800cc化されて2シーズン目を迎えようとしているモトGPでは、ホンダの採用により、日本製4車がニューマチックバルブに足並みを揃えた。この技術の流れをリードし、いち早く実戦投入したのはスズキだった。そして、800cc初年度には、前年型の排気量を縮小したといえるマシーンでついに優勝。ターニングポイントにおける先進と抑制のバランスが見事である。

Photos:Teruyuki Hirano

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990cc最後の2006年シーズン「SUZUKI GSV-R」を詳細解説

画像1: 990cc最後の2006年シーズン「SUZUKI GSV-R」を詳細解説

ドイツの2D製メーターを中央に配したコクピット。このモデルではアルミの地肌のままのカウルステーを目障りに感じたが、2007年型ではカーボンパーツに交換された。

フォークピッチ(左右のフロントフォーク中心間の距離)は215㎜近辺。車体各部に張られた“J5”の識別記号は、ジョン・ホプキンスのマシーンであり、2006年型の5番目に製造されたことを示している。

これは、XRE4の2006年型5基目の車体であることを示す“XRE4F6005”と同じく、現場での識別/管理を容易にするためのもので、ストリートモデルのフレームナンバー(車台番号)ほど厳格ではない。

転倒などの単純な修復が目的(仕様変更のためではなく)でフレームを交換した場合は、モトGPでは、もとのフレームナンバーを新フレームに張り直すのが一般的である。

画像: 真横から見た印象とは異なり、フロントカウルの表面に鋭い角はなく、緩やかな曲面で構成されている。ゼッケン下の穴は走行風圧を吸気エアボックスに導くダクトの入り口である。2006年シーズン中に何種類かを実戦テストした後、最終的にこの形状/大きさになった。

真横から見た印象とは異なり、フロントカウルの表面に鋭い角はなく、緩やかな曲面で構成されている。ゼッケン下の穴は走行風圧を吸気エアボックスに導くダクトの入り口である。2006年シーズン中に何種類かを実戦テストした後、最終的にこの形状/大きさになった。

画像: ホンダ以外の4メーカーが使用する2Dのメーターには、左上のRに沿ったバーグラフ式タコメーターの他、大小合わせて4組の数字が並んでいるが、どこにどんなデータを表示させるかは設定次第。メーター枠の上縁に並んだ8個のフラッシュ(おそらく高輝度LED)は、設定した回転数に達すると発光し、シフトアップポイントを知らせる。パネルの左側には、データロガーに記録されたデータの転送やECUのメモリー書き換え時にPCを接続するためのコネクターが並んでいる。

ホンダ以外の4メーカーが使用する2Dのメーターには、左上のRに沿ったバーグラフ式タコメーターの他、大小合わせて4組の数字が並んでいるが、どこにどんなデータを表示させるかは設定次第。メーター枠の上縁に並んだ8個のフラッシュ(おそらく高輝度LED)は、設定した回転数に達すると発光し、シフトアップポイントを知らせる。パネルの左側には、データロガーに記録されたデータの転送やECUのメモリー書き換え時にPCを接続するためのコネクターが並んでいる。

巻き取り径が非常に小さいスロットルハウジングが特徴の左ハンドルまわり。スロットルワイアは引き側の1本のみ。φ19×18㎜サイズのラジアルポンプ(ブレーキマスターシリンダー)はブレンボの契約チーム専用品。

スイッチボックスには“BATTERY”の文字があるが、おそらくこの赤ボタンが電装系の電源スイッチで、その下がキルスイッチか。さらに下にある“PIT”と書かれた押しボタンは、ピットロードでの速度超過(ペナルティの対象)を抑制するためのもの。

ブレンボのφ19×18 クラッチマスターシリンダー、ブレーキレバーの位置調整用ダイアル、ECUの制御モード切り替え用とおぼしきスイッチを配した左ハンドルまわり。ブレーキレバーは2分割式だがクラッチレバーは一体物。

ピボットはカラーとクリップで留め、クリップの飛散防止にタイラップを通している。ハンドルバーは左右とも、すり割り入りのブラケット部にバーを溶接したアルミ製。バーエンドには、しっかりとした防振効果のありそうなウェイトを装着している。

画像2: 990cc最後の2006年シーズン「SUZUKI GSV-R」を詳細解説

左ステップも右と同様な造りのアルミ削り出しホルダーにマウントされているが、他のパーツを支える必要のないこちら側のヒールガードはドライカーボン製。シフトペダルのピボットはステップバーと同軸ではなく、そこから下に大きく下がった位置にシフトロッドのピボットがある。

ペダル先端は可倒式。ペダル先端の可動部分を避けるように、フレーム(スイングアームピボットプレート)に凹みが加工されている。

画像3: 990cc最後の2006年シーズン「SUZUKI GSV-R」を詳細解説

シフトロッドの途中にある円筒形パーツは、圧力差によって電気抵抗値が変化する歪みゲージ(圧力センサー)であり、ペダルのタッチを悪化させることなくシフト操作を検出できる。

ここからの信号で点火系と燃料系を制御することにより、クラッチを操作しなくてもシフトアップ/シフトダウンを可能にしている(シフトアップのみを可能とするレース用パーツは、かなり以前から市販されている)。

画像: フロントカウルを外した正面からの眺め。略六角形の開口部につながるのは、このような、下のふたつの角を落とした三角形に近い断面のダクトである。ダクトの両脇にあるブラックボックスは、向かって左(車体右側)が2Dのデータロガー、右がECU。ECUのケースに書かれた文字から、三菱電機製と推測できる。500cc時代のマシーンよりもはるかに複雑な電気回路を持つにもかかわらず、近年はどのメーカーも配線やカプラーの配置と取り回しをすっきりさせている。

フロントカウルを外した正面からの眺め。略六角形の開口部につながるのは、このような、下のふたつの角を落とした三角形に近い断面のダクトである。ダクトの両脇にあるブラックボックスは、向かって左(車体右側)が2Dのデータロガー、右がECU。ECUのケースに書かれた文字から、三菱電機製と推測できる。500cc時代のマシーンよりもはるかに複雑な電気回路を持つにもかかわらず、近年はどのメーカーも配線やカプラーの配置と取り回しをすっきりさせている。

画像: ステアリングダンパーはオーリンズ製の油圧式で、前方に効力調整ダイアルを持つ。フロントフォークのロアブラケットは左右各2本のボルトで締めつけられる。トップブリッジとは微妙に色合いが異なるが、こちらもマグネシウム製かもしれない。ラジエターとダクトを結ぶカーボンFRP製のエアシュラウドに取り付けられた白い樹脂製タンクには、フューエルタンクにつながるブリーザーチューブが差し込まれており、前方のニップルから上に伸びる配管からラム圧を導き、吸気エアボックス内とフューエルタンク内の圧力差を補正している(補正しないとフューエルタンク内がエアボックス内よりも低圧となり、最悪の場合、インジェクターへのガソリンの供給に支障が出る)。

ステアリングダンパーはオーリンズ製の油圧式で、前方に効力調整ダイアルを持つ。フロントフォークのロアブラケットは左右各2本のボルトで締めつけられる。トップブリッジとは微妙に色合いが異なるが、こちらもマグネシウム製かもしれない。ラジエターとダクトを結ぶカーボンFRP製のエアシュラウドに取り付けられた白い樹脂製タンクには、フューエルタンクにつながるブリーザーチューブが差し込まれており、前方のニップルから上に伸びる配管からラム圧を導き、吸気エアボックス内とフューエルタンク内の圧力差を補正している(補正しないとフューエルタンク内がエアボックス内よりも低圧となり、最悪の場合、インジェクターへのガソリンの供給に支障が出る)。

画像: 略三角形断面のダクトはステアリングヘッド部でフレームに固定されており、メーターや電装パーツのステーにもなっている。ダクトを通る空気は、ステアリングシャフトを避けて両脇に分流し、フレームを貫通して吸気エアボックスに向かう。こちら側のエアシュラウドに取り付けられた樹脂製のタンクはラジエターのリカバリー用。ブリーザーは、後方に伸びるもう1本のチューブで下向きに大気開放される。

略三角形断面のダクトはステアリングヘッド部でフレームに固定されており、メーターや電装パーツのステーにもなっている。ダクトを通る空気は、ステアリングシャフトを避けて両脇に分流し、フレームを貫通して吸気エアボックスに向かう。こちら側のエアシュラウドに取り付けられた樹脂製のタンクはラジエターのリカバリー用。ブリーザーは、後方に伸びるもう1本のチューブで下向きに大気開放される。

フューエルタンクまわりは複雑な構成となっている。フィラーキャップの周囲にわずかに見える部分がフューエルタンク本体であり、白い“J5”の文字が張られた部分は後ろ半分の形状を整えるためのカバー。黄色い“+”ステッカーが張られた部分は吸気エアボックスのフタで、これを外すと吸気エアボックスの内部と、その脇に設けられた圧搾空気タンクが姿を現す。

これら2枚のカバーの間に、分割構造のエアボックス背面と側面が見える。フィラーキャップ周囲の燃料タンク底面は大きくえぐられ、吸気エアボックスにスペースを占領されているため、シート下に大きく張り出して内容積を確保している。

画像: シートは、左右各2本のボルトでフレームに固定されるが、アルミ製のフューエルタンク本体とも結合しており、通常はシートとタンクをまとめて脱着するようだ。テールカウルは単独で取り外しが可能。

シートは、左右各2本のボルトでフレームに固定されるが、アルミ製のフューエルタンク本体とも結合しており、通常はシートとタンクをまとめて脱着するようだ。テールカウルは単独で取り外しが可能。

画像: シートのストッパー部の両脇には縦長の穴が開いており、ここから入った空気は、一部がテールカウル内のインナーカウル裏面に沿って後方に向かい、残りはテールカウル上面の穴から後方に排出される。排気管後部の高熱から、シートや車載カメラを保護するためだろう。

シートのストッパー部の両脇には縦長の穴が開いており、ここから入った空気は、一部がテールカウル内のインナーカウル裏面に沿って後方に向かい、残りはテールカウル上面の穴から後方に排出される。排気管後部の高熱から、シートや車載カメラを保護するためだろう。

テールカウルの内側にあるインナーカウルは、最後尾で排気管と結合している。インナーカウルが排気管を吊り下げているのではなく、これは両者の接触を防ぐための位置決めであり、排気管支持のメインは、2-1集合部にある逆三角形のアルミステーだと思われる。

ところが、フューエルタンク/シートを外した状態では、逆に、排気管がインナーカウルやそれと結合したカバー類を支える形になる。

画像: 3本のマウントボルトを緩めてインナーカウルを取り外して初めて、2-1集合部〜排気管終端部が完全に姿を現す。メガホン状のテールパイプは、短い円筒を溶接で継ぎ合わせて形づくられている。曲がりのないテーパーや直径変化のない曲がりは容易に造れても、直径が変化しつつ曲がった管をチタンの薄板で造るのは難しいのだろう。

3本のマウントボルトを緩めてインナーカウルを取り外して初めて、2-1集合部〜排気管終端部が完全に姿を現す。メガホン状のテールパイプは、短い円筒を溶接で継ぎ合わせて形づくられている。曲がりのないテーパーや直径変化のない曲がりは容易に造れても、直径が変化しつつ曲がった管をチタンの薄板で造るのは難しいのだろう。

画像: 後ろ側2気筒分のエグゾーストパイプがシート下右側を通るため、ステップあたりから後方にかけての広い範囲を覆う遮熱板が設けられており、その後部が前側2気筒分の排気管後端部のステーを兼用しているように見えるが、これも実は、後ろ側2気筒の排気管/インナーカウルの結合と同じく、両者の相対位置が狂わないようにする位置決めかもしれない。こちらのテールパイプも後ろ側2気筒と同様、短い円筒を継ぎ合わせた製法であり、“ヨシムラ”の文字から、ヨシムラジャパン製であることがわかる。

後ろ側2気筒分のエグゾーストパイプがシート下右側を通るため、ステップあたりから後方にかけての広い範囲を覆う遮熱板が設けられており、その後部が前側2気筒分の排気管後端部のステーを兼用しているように見えるが、これも実は、後ろ側2気筒の排気管/インナーカウルの結合と同じく、両者の相対位置が狂わないようにする位置決めかもしれない。こちらのテールパイプも後ろ側2気筒と同様、短い円筒を継ぎ合わせた製法であり、“ヨシムラ”の文字から、ヨシムラジャパン製であることがわかる。

画像: 前側2気筒のテールパイプは2-1集合部と一体で、集合部分をフレームにマウント。オイルパンを避けてエンジン底部左側から後方に取り回されたエグゾーストパイプは、スイングアームピボット下で右に回り込み、2-1集合部直前で後方に向きを変えている。マスの集中に悪影響を与えないようにしながら排気管長を稼ぐための方法である。

前側2気筒のテールパイプは2-1集合部と一体で、集合部分をフレームにマウント。オイルパンを避けてエンジン底部左側から後方に取り回されたエグゾーストパイプは、スイングアームピボット下で右に回り込み、2-1集合部直前で後方に向きを変えている。マスの集中に悪影響を与えないようにしながら排気管長を稼ぐための方法である。

SUZUKI GSV-R(2006)<No.04>へ続く

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