モトGPにおける戦略の転換を図ったホンダは、ヘイデンにタイトルを取らせるためのマシンと態勢を用意。ニュージェネレーションと名づけられたそのマシンは、狙いどおり、2006年のモトGPチャンピオンに輝いたが結果だけでなく、狙いを絞ったコンセプトとそれを形にした技術、そして、鍛え上げた努力にも心から称讃を贈りたい。

Text:Nobuya Yoshimura Photos:Teruyuki Hirano

タイトル獲得には何が必要かを分析/再構築した、最も純粋なワークスマシン

画像1: タイトル獲得には何が必要かを分析/再構築した、最も純粋なワークスマシン

従来モデルと比べて30㎜長いスイングアームは、モトGPマシン中最長と思われる。ホイールベースは1460㎜程度で変わらないため、前後輪の間で、エンジンを中心とした部分の凝縮度が高まっている。

この“ニュージェネレーション”モデルは、エンジンだけでなくフレームも従来型とは完全に別物である。アルミ材料を用いたツインスパー形式であることに変わりはないが、エンジン上部からステアリングヘッドに至る部分の側面が大きくなり、剛性バランスの適正化をさらに進めたものと思われる。

同時に、側面の穴の位置と形状が変わり、フロントカウルから吸気エアボックスに至る新気導入ダクトを直線化。

画像2: タイトル獲得には何が必要かを分析/再構築した、最も純粋なワークスマシン

従来型RC211Vの優れた性能を継承しつつ、混戦で優位に立てるエンジン特性と操安性能をめざし、従来型と同じホイールベースの中でスイングアームを延長したのが“ニュージェネレーション”モデルの最大の特徴。これは、コーナー進入時の安定性向上を狙った策である。

細部を実績あるパーツで固めつつ、ヘイデン専用車ならではの造り込みを見せる

2006年のモトGPに、ホンダは、性格の異なる2種類のマシンを投入した。車名はどちらもRC211Vであり、75.5度のV型5気筒990㏄というエンジンの基本にも変わりはないが、ゼッケン69をつけたこのマシンは“ニュージェネレーション”モデルと呼ばれ、ワークスチームのエースライダーであるニッキー・ヘイデンのために開発されたスペシャルマシーンである。

画像: 4サイクル・水冷・990㏄・75.5度V型5気筒・1気筒あたり4バルブ…と、ここまでは従来型と変わらないが、クランクシャフト/ミッションのメインシャフト/同カウンターシャフトの3本の軸間距離を詰めるとともに配置を見直し、前後長を60㎜、幅を30㎜短縮。フロントホイール〜ドライブスプロケット間の距離が短くなり、従来型と同じホイールベースでありながら、30㎜長いスイングアームの装着が可能になった。クランクケース前方右側下部にある水冷式オイルクーラー(大きなアルミの円筒形パーツ)は従来型よりも大型化され、その前面にマウントされていたカートリッジ式オイルフィルターは廃止された。思い切った小型化、徹底したフリクションロスの低減、最高出力の3%以上の向上を果したエンジンは、サテライトチームには供給しない(ワークス直営チームによるフルメインテナンスを受ける)ことを前提に、耐久性に関する余裕の部分を少々落としたとのこと。フレーム形状も、従来型とは異なった、側面の上部に2カ所の大きな開口部を持ったものであり、完全に新設計されたことがわかる。

4サイクル・水冷・990㏄・75.5度V型5気筒・1気筒あたり4バルブ…と、ここまでは従来型と変わらないが、クランクシャフト/ミッションのメインシャフト/同カウンターシャフトの3本の軸間距離を詰めるとともに配置を見直し、前後長を60㎜、幅を30㎜短縮。フロントホイール〜ドライブスプロケット間の距離が短くなり、従来型と同じホイールベースでありながら、30㎜長いスイングアームの装着が可能になった。クランクケース前方右側下部にある水冷式オイルクーラー(大きなアルミの円筒形パーツ)は従来型よりも大型化され、その前面にマウントされていたカートリッジ式オイルフィルターは廃止された。思い切った小型化、徹底したフリクションロスの低減、最高出力の3%以上の向上を果したエンジンは、サテライトチームには供給しない(ワークス直営チームによるフルメインテナンスを受ける)ことを前提に、耐久性に関する余裕の部分を少々落としたとのこと。フレーム形状も、従来型とは異なった、側面の上部に2カ所の大きな開口部を持ったものであり、完全に新設計されたことがわかる。

500㏄時代をも含めて、ホンダが、ひとりのライダーのために、他のライダーとは異なるスペシャルマシーンを開発したのは、フレディ・スペンサー用のNSR500以来である。その後、ワイン・ガードナー/エディ・ローソン/マイケル・ドゥーハン/バレンティーノ・ロッシらがホンダのマシーンでタイトルを獲得するが、彼らに用意されたのは、スペシャル“仕様”ではあっても、コンセプトまで異なる別物ではなかった。

しかも、このRC211Vニュージェネレーションは、熟成し、翌シーズンは他のライダーにも供給する…ということをまったく考えていない。990㏄時代の最後の1シーズンに、ひとりのライダーにタイトルを獲得させるため…という、このうえなく限られた目的のために開発されたものである。その意味では、スペンサー用のNSR500をも超えた、ホンダの2輪レース史上、最も純粋なワークスマシーンなのである。

画像: ステアリングヘッド右脇のフレームに張られた車検(テクニカル・コントロール)ステッカー。2006年最終戦・バレンシアGPでヘイデンが優勝(と同時にタイトル獲得)を飾ったマシーンそのものの証明だ。

ステアリングヘッド右脇のフレームに張られた車検(テクニカル・コントロール)ステッカー。2006年最終戦・バレンシアGPでヘイデンが優勝(と同時にタイトル獲得)を飾ったマシーンそのものの証明だ。

画像: オイルフィルターはカートリッジ式ではなくなり、水冷式のオイルクーラー頂部からクランクケース内部(前方左側下部)に場所を変えた。外側からは、放熱フィンを持った削り出しのカバーしか見えない。

オイルフィルターはカートリッジ式ではなくなり、水冷式のオイルクーラー頂部からクランクケース内部(前方左側下部)に場所を変えた。外側からは、放熱フィンを持った削り出しのカバーしか見えない。

画像: 前側3気筒分のエグゾーストパイプは、外側の2気筒をエンジン下で集合させてスイングアーム右脇に、中央気筒は単独でスイングアームピボット下を通って、左側ステップの下部に取り回されている。

前側3気筒分のエグゾーストパイプは、外側の2気筒をエンジン下で集合させてスイングアーム右脇に、中央気筒は単独でスイングアームピボット下を通って、左側ステップの下部に取り回されている。

画像: クランクシャフト〜ミッションのメインシャフト間の距離を詰めて、配置を変更した“ニュージェネレーション”エンジンの特徴が表れた、右側クランクケースカバー前方上部。従来型ではクラッチ前方下部に配されていたエンジンオイルのフィラーキャップ(赤色アルマイトのパーツ)は、軸配置の変更とクランクケースの小型化によって、ここに移された。クランク軸中心は黄色のペイントよりも下寄りにある。

クランクシャフト〜ミッションのメインシャフト間の距離を詰めて、配置を変更した“ニュージェネレーション”エンジンの特徴が表れた、右側クランクケースカバー前方上部。従来型ではクラッチ前方下部に配されていたエンジンオイルのフィラーキャップ(赤色アルマイトのパーツ)は、軸配置の変更とクランクケースの小型化によって、ここに移された。クランク軸中心は黄色のペイントよりも下寄りにある。

画像: 限られた全幅寸法の中でクラッチの冷却を図るべく、クランクケースカバーを大きく凹ませている。クラッチの後ろ側外周1/3程度を覆うカバーは、立体成型されたドライカーボン製で、高剛性かつ超軽量。

限られた全幅寸法の中でクラッチの冷却を図るべく、クランクケースカバーを大きく凹ませている。クラッチの後ろ側外周1/3程度を覆うカバーは、立体成型されたドライカーボン製で、高剛性かつ超軽量。

画像: オイルパンには一体で鋳造された放熱フィンが設けられ、フィンのすきまに沿ってオイルプレッシャースイッチからの配線が通っている。

オイルパンには一体で鋳造された放熱フィンが設けられ、フィンのすきまに沿ってオイルプレッシャースイッチからの配線が通っている。

画像: クランクシャフト〜ミッションのカウンターシャフト(ドライブスプロケット中心)間が短縮されたのがよくわかるカット。カウンターシャフト〜スイングアームピボット間の距離は従来型と同程度である。

クランクシャフト〜ミッションのカウンターシャフト(ドライブスプロケット中心)間が短縮されたのがよくわかるカット。カウンターシャフト〜スイングアームピボット間の距離は従来型と同程度である。

HONDA RC211V(2006)<No.02>へ続く

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