※本企画はHeritage&Legends 2023年2月号に掲載された記事を再編集したものです。
市販車をベースとしたオーダーメイド仕様!
1999年生まれのスズキ・ハヤブサは、スズキを代表する名車であり、カテゴリーとしてはGT=グラン・ツーリスモなのだろうと思う。GTとは、ツーリングバイクともちょっと違っていて、もう少しハイクラスなイメージ。事実、スズキはハヤブサを「アルティメット・スポーツ」、究極のスポーツバイクと呼んでいる。
遠くの目的地まで速く快適に、そしてジェントルに移動できるのが現代のGT。初期型の1299ccは、当時のスポーツバイクとしてはまだ類を見ない大排気量で、しかもライダー込み300kgもの巨体ながら300km/h走行さえ可能で、しかもワインディングに持ち込んでも決して持て余さないスポーツ性をも持ち合わせていた。
’08年、そして’21年にモデルチェンジを受けても、あくまでハヤブサはキープコンセプト。3代目といえる現行モデルもひと目でハヤブサと分かる外観。初代よりも2代目よりも、速さと快適さ、そしてジェントルさに磨きをかけたGTは、’08年の2代目デビュー時にもまだ一般的ではなかった電子制御技術を装備して、さらに上質に仕上がっている。時代に合わせたアップデートでもある。そして、この最新GTをさらにブラッシュアップしたのが、テクニカルガレージRUNの「ヴァージョンアップコンプリート」(以下、VUC)だ。
「バイクはやっぱり大量生産の工業製品。市販状態では、大多数の人が無理なく乗れる、そして最大限にコストを抑えた中で作られた安全な乗り物です。それを、ユーザーが望む形に変身させる──それがVUCです」とは、テクニカルガレージRUNの杉本社長。
RUNのVUCは、市販状態のバイクを、同社で吟味したパーツを使いながら、最高の性能を引き出すものだ。最高の性能とは、ただ動力性能だけでなく、安全と快適さを最高レベルに引き上げるものであり、見ているだけ、持っているだけで嬉しくなるもの、ということまでを指している。
「量産スタンダードで販売されるバイク、それに乗るオーナーはライディングスキルも違うし、乗り方も使い方も違うし、もっと言えば背の高さだって体重だってみんな違う。そのオーナーひとりひとりに、オーダーメイドのバイクを作りたい、というのがVUCの始まりです」
そして2台のハヤブサは「サーキットも走れるGT」を狙った!
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VUCが叶えてくれるハヤブサオーナーの夢
1台目は普段使いでもラクに乗れるよう、バーハンドルを装着した白ブサに見えるけれど、これもサーキットランを視野に入れたモディファイ内容のVUCだ。
「この車両の主用途は街乗りやツーリング。サーキット用にはGSX-R1000Rも持っていますが、ハヤブサでもサーキットを走りたい。だからバーハンドルでサーキットも、という無茶なお願いをしました」とオーナーの市原さん。
走り出すと、やはり最初に感じるのはサスペンションの上質さだ。オーリンズ製倒立フォークとリヤスペンション。もちろん、これだけが原因ではないが、とにかくこのハヤブサは動きが軽い!
コースインしようとピットロードを走り出すだけで分かるのが、「軽く沈んで、ゆっくり戻る」を高速で繰り返すイメージ。つまりスッと軽く沈むけれど、パンとハネ返らない、大げさに言えばいつの間にかピッチングしている感じ。これは前後サスをリプレイスする大きなメリットでもあるが、走行スピードの速いサーキットではその動きが顕著に現れる、つまりごまかしがきかないポイントだ。
ペースを上げ始めると、今度はブレーキのフィーリングがよく分かる。効きはもちろん、特にコントロール性が飛びぬけていて、レバーを1mm引くとキャリパーが1mm分だけディスクローターを締め、1mm分だけフォークが沈み、1mm分だけ速度が落ちる……そんなイメージ。ハードブレーキの時、少しだけ減速したい時、フロント高さを少しだけ下げたい時という使い分けが可能で、ほとんどの街乗りライダーが乗れば、このサスペンションとブレーキのフィーリングの快感にやられてしまうだろう。
ハンドリングのキャラクターは元来ハヤブサが持つそれと大きく変わらないもので、1480mmという長いホイールベースの巨体がベターッと寝る安定性重視のハンドリング。けれど、この白ブサは必要なバンク角に至るスピードが速く、車体を起こすアクションへの反応も速い。これが、ハヤブサを軽く扱えるように感じる正体だ。
ただし、走っていて気になるところも発見。フルバンク近くで車体がゆらゆらと安定性がなかったため、それを杉本社長に伝えると、すぐに調整。フロント、リヤとも圧側の減衰を抜き、伸び側をやや締めてくれたようで、対処後の走りはうねりのあるコーナーでもピタッと安定してクリアできる。この、症状を伝える→RUNによる対処した結果が分かりやすい、というのもVUCの良さだろう。
時に扱いにくく感じるハヤブサの大馬力をきちんとコントロールしたい──VUCは、そんなハヤブサ乗りが夢に近づける仕様でもあった。
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歴代ハヤブサが持つ隠れたサーキット特性
次に試乗した銀ブサは、乗り始めると明らかに走りの「質」が違う。外観からではバーハンドルとセパハンくらいが大きな差に見えるけれど、こちらの銀ブサは単にセパハンを使用していることに起因する乗り味という訳ではない。
聞けば、オーナーの上野さんがサーキットを走り込んでいるライダーらしく、白ブサが「ライディングをエンジョイする」タイプと捉えるなら、こちらの銀ブサは「サーキットも攻められる」仕様なのだという。
簡単に言えばサスペンションが高荷重設定で、前後の動き=ピッチングを使って曲がろうとするには、しっかりとブレーキングしてフロントタイヤをつぶす、という走りが必要なタイプだった。
ただし、試乗ということで筆者のスキルに合わせてもっと車体を動かしたいというオーダーを伝えると、杉本社長がフロントの圧側と伸び側の減衰を抜いてくれる。同時にリヤサスも合わせてもらったことで、次のコースインではまた見違える動きになった。調整ひとつで大きく変わる変化も、高性能サスペンションの特徴なのだ。
前後サスペンションやホイールなど、白ブサと似通ったパーツを装着しても、セットアップでここまで変わるものか?!
バイクが上手く動かせるようになったことで、心なしかペースも上がってリズムがよくなる。加速、減速、コーナリングからのコーナー脱出が気持ちよく、ついついペースも上がってしまうのだ。
しかし、この先はハヤブサの潜在能力が十分に発揮されて、トラクションコントロールが自然に介入し、リヤタイヤが滑り始めた! と緊張した瞬間にメーターのTCマークが点滅し、なにごともなかったかのように立ち上がる。これぞ、ハヤブサに隠されたサーキット特性のよさなのだ。
思えばハヤブサは初代モデルから通じて、サーキットランを楽しむオーナーが思いのほか多い。ショップやタイヤメーカーの走行会、そしてライディングスクールなどに自走で参加、走行して帰る──という使い方もまた、ハヤブサらしい使い方のひとつだろう。そしてそのハヤブサらしさを、一歩伸ばしてみせるのも、VUCの良さなのだ。
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バーハンとセパハン仕様の選択は、どう走らせたいかかもしれない
2台のバージョンアップコンプリート・ハヤブサの大きな違いはバーハンドルとセパレートハンドル。今回の2台では、バーエンド高さでノーマルと比較すると、バーハンドル(上)が65mmアップ、セパハン(下)が12mmアップ。2台で53mmの差があるが、上体の前傾角やアイポイントの高さ、さらにハンドリングではフロントに静的荷重のかかりが違うことになる。
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今までありそうでなかった?! マンツーマンのレッスン
今回は白ブサのオーナー・市原さんがアオキ・ファクトリー・コーチング(=AFC)に参加するということで、そのAFCにお邪魔して試乗させていただいた。AFCは講師の青木宣篤とアシスタントの今野由寛の両トップライダーを中心とした完全少人数スクール。マンツーマンでサーキットでの走りをコーチングしてもらえる。詳細はnobuaoki.jp/afcで。ところで写真の通り、当日は青木・今野両選手もVUCハヤブサの試乗を楽しんでいた。
協力
テクニカルガレージRUN
アオキファクトリーコーチング事務局
袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ