文:バイカーズステーション編集部/写真:平野輝幸
※この記事はモーターマガジンムック『空冷Z伝 完全版』に掲載した記事を一部編集し転載しています。
Zイズムの継承・発展
ここからは、Z1だけでなく、GPZ900Rやゼファーなど、その後中心となったモデルについても伺ってみよう。引き続き、稲村氏と、新たに吉田武氏に加わっていただきインタビューを続ける。

吉田 武氏
インタビュー時は技術総括部開発部商品開発課係長。現職は川崎重工業(株)汎用機カンパニー技術本部 技術管理部 管理グループ長。
空冷から水冷へ。形は変われどZイズムは継承される
Z以降、カワサキの空冷インラインフォアは熟成に次ぐ熟成を重ねていく。その間、数々の名車を生み出してきたのはご存じの通りだ。そして、その経験は新たなエンジンの開発への情熱につなげられた。クラス初の水冷DOHC16バルブ、GPZ900Rニンジャの心臓部となったエンジンである。
「時代のニーズや、ベスト・イン・ザ・ワールドを達成し続けるために、排気量はだんだんと大きくなった経緯があります。それがニンジャの段階になって再び900ccに戻り、再スタートのポイントになった。やっぱり900というのはマジックナンバーなんでしょうね」
こう語るのはCP事業本部 技術総括部開発部 商品開発課の吉田武氏。ゼファーの開発にも当初から携わっていた技術者である。

「ニンジャが900となったのは、もちろんZ1が900ccだったというのがひとつの理由にはなっています。でも、それを意識しなくても、図面を描きだしたら言わず語らずで自然に900になっていましたね(笑)」(吉田氏)
「当時はオートバイがブームになっている時期で各社ともエンジンのレイアウト自体に様々な試みをしていた時ですね。我々も空冷の6気筒やVの4気筒や6気筒などいろいろやってみたんですが、そのどれもにさほどのメリットが見出せなかった。それだったらもう一度原点に帰って、インラインフォアでやるべきことがあるんと違うか、インラインフォアでの欠点いうんはどういうことなんや、ということの洗い直しの意味も込めて全く新しい直列4気筒の開発に着手したわけです。そこで考えたのは、まずは幅をいかに詰めるか。ウエットライナー方式やサイドカムチェーンの採用などは、そういった発想から出てきたアイデアですね。インラインフォアへのこだわり、なんて言うとかっこいいですが、人と同じことはやりたくなかった、別のものを作りたかった、というのが正直なところですな」(稲村氏)

Z1のカタログでは“an expression of confidence”とのキャッチコピーが目につく。いかにカワサキがZ1に対してconfidence(自信)を持って世に送り出したのかがわかる。
幻のZ2復刻計画。懐古趣味はZイズムに反する
「状況が許せば、Z1を国内販売したかったんです」と稲村氏は言う。しかし、1970年代初期の状況はそれを許さなかった。国内にはZ1のエンジンをベースにボア・ストロークとも変更した750ccのモデル、750RS=Z2が送り出された。
「ボア・ストロークというものは、エンジンの性格を左右する重要な要素なんですな。したがって、単なる小手先の細工だけで出すわけにはいかなかったんですわ」(稲村氏)
1989年にデビューし、ネイキッドブームを巻き起こしたゼファー400のそもそもの発想は、このZ2の復刻版を出したらどうだろう、というところから始まったという。つまり、750ccから出発しているわけだ。しかし、復刻版という形では時代にそぐわないなど様々な観点から実現には至らず、750ccでの計画は一旦ストップしてしまった。
「単なる復刻版ということでは、あまりにも懐古趣味に走りすぎてますからなあ。技術者としては、これはちょっと本筋から外れているなということで復刻版はなくなったわけです」(稲村氏)
「その後、半年以上かけて市場調査を進めまして、高性能だけではないオートバイが欲しい、という声がユーザー間に根強くあることが分かりました。排気量はマーケットを考え、やはり400ccが妥当ではないかということで、実際の開発は400ccで始められたわけです」(吉田氏)
つまり、ここで750ccゼファーの開発は消えているのだ。ゼファーの開発は400一本で進められた。それでは1990年に登場したゼファー750の構想はいつごろスタートしたのだろう?
「計画としては400の市場反響が来る前からありました。世界的にゼファーのコンセプトは受け入れられるんじゃないかという思いはありましたから」(吉田氏)

ゼファー750(1990年)
「750になれば国内だけではなく海外も意識しなければなりませんから、400とは全くの相似形というわけにはいかんわけで、開発は完全に一から始めました。400の方はZ1やZ2のイメージというか、どことなく全体の雰囲気がそれなりに感じさせるものはありましたが、実際には別のものですな。しかし750の方はよりZ1やZ2に近いものが出ているのではないかと思いますね。まあ、この辺はいろいろ議論になったところですがね」(稲村氏)
カワサキのどのマシンもルーツはやはりZ1にさかのぼる。中でもゼファーとなるとそのイメージはよりはっきりと出てしまうわけで、どこをどのように処理して、どの程度Z1のイメージを持たせるべきか開発陣の間でも議論になったようだ。あまり露骨にやると懐古的になりすぎる、しかし、その雰囲気こそ大事にしたいという声も少なからずある……。デザイナーや技術陣を最も悩ませたところだろう。特にエンジンのプロフィールはそのオートバイのイメージを左右するほど大きな力を持っている。
「ゼファー750のエンジンはGPz750ターボの過給器を外したもの、つまり国内販売された車種でいうとGPz750Fの頃のエンジン、ということになります。エンジンの横顔が与えるイメージは、我々にとっても心配事のひとつでしてね。400の時もそうだったんですが、エンジンの型はケースを含めて一新したものになっています」(稲村氏)
