文:山口銀次郎、小松信夫/写真:柴田直行
ドゥカティ「ムルティストラーダ950 S」インプレ・解説(山口銀次郎)
アルプスローダーの目指す真の姿に到達!
あらゆる路面状況をものともせず、ロングトリップまで可能にしてしまう居住性を構築し、包容力に満ちたチカラを提供する、そんな幅広い対応力を備えるムルティストラーダ・シリーズ。
スポーツ性能やラフロードの走破性、ロングトリップでの快適性に付き合いやすいフレンドリーさ等々、カテゴライズし特化されるべき特性を1台のバイクに凝縮し、オリジナルの個性として昇華させ、デビュー以降人気を博しているモデルとなっている。
ムルティストラーダ・シリーズは、1158ccのV4エンジンを搭載した「ムルティストラーダV4」、さらに伝統の1260ccLツインエンジンを搭載した「ムルティストラーダ1260エンデューロ」、そして今回試乗した「ムルティストラーダ950 S」の3タイプを用意。
シリーズ最小排気量モデルとなるムルティストラーダ950 Sは、リッターモデルに迫る排気量を誇るが、他の2モデルを前にするとどことなくミドルクラスの様な立ち位置に感じてしまうが、熟成に熟成を重ねたパフォーマンスは特級品といって過言ではないだろう。
2021年モデルは、見た目に大きな変化はないものの、新デザインの19インチスポークホイールを採用し、MotoGPマシンからヒントを得たカラーリングを採用するほか、ムルティストラーダの真骨頂ともいえる足まわりの装備を強化させている。
今回の試乗では、ライディングモードと足まわりの調整機能の相乗効果について注目してみたいと思う。
エンジンの出力特性を変化させる4タイプのライディング・モード設定(ツーリング、スポーツ、アーバン、エンデューロ)と、乗車人数や荷物の搭載有無など負荷条件(ライダーのみ、+パニアケース、ライダーとタンデムライダー、+パニアケース)に対応するショックアブソーバーの調整機能(ドゥカティ・スカイフック・サスペンション:DSS EVO)を備えており、それぞれボタンひとつで簡単に調整変更が可能となっている。
本来ならば初期設定のキャラクターや方向性、さらにはパフォーマンスを探りどういったモデルであるか知り伝えていきたいのだが、それではどこか本筋を違えている様に感じられてならない…。
設定や調整のひとつひとつが「微妙な変化」ではなく、確固たる、しかもダイナミックなほどの変化を見せるため、走りの個性があまりにも変化してしまうのだ。
ライディングモード切替は、エンジン出力の特性を変化させるだけではなく、それぞれにあった足まわりの設定まで盛り込まれており、例えるならスポーツモデルがオフロードモデルに、ツアラーが街乗り仕様にと、細かな調整を抜きに大きな変化をもたらす。
それこそ、走行状況に合わない設定で走行すると気持ち悪さすら感じるほどの設定の振り幅をみせるのだ。
ワインディングでは、荒れた路面や濡れた路面、高低差があるコークスクリュー的コーナー等多岐に渡るシチュエーションをおよそ100kmほど走行。
それぞれのライディングモード設定に加え、前後ショックアブソーバーの調整が手軽に素早く変更出来るので、走行状況に不釣り合いな設定を乗りこなすのとは真逆に、イメージした走行ラインを苦せずスッと抵抗なくなぞることが出来た。
それは無駄なく、それでいて攻めたラインに残る余韻が生まれるような、絶妙な走りを提供してくれた。もちろん、微調整でトライ&エラーを繰り返し導き出した答えであったからこそ、極上の瞬間に身を委ねることが出来たのだろう。
特筆するポイントとして、それぞれの設定が新しくなった高解像度のTFTカラー液晶ディスプレイとバックライト付きハンドルバースイッチとの組み合わせは使い勝手を追求したガジェットの様に、悩むことなく好きなように操作できたことは正直嬉しかった。
デバイスが豊富であったとしても、使いこなせなかったり、難しすぎて一度設定したらそのままというのではもったいなさすぎる。早朝から走行をして昼前には、あらゆる設定をトライすることが出来た。ただワンディングを楽しむというベクトルとは異なる楽しみ方に夢中になっていた。
新ムルティストラーダ950 Sは、型にハマったキャラクター付けがまったく出来ず、ある意味その増強したといえる多面性こそが最大の個性ではないだろうかと実感した。