文:バイカーズステーション編集部/写真:平野輝幸
※この記事はモーターマガジンムック『空冷Z伝 完全版』に掲載した記事を一部編集し転載しています。
「ゼファー」誕生秘話

Kawasaki
ZEPHYR
1989年4月登場
エンジン形式:空冷4ストDOHC2バルブ並列4気筒
総排気量:399㏄
最高出力:46PS/11000rpm
最大トルク:3.1kgf・m/7500rpm
車両重量:177kg
当時の発売価格:52万9000円
過剰なほどの高品質。その伝統は400にも及ぶ
ホンダのヨンフォアが姿を消し、400クラスに4気筒モデルがなかった1979年に登場して大ヒットとなったZ400FX。名実ともにカワサキにとって初の400クラスの4気筒モデルであるFXは、様々な荒波にもまれながら誕生したという。
「当時としてはコスト的に非常に厳しかったですなあ。採算面での厳しさがネックとなり、社内でも1年くらい滞ってましてね。あれは本来ならもっと早い時点で出とるはずやった。しかし、コストという問題を抱えながらも、あえてあのタイミングで出したわけでして。そういうところがカワサキにはあるんやねえ。少々無理してでも、行ってしまえ、みたいなね。結果的には非常に良く受け入れられて、報われましたね」(稲村氏)
社内には「400やったら2気筒でええやないか」という意見や、採算面やオートバイ自体のプライスを危惧する意見もあったという。また、折からの石油ショックのあおりで世は省エネブームの真っ只中。本当に厳しい時代になされたチャレンジだったのだ。しかし、この成功がきっかけになり400ccはマルチが当たり前になったことや、どちらかと言えば大排気量車を得意としていたカワサキに400ccが定着したことを考えると、FXは立派な功労者と言えるだろう。

賛否両論のゼファー。そして、テイストがパワーを凌駕する
「クルマが完成した時の反応は、人によって本当に様々でした。かなり明確に違いましたね。こんなん作ってもアカン、という人から、こりゃイケるで、という感触を持っている人まで、完全に両極端に分かれましたね。私自身としても、市場ではある程度評価されるとは思っていましたが、ここまでいけるとは……。流れが変わるほどになるとは思いませんでした」(吉田氏)
「こんなんアカンちゃうか、という人には、これはコンセプトを売り物にしているモデルだから、一概にアカンと言うのは違う、そんなこと言う必要もな、まあ、見ててごらん、と思っていました」(稲村氏)
空前のヒットとなったゼファーの開発にあたっては、社内でも賛否両論、様々な議論が巻き起こったようだ。
「性能的には物足りないからアカンとか、こういうのは流行に合わないというような意見もあったんですが、私はこれは今後、オートバイの進む、ひとつの方向ではないかという見方をしていました」(稲村氏)
「あの時、パワーについては社内的にも本当に問題になりましたね。どちらかといえば、モアパワー、モアパワーでそれまで来とったわけでしたから。でも、最初からパワーを最優先にはしていませんでしたし、パワーよりももっと優先するものがあるやろ、と割り切ってコンセプト作りを行っていましたし、マーケットへの打ち出し方もこれまでとは違った方向でということを決めていたので、実際に携わってきた我々にしてみればその辺の心配というのはそれほどしませんでした」(吉田氏)
とはいうものの、理想としてはもう少しパワーを出したいというところもあったようだ。もちろん、クラス上限のパワーまでは必要ない。が、しかし、せめてもう少し……、この点について、吉田さんは次のように言う。
「騒音に関するレギュレーションをパスするようにした時に、正直言って、ここまでパワーは落ちるもんかいな、とは思いましたね。国内の騒音の基準というのは、ホンマすごいもんやな、と(笑)。59馬力とは言わないまでも、せめて50馬力には乗せたいなとは思いました。空冷の剥き出しエンジンということもあって、騒音のレギュレーションに合致させることの絡みで実現出来ませんでしたが……」
他の何にも似ていない。それもZの血脈の証明
しかし、結果的には当時の2スト250と同じ様なパワーでも何ら見劣りすることなく、ゼファー400は大いに受け入れられた。さらに言えば、その後ゼファーχ(カイ)となってクラス上限のパワーを手に入れている。

ゼファーχ(カイ)/1996年
ゼファーの名前の由来については、「企画段階当時、ある調査会社が、Zで始まる名前がええですよ、ということは言っておったんです。それで、辞書でZの項目を一生懸命引いたんですな」(稲村氏)
ゼファー=西風。Z1、Z2の流れを汲むノンカウルの空冷マシンということで風には関係が深い。しかも当時は、ちょうどカワサキライダースクラブ「KAZE」のシステム作りの段階であり、こちらとの兼ね合いでも意味がある。兵庫県明石に本社があるカワサキがライバルメーカーたちのある東海地方を通って東京に攻め入るという意味もある「西風」は最適だ、という解釈も出来る。
カワサキZの血脈は「最速」を義務づけられたマシンに加え、時代に左右されないオートバイ本来のフォルムの美しさを持つモデルにも受け継がれている。それはZイズムならではの、速さだけではないコンセプトを継承するモデルとも言い換えることができるのだ。
文:バイカーズステーション編集部/写真:平野輝幸
※この記事はモーターマガジンムック『空冷Z伝 完全版』に掲載した記事を一部編集し転載しています。





