“何が何でも勝つ”と決めたときのホンダは、恐ろしい存在だ。ヘイデンとの二人三脚で未完のニュージェネレーションを仕上げ、見事にタイトルを獲得。一方で量産型マシーンのオリジナルにおいても優勝という結果を残して戦闘力を実証。さらにはエンジン供給メーカーとしても完璧な役割を果たした。

Text:Yoshiyuki Matsuda and Nobuya Yoshimura Photos:Yushi Kobayashi and Honda

ニューマシンの開発を続けながら、オリジナルの完成度の高さをも証明

基本レイアウトやデザインは共通しているものの、エンジン、フレームとも新設計されたRC211Vのニュージェネレーションは、2004年から製作が検討されていた。目的は990㏄でもう一度チャンピオンを獲得するためであり、800㏄マシンのための先行技術開発ではない。

ホンダとしては、ヤマハに負けたまま990㏄時代を終えるわけにはいかなかったし、2002〜2003年のタイトル獲得が、バレンティーノ・ロッシの腕前のおかげであったとするわけにもいかなかったのだ。“オリジナル”と呼ばれる従来のRC211Vには、減速時の安定性が足りないという弱点があった。コーナー進入時のブレーキングで、ホッピングが起きる。

減速が安定しないから、ライダーが競り合いで突っ込めば突っ込むほど、旋回初期で曲がらなくなる。この問題を改善するため、ホンダはオリジナルのモディファイを続けていたが、弱点を補うだけでなくアドバンテージを得られるほどステップアップするには、車体レイアウトそのものを再設計する必要があると判断した。

Original(RC211V)エンジン

画像: ペドロサとサテライトチームのライダー、チーム・ロバーツに供給されたオリジナルのV5エンジン。2005年型をベースにし、作動部分の低フリクション化を中心に熟成を進め、制御系の進化と併せて戦闘力を向上。絶対に壊れないという高い信頼性を確保するのも重要な課題であった。

ペドロサとサテライトチームのライダー、チーム・ロバーツに供給されたオリジナルのV5エンジン。2005年型をベースにし、作動部分の低フリクション化を中心に熟成を進め、制御系の進化と併せて戦闘力を向上。絶対に壊れないという高い信頼性を確保するのも重要な課題であった。

ニュージェネレーションではエンジンが小型化されているが、小型化が第一の目的ではなく、理想とする車体レイアウトを得るためにエンジンの再設計が必須となったのだ。その理想とは、前述の弱点を大幅に改善する“(しなやかさ)”を引き出すもので、実走テストで得ていたデータから、スイングアームを延長する必要があると判明。

しかし、従来のエンジンとフレームを使ってスイングアームを伸ばす手法では、ホイールベースも伸びてしまう。そこで、エンジン、フレーム、スイングアームのすべてを一新したのだ。この新型RC211Vのプロトタイプが完成をみたのは2005年のシーズン中である。すでにロッシ+ヤマハに独走されていたホンダは、終盤戦での投入を目論んだ。

しかし8月下旬のブルノ(チェコ)でレギュラーメンバーによるテストを行ったところ、実戦投入は時期尚早と評価された。徹底的に小型化したエンジンはパフォーマンスの点でトップライダーたちが求めるレベルに達しておらず、車体もコーナーによって旋回のキャラクターが異なってしまう、という状態だった。

New Generation(RC211V)エンジン

画像: 前3気筒、後ろ2気筒の75.5度V5という基本レイアウトを踏襲しながら新設計されたニュージェネレーション用エンジン。小型化が主な目的で、クランクシャフトとドライブスプロケット間を短縮、オリジナルと比べると、前後長で60㎜、幅で30㎜も小型。細部の設計もかなり異なる。

前3気筒、後ろ2気筒の75.5度V5という基本レイアウトを踏襲しながら新設計されたニュージェネレーション用エンジン。小型化が主な目的で、クランクシャフトとドライブスプロケット間を短縮、オリジナルと比べると、前後長で60㎜、幅で30㎜も小型。細部の設計もかなり異なる。

ニュージェネレーションは、圧倒的な完成度の高さを誇るホンダとしては珍しく、不安定なマシンだったのだ。だからこそファクトリーチームのレプソル・ホンダのみの供給とし、しかもモトGPルーキーのダニ・ペドロサは実績のあるオリジナルでの参戦になった。

そしてニッキー・ヘイデンひとりが走らせたニュージェネレーションは、シーズン中のモディファイを繰り返しながら2006年を戦う。プレシーズンテストを含めた終盤戦まで、エンジンは5度の仕様変更が行われ、パワー/トルクアップとレブリミットの上昇が進められた。車体は6度のバージョンアップを行い、加速初期のトラクションを向上させていった。駆動系では、クラッチに熱による不具合が発生し、シーズン後半で対策が進められた。

マシンが文句のない状態にまで仕上がったのは、残り2戦という段階であった。ヘイデンとエンジニアたちは、シーズン中の苦労を承知のうえでニュージェネレーションの開発に臨み、一丸となってタイトルをもぎ取ったのである。

車体レイアウト比較

画像: コーナーのアプローチにおける車体の安定性と初期旋回性の向上がニュージェネレーションでの最優先課題。そのためには全体のパッケージで靭性を出すのが有効と考え、手段のひとつとしてスイングアーム軸間の延長が挙がった。しかし、ホイールベースが伸びてしまうと意味がないので、スイングアームを伸ばすために、エンジンの小型化、フレームの新作を決定。前後長が短くなったV5ユニットを前方に移動した。オリジナルと比べると、同じホイールベースなのに、ドライブスプロケット軸、スイングアームピボットが前にずれているのがわかる。

コーナーのアプローチにおける車体の安定性と初期旋回性の向上がニュージェネレーションでの最優先課題。そのためには全体のパッケージで靭性を出すのが有効と考え、手段のひとつとしてスイングアーム軸間の延長が挙がった。しかし、ホイールベースが伸びてしまうと意味がないので、スイングアームを伸ばすために、エンジンの小型化、フレームの新作を決定。前後長が短くなったV5ユニットを前方に移動した。オリジナルと比べると、同じホイールベースなのに、ドライブスプロケット軸、スイングアームピボットが前にずれているのがわかる。

ホンダは2006年、完璧な結果を残したといえる。ヘイデンとレプソルは勝利数こそ少ないものの、特別なマシンの開発を行いながらチャンピオンを獲得した。一方でオリジナルの完成度を上げる開発も進め、ペドロサが2勝、サテライトのマルコ・メランドリが3勝、トニ・エリアスが初優勝と、量産型マシーンとして文句ない成績を残している。

ホンダはさらにエンジン供給メーカーとしての活動も行い、チーム・ロバーツの大躍進に貢献。ヤマハがロッシ、ドゥカティがロリス・カピロッシと、ひとりのライダーに頼らざるを得ない状況であったのに対し、ホンダは4名のライダーで8勝を挙げた。どうしても勝ちたかったホンダは、ホンダにしか見せられない広範囲での強さを発揮して990時代を締めくくったのだ。

出力特性の違い

画像1: ニューマシンの開発を続けながら、オリジナルの完成度の高さをも証明

理想とする車体レイアウトを実現すると同時に、小型化されたエンジンはマスの集中化に貢献するだけなく、7%の軽量化も達成。もちろんパフォーマンスも上げており、徹底したフリクションの低減により、オリジナルのトルク/パワーを上回る。ただし、小型化しながらの出力アップは耐久性に影響したため、ファクトリーのみの使用、サテライトチームに供給しない理由になった。

エンジンサイズ比較

画像2: ニューマシンの開発を続けながら、オリジナルの完成度の高さをも証明

HITCS II

画像3: ニューマシンの開発を続けながら、オリジナルの完成度の高さをも証明

スロットル操作を電子制御するHITCS(ホンダ・インテリジェント・スロットル・コントロール・システム)も、ニュージェネレーションでは進化版となるタイプⅡを使用。

ライダーのスロットル操作を電気信号に変換し、モーターでスロットルバルブを駆動するフライ・バイ・ワイアとは異なり、HITCSではスロットルケーブルとスロットルバルブの間に差動ギアを設け、その差動ギアにモーターで駆動をかけることによってスロットルバルブ開度を制御する。

オリジナルで使用されている従来型では、このモーター制御が5気筒すべてに影響していたが、HITCS Ⅱでは前バンクの3気筒がスロットルグリップ開度に対してリニアに連動、後ろバンクの2気筒のみを電子制御する。5気筒すべてを電子制御するのに比べ、スロットルの開け始めや全開時におけるコントロールがより緻密にできるようになった。

タイプⅡのシステムをイメージしたイラストだが、前側3気筒のスロットルバルブがスロットルケーブルと機械的に直接つながっていることがよくわかる。一方、後ろ側2気筒のスロットルバルブとケーブルの間には差動ギアがあり、その差動ギアにモーターで駆動がかけられるようになっている。

1〜3速ではモーターで差動ギアを駆動してスロットルグリップ開度とスロットルバルブ開度の比率を変更、ギアポジションごとにマッピングされたスロットル開度とし、低速ギア使用時の余分な駆動力を抑制する。

HONDA RC211V(2006)<No.06>へ続く

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