※本企画はHeritage&Legends 2021年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
文:中村友彦
ライバル勢とは異なるカワサキマルチの資質
2017年末にZ900RSが現れた時、“あんなのZじゃない”、“ゼファーやZRXの方が良かった”などと言う向きもある程度はいたようだ。でも市販開始から3年少々が経過した現在は、そうした声はほとんど聞かなくなった。これはZ900RSが、コンセプト通りに伝統のカワサキZシリーズの一員であること、そしてゼファーやZRXに通じる資質を備えていることを、多くのライダーが認めた証明なのだろう。
Z900RSは少々異質かもしれない。現代車らしく完成されているのに、いじる余地が多めに見つけられるのだ。このあたりは往年の空冷Zやゼファー、ZRXシリーズなどに通じる話で、やっぱりカワサキマルチモデルは、いつの時代もいろいろな面でカスタム意欲がそそられるのである。
ただ、かつてのカワサキマルチとは異なり、Z900RSでエンジンチューンやフレーム補強を行うオーナーは少数派だろう。カスタム市場で人気のパーツは、マフラー、サスペンションまわりにハンドル、ステップや外装など。運動性能の向上を求めて足まわりを全面的に変更したり、電気系に手を付けるユーザーもいる。そしてそういったカスタムファンの期待に応えるべく、国内の多くのアフターマーケットパーツメーカーは、Z900RSにかなりの力を入れているのだ。
そんなパーツメーカー/サプライヤーのひとつで老舗として知られるアクティブも、Z900RSには並々ならぬ力を注いでおり、発売直後に製作した同社のデモバイクは定期的に各部を一新というレベルで変更し続けている。H&Lではその都度の変化を紹介してきたが、今回は新パーツ=パフォーマンスダンパーの効果をしっかり体感するため、あえてノーマル車で試乗することにした。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
あらゆるシーンで有効な武器になりそう
ヤマハ好き、もしくは4輪に詳しい向きならご存じだろうこのパフォーマンスダンパーは、元々ヤマハが4輪用として開発したパーツだ。初めて装備されたのは’01年型トヨタ・クラウン・アスリートVXで、以後はトヨタとレクサスに加えて、ニッサン、ホンダ、スバルなどが純正またはオプション採用し、総生産数は200万本に到達。
一方で2輪界では、これまでワイズギアが販売するヤマハ車10機種用のみだった。それが’20年にアクティブが他メーカーモデル向けの開発に着手。2021年3月に第一弾としてZ900RS用とVストローム250用を発売している。
ところで、パフォーマンスダンパーにどんな狙いと効能があるのだろうか?
それは、走行中のフレームに常に発生している、わずかな変形と振動を抑制することである。そう言われても、私も含めて普通のライダーにはなかなかピンと来ない。そう考えていたが……。
装着前と後の乗り味の違いは、予想以上に大きかった。まず幹線道路を走った段階で感心したのは、直進安定性が高くなり、振動がまろやかになったこと。逆にパフォーマンスダンパーを外して乗ると、バイクが基本的に緩やかな蛇行をしながら走る乗り物だったこと、そしてZ900RSの振動が意外に大きくて尖っていたことを、改めて思い知らされることになった。
峠道での印象ではコーナーへの進入がイージーになった。具体的に言えば、ブレーキはコントロール性が上がっているようで、ABSが効くか効かないかのギリギリの領域が使いやすいし、車体をバンクさせた際のフロントまわりの舵角はほどよくしっとりと落ち着いている。
ちなみに、フロントまわりのしっとり感は、場合によっては緩慢さやキレ味の悪さにつながることがある。でもパフォーマンスダンパーの場合は、ステアリングダンパーのようにフロントの動きを規制するわけではないから、車両全体、あるいは部分の動きそのものはノーマルと同じで、変わるのは乗り手側の感触なのだ。
いずれにしても、フロントまわりの信頼感が高まったZ900RSは、ノーマルと比較するとコーナーに安心して入っていけるだけではなく、Uターンも行いやすいのである。そう考えるとパフォーマンスダンパーは、スポーツライディングでもツーリングでも有効な武器になりそうだ。
ただ、この種のパーツには、“本当にそんなに変わるの?”という疑念もあるだろう。今回の試乗に立ち会ってくれたアクティブの安宅さんもそうだった。だが、本格開発が始まってからは、パフォーマンスダンパーの有無だけではなく、取り付け位置やステー/カラーの形状と素材によっても、乗り味が劇的に変わることを実感。逆にその変貌ぶりを知ってしまったため、ベストの設定を構築するまでには、かなりの試行錯誤が必要だったそうだ。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
フレームに発生する変形と振動を抑制
極太ステアリングダンパーのように動くのかと思えるパフォーマンスダンパーだが、実際のストローク量は1mmにも満たない。ボディ内部はガス室とオイル室に分かれ、その境目にフリーピストン、オイル室内には減衰バルブが設置されている。このパーツを自社ラインナップに加えるにあたって、アクティブではさまざまなステーとカラーをテスト。その素材に関しては、アルミでは理想的な特性が得られなかったため、最終的にはボルト+ナットも含めて、すべてがスチール製となった。上の大写真は装着例で下2点は前/後ろに装着されるマウント部だ。
フレームに発生する振動の原因は、エンジンと、路面からの入力のふたつ。上図は後者の低周波領域を示すグラフで、いったん車体に入った振動が、非装着=ノーマルではなかなか収まらないのに対して、パフォーマンスダンパー装着車は早い段階で減衰が始まっている。
パフォーマンスダンパーの製品一式。
これまでのテストで試された、素材/形状違いによるマウントステー群だ。
パフォーマンスダンパーの効果は締め付けトルクでも変わってくるため、装着時はトルクレンチ必須。Z900RSの規定値は前後20N・m。トルクが弱過ぎると効果が体感しづらく(脱落の恐れもある)、強過ぎると乗り味につっぱり感が出てくるそうだ。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
ACTIVE Z900RS
今回の試乗のためにアクティブが準備してくれたZ900RSは、’21年型のノーマル(キャンディトーングリーン)。パフォーマンスダンパーは左側のみに装着するのだが、車体の動きに左右非対称的な感触は一切なかった。なおアクティブでは左右に装着した状態も検討してみたが、メリットは感じられなかったようだ。Uターン時にもその効果は体感できる。