ角が増えたのが嬉しい。
▶ムルティストラーダ V4S

LOW

HIGH
シンプルで効果的な手動調整式スクリーン! っていうか、ここは電動じゃないんだ(笑)
小見出しで(笑)と書いたが、筆者(ノア)は本気で手動で良いと思っているタイプである。シンプルで壊れない。最高。ただこれだけ電子制御満載になっても、ムルティストラーダは伝統的な手動式タイプを守ったんだな、というのが面白かった。
かつてはレバーを握って上下していたが、今はシンプルに上下に押すだけで自動的にロック解除され、好みの場所でまたロックされるシステムで、ドゥカティは特許も取っている。またスクリーンだけでなくフロントマスクもライダーとパッセンジャーの快適性を考えて新設計されている。
V4 Sのロゴがあるサイドパネルも積極的に空気を通して、エンジンの排熱をライダーから遠ざける工夫がなされている。
【ノア セレンが選ぶ2台の“極品” ポイント】
▶トレーサー9 GT ABS

フロントサス

リアサス
アクティブサスながらオイシイ所を外さない
KYBと共同開発した「KADS」サスは、基本モードとしてドライ路面を想定した減衰力が強めの「A-1」と、石畳やウェット路面を考慮した減衰力が弱めの「A-2」を設定。
これをベースに、IMUが検知した車体姿勢や加速度、サスペンションのストロークスピード、ブレーキの液圧変化などから減衰力を瞬時に調整してくれる。
とはいえ極端な設定はなく、設定を変更してもトレーサーの性格が変わることはなかった。
▶ムルティストラーダ V4 S

ブレンボは当たり前、前後連動も搭載だ!
非常に制動力の高いブレンボキャリパーはもちろんのこと、フローティングピンの取り付けが斜めになっているなど独自のフィロソフィーを感じたフロントのブレーキまわり。
なおこのモデルからリアのブレーキディスクはΦ265mmからΦ280mmへと大径化。リアブレーキでの速度調整もしやすいし、強めに踏んでもロックせずに良く止まると感激していたら、前後連動システムも導入されていた。
ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」VS ドゥカティ「ムルティストラーダ V4 S」|総合評価

ムルティストラーダは最高! でも350万円だからそりゃイイよ
コストに厳しい凸でも納得の出来栄え! さすがムルティストラーダ
高価なバイクがイイって書くと、そりゃ高価なんだからイイに決まってんだろう!と即座に自分にツッコミを入れてしまう。350万円のムルティストラーダ、良くなかったらマズい。ホンダみたいな緻密さとドゥカティらしい個性や速さを持ちつつ、電子制御とかそういうのを置いておいても、本質的に本当に素敵なバイクだと思った。
対するトレーサーはツアラー然としているのにけっこうヤンチャな性格。よくまとまっていて全てにおいて足りているのに160万円というのも本当にエライ。国産ではライバル不在でしょう。でも個人的な趣向でいえば、これだけ元気な性格ならだいぶ洗練されてきているMT-09を選んでもいいんじゃないかな、とも思う。
逆に言えばツアラーのはずなのに車体のダイレクトさや微振動などにMTっぽさ、スポーツバイクっぽさが残っている。価格差は無視できないけど、ムルティストラーダの進化に感銘を受けました!

YAMAHA
TRACER9 GT ABS
トレーサーのCP3エンジンは元気だけど、170PSのムルティストラーダと比べてしまうと、全体的に硬質でダイレクトな感覚はツアラーと言うよりはスポーツバイクであり、淡々と長距離というよりは日帰りツーが楽しいかも。トレーサーを2台買うっていう選択肢もあるんじゃね!?

DUCATI
Multistrada V4 S
パワーがあってスムーズで快適。アドベンチャーとして死角なしで何日でもツーリングできそうだ。一方でトレーサーのように弾ける感覚が希薄なためスポーツマインドは刺激されない。あとETCは2台とも標準装備にして欲しいな。
ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」VS ドゥカティ「ムルティストラーダ V4 S」|人気投票
【アンケート】あなたはどちらのモデルが好きですか?
お好きなモデルをポチっとお選びください。投票後、集計結果をご覧いただけます。
ご投票ありがとうございました。
ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」VS ドゥカティ「ムルティストラーダ V4 S」|スペック・製造国・価格
トレーサー9 GT ABS | ムルティストラーダ V4 S | |
全長×全幅×全高 | 2175×900×1440mm | NA |
ホイールベース | 1500mm | 1566mm |
最低地上高 | 135mm | NA |
シート高 | 845/860mm | 795-815mm |
車両重量 | 227kg | 232kg |
エンジン形式 | 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列3気筒 | 水冷4ストロークDOHC4バルブV型4気筒 |
総排気量 | 888cc | 1158cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm | 83×53.3mm |
圧縮比 | 11.5 | 14.0 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm | 125kW(170PS)/10750rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm | 124N・m(12.6kgf・m)/9000rpm |
燃料タンク容量 | 19L(無鉛プレミアガソリン指定) | 22L |
変速機形式 | 6速リターン | 6速リターン |
キャスター角 | 24°25′ | 24.2° |
トレール量 | 106mm | 100.6mm |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク | Φ330mmダブルディスク・Φ280mmシングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) | 120/70ZR19・170/60ZR17 |
乗車定員 | 2人 | 2人 |
燃料消費率 WMTCモード値 | 20.9km/L(クラス3、サブクラス3-2)1名乗車時 | NA |
製造国 | 日本 | NA |
メーカー希望小売価格 | 159万5000円(消費税10%込) | 353万2200円~(消費税10%込) |
文:ノア セレン/写真:関野 温