※本企画はHeritage&Legends 2020年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
文:中村友彦/写真:徳永 茂/取材協力:PMC
Z界の老舗が手がけた現代のカフェレーサー
1970〜1980年代のカワサキZ系やホンダCBを対象とする、旧車用リプロ&チューニングパーツを主軸とし、1990年代からは当時の新型として加わったゼファーシリーズやZRXシリーズなどに、その魅力を高める多彩なカスタムパーツを展開してきたPMC。
今の車両=Z900RSにも積極的に多くのカスタムパーツを開発・販売していて、同車のデビュー直後には2台のデモ車を発表。そしてPMCはこのほど新たに「ARCHI(アーキ)」というブランドを立ち上げた。ギリシャ語で「起源」を意味し、何ごとにも囚われない原点として自由な発想を実現。Z900RS以降の新型車を中心に展開するという。それも含めての2020年の新作として3台目のデモ車を作ったのだが、1機種で3台のデモ車というのは珍しいことではないだろうか。その事情を代表の正本晃二さんに尋ねてみたところ、こう答えてくれた。
「それだけZ900RSが魅力的ということでしょう。各部の作りが現代的でも、やっぱりカワサキの4気筒車は、カスタムの素材としていい素性を持ってるんです。だからいろいろな提案をしたくなる。しかもお客さんからの反響が非常に大きいバイクですから、我々としてもやる気が湧いてくる(笑)。それで、前の2台とは異なるスタンスで3台目のデモ車を作りました。今回のテーマは〝現代的なカフェレーサー〞。ハニカムデザインの削り出しパーツを各部に使ったり、カーボン地を活かしたエアブラシ塗装もしたり。あとはブラックアウトを徹底したりと、これまでにない手法を採り入れたのも特徴です」
そう言われてPMCの最新デモ車をじっくり眺めてみると、2018年に発表した2台が1970年代テイストだったのに対して、今回は明らかにモダンな雰囲気。あえて言うなら、大き目のビキニカウルは古き良き時代を思わせるけれど、他の部分と統一してペイントされているからか、違和感はまったくない。全体の印象はアダルトかつシックといった感じで、Z900RS/カフェのカスタムで、こういった手法は珍しい気がする。
「確かに、今回の手法は王道ではありません。でもZ900RS(含むカフェ)のオーナーさんには、往年のスタイルにこだわらない人が意外に多いんですよ。そういう方たちのために新しい楽しみ方を提案するのが、3台目のデモ車の狙いです。もちろん1970年代テイストの再現は大いにありで、当社のデモ車も1台目と2台目はそういう方向性でしたが、Z900RSはさまざまな可能性を秘めたバイクですからね。これまでの常識にこだわる必要はないでしょう」
ポジション関連部品とリヤサスの絶大な効能
正本さんの言葉にあるように、Z900RSの楽しみ方に、こうだといった決まりはない。とはいえ、これまでにH&Lが掲載したカスタムマシンを改めて振り返ると、ほとんどがライディングポジション関連部品とリヤショックを変更していた。となると、Z900RSのキモは、ライポジとリヤショックなのだろうか?
まず言ってしまえば、PMCの最新作は、その2点が車体に及ぼす影響が明確に認識できる乗り味だった。 まずはライポジ関連部品の話をすると、ハンドルに違いはあるものの、Z900RSもカフェもノーマルの乗車姿勢はどちらも大らかで、もちろんそれは決して悪いことではない。これを前提とすると、低めのハンドルとバックステップを装着したPMCのデモ車は、車格がコンパクトに思える。その上、操作に対する反応が俊敏で、見方によってはノーマルよりフレンドリーな印象。その恩恵は常用域だけではなく、スポーツ走行でも十分に感じられるし、小柄なライダーにとっては大きな利点になってくれるだろう。
ステップに関しては、20mmバック/20mmアップ(30mmアップ/30mmバックも選択可)というポジション設定が絶妙だったことに加えて、バーの踏み応えが抜群なことや、シフトフィーリングが上質&確実なことも、ノーマルからの変化を感じられた部分。カスタムマシンのインプレッション記事ではなかなかメインの話題にならないようだが、ステップはハンドリングに多大な影響を及ぼすのだ。
また、ハンドリングと言えば、大き目のビキニカウルがあるにも関わらず、低速域での切れ込みや高速域での不安をまったく感じなかった。これも1978年型Z1-R(現役時代の欧米で賛否が分かれた、カワサキ初のビキニカウル装着車)を知る身としては印象的だった。往年のZ系と現代のZ900RSでは、設計もディメンションもテイストも異なるから、今さら言うことでもないのだが。
さて、もうひとつのポイント、リヤショックだ。ノーマルは硬いと言うより初期の動き出しがいまひとつで、ストローク奥での落ち着きが良好とは言えない。だからアフターマーケット製に交換したくなるのだが、この車両で装着するYSS・MAシリーズの効能は、予想以上だった。具体的には、常用域での乗り心地が格段に良好になる。しかもスポーツライディング中はリヤが安定しているだけではなくトラクションが濃厚に伝わって来る。さらに、リヤの性能が上がった効果で、フロントフォークの動きもしっとり安定する。その結果、ノーマルの足まわりの雑然とした雰囲気は、この車両ではほとんど感じられなかった。
そんな現状の乗り味は、次の考えを誘発する。個人的にはPMCオリジナルのアルミ鍛造ホイール、ソードの前後18インチを試したくなったし、ブレーキ換装を考えたくなる人もいるだろう。でも、そのあたりがZ900RSの面白いところだ。こんなふうにライディング中にカスタムプランが次々と浮かんでワクワクできるバイクは、めったに出てくるものでもない。つまりZ900RSには、往年のZ系や1990年代以降のゼファーシリーズ、ZRXシリーズなどと同じ血が流れている。その変化も楽しめるし、そのベースとしてライディングポジションとリヤショックに手を入れるのが有効だと、このPMC最新作からは教えてもらえたようだ。
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PMC・Z900RS Detailed Description【詳細説明】
アンダーカウルやチェーンカバー一体型リヤフェンダー(後方に12mm延長)、エンジンサーモゲージ、「Z948RS」のエンブレム、アールズのラジエーターホースも、PMCオリジナル。
ビキニカウルのモチーフは、1970年代の日本市場で絶大な人気を誇ったロードペガサス。ステーはかなり頑丈な構造で、ハンドリングに対する悪影響はまったく感じられなかった。
低めのテーパーハンドルは試作品。バックミラーは定番のZ2タイプで、フロントマスターシリンダーのリザーバータンクは2017材を用いたPMCのビレット仕様に変更されている。
ノーマルより60mm長いロングテールカウルとリアフェンダーレスキットを装着することで、後方から見たマシンの印象は一変。リヤウインカー取り付け位置は2カ所から選べる。
LEDリングポジションランプは、外周がポジション、中央がストップランプとして機能。レンズはクリアとスモークの2種。なお撮影車のペイントは大阪のラスティックが担当。
サイドカバーはZ1/2のイメージを再現。量産品はFRPとカーボン+FRPのハイブリッド品が用意されるが、デモ車のサイドカバーは試作時は純カーボン素材だった。リヤショックはPMCが輸入代理店を務めるYSSのMAシリーズ。
ラジエーター側面にはアルミ削り出しのサイドロッド、前部にはステンレス製のヘックスコアプロテクターを追加。カラーは他の金属系部品と同じく、ブラックとシルバーの2種。
3.50-17/5.50-17インチのアルミホイールと前後ブレーキはノーマル。KYB製φ4mm倒立フォークには、今後はYSSが開発中のインナーカートリッジキットを投入する予定だ。
フレーム前部と中央、スイングアームピボット、クランクケース左右カバーには、アルミ削り出しのスピンホイルプラグを装着。フレーム用には脱落防止のOリングが付属する。
ステップ/エンジンマウント/リヤサスリンクプレートには、ハニカムデザインを導入することで、既存のアルミ削り出しパーツとは趣が異なる、独創的な質感を実現している。
撮影車が装着するステップは、ハニカムデザインのアルミ削り出し品。オーナーの好みでポジション調整が可能だ。
既に市場で好評なLOUDEX(ラウデックス)ショート管に続く形で、PMCでは水圧でサイレンサーを成型する新作のフルエキを開発していた。