モトGPにおける戦略の転換を図ったホンダは、ヘイデンにタイトルを取らせるためのマシンと態勢を用意。ニュージェネレーションと名づけられたそのマシンは、狙いどおり、2006年のモトGPチャンピオンに輝いたが結果だけでなく、狙いを絞ったコンセプトとそれを形にした技術、そして、鍛え上げた努力にも心から称讃を贈りたい。

Text:Nobuya Yoshimura Photos:Teruyuki Hirano

HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

画像1: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

2004年モデルのみでアッパーリンクを試みたリアサスペンションは、2005年型以降は、再びボトムリンクタイプに落ち着いている。

フレーム(スイングアームピボット下部の左右クロスメンバー)とリアショックユニット下端を結ぶアームの途中を、スイングアームから伸びたロッドが引っ張る方式。ショックユニット下部には、横方向後ろ向きにリザーバータンクが設けられ、その付け根の部分に圧側減衰力調整ダイアルがある。

リンクを構成するアームとロッド、そして、スイングアーム側/フレーム側でそれらを支持する部分は、いずれも削り出しパーツで、アームとロッドは硬質アルマイト処理されている。この角度から見ると、前側中央気筒のエグゾーストパイプ後端の開口部と、その先に溶接されたファンネル状パーツの形状がよくわかる。

画像2: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

右下から見たリアサスペンションのリンク。アームとロッドの結合部を避けるように、右側に取り回された前側左右気筒のエグゾーストパイプ(1本に集合した直後)と、左側に取り回された前側中央気筒のメガホン部分も見える。

ボトムエンドピースとリザーバータンクを一体で削り出した(素材はマグネシウムか)リアショックユニットには、ボールエンドミルによる三次元加工の跡が見える。その上部にあるローレットを刻んだリングは、スプリングのプリロード調整用。

画像3: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

ショックユニット上部は、フレームではなくスイングアームにマウント。この方式を“ユニットプロリンク”と呼ぶ。スイングアーム前部のボックス状の部分を縦に貫通する穴の上部に、アルミ削り出しの強固なブリッジを渡し、そこにショックユニット上端部がネジ込まれている様子がよくわかる。

ロックナット(スロッテッドナット)を緩め、最上部(黒い部分)の縁にある4カ所の切り欠きに工具をかけてショックユニット本体を回転させれば、リアの車高調整ができる。ユニット上端部中央にあるマイナスネジは、伸び側減衰力調整用。

画像4: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

ピボット〜リアアクスル間が約660㎜のスイングアームは、単純計算でホイールベースの45%を占める。プレス成型されたアルミ板の本体に、機械加工された多くのパーツを溶接した構造は非常に複雑だが、このアングルから見えるのはテールエンドピースの溶接ラインのみ。

底部を直線的、上部をなだらかなカーブにし、縦幅の大きな部分にショックユニットやリアフェンダーのマウントを配置した合理設計。

画像5: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

右側よりも大きな力がかかる左側のチェーンプラーは、表裏とも同じ厚さ/同一形状の肉抜き穴とした、右側よりも強固な造り。アジャストボルトは、反時計方向に回すことにより、ツバ部分がチェーンプラー裏面に当たり、後方に押しやる構造。ロックナットがないが、調整を済ませ、アクスルを締めつけた後に少し反時計方向に回転させて遊びをなくしておけば、構造上、緩むことはない。

フランジ部に見えるサークリップは、チェーンプラー後端の穴にアジャストボルトを通した後、フランジ部がその奥にあるワッシャを押せる構造にするためのもの。調整時、アクスルを前方に動かすだけでよく、こちら側には駆動力はかからないから、非常に簡素な構造で充分。大径薄肉のアクスルは、頭部のフランジを水滴型に加工し、出っ張った部分をスイングアームの溝に当てることによって回り止めにしている。

歯数40のドリブンスプロケット(ドライブ側は15、チェーンは122ピン)は、チタンの削り出しで、6セットのチタン製スペシャルボルトとアルミのナット(青色アルマイト処理)を用い、ホイールにリジッドマウントされる。アクスル前方に見えるフックはレーシングスタンド用であり、その前方にあるドライカーボン製のプレートは、転倒時などの巻き込み防止用。レギュレーションで装着が義務づけられたパーツである。

画像6: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

トップブリッジとスクリーンに囲まれたスペースに、大型のアナログ表示のタコメーター(17000rpmまで)と液晶表示部を一体化したメーターパネルをマウントしたコクピット。

走行中の視認性/操作性のよさを従来モデル以上に追求したのも“ニュージェネレーション”の特徴である。アルミ材を曲げたり継いだりするのではなく、立体成型されたドライカーボンによる超軽量(ネジを含み70グラム)かつ高剛性なカウルステーを使用したのもその一例だ。

画像7: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

メーターパネル右側の液晶表示部は、電源を入れた直後にはRC211Vのロゴが表示され、同時にセルフチェックが始まり、タコメーターの針は17000rpmを大きく超えるところまで往復する。このとき、パネル上方のLEDインジケーターは、2個並んだ青/赤/右にやや離れた緑とも点灯。

画像8: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

その後、タコメーターの針は真下の5000rpmの位置に戻り、青と緑のインジケーターが消灯し、液晶表示部には、エンジンマネージメントシステムの3種類のマップのうち、どれを選んでいるか/トラックセンサーからの情報に基づくラップタイム/1周前とのタイム差/水温(撮影時は18度を表示)/バッテリー残量などが表示される」。パネル上側両脇に2個ずつ並んだ白色のインジケーターはオーバーレブ警告用である。

画像: フューエルタンクカバーは、メインフレームの斜面にかぶさるように前方に張り出しつつ、サイドカウルとスムーズにつながっている。ドライカーボンのカウルステーともども、大きくハンドルが切れた場合にも、腕の動きを妨げない位置と形状である。

フューエルタンクカバーは、メインフレームの斜面にかぶさるように前方に張り出しつつ、サイドカウルとスムーズにつながっている。ドライカーボンのカウルステーともども、大きくハンドルが切れた場合にも、腕の動きを妨げない位置と形状である。

画像9: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

シート後面には、ブロックから削り出した厚めの圧縮スポンジ(上下2分割)を張りつけている。

画像10: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する
画像: タンクカバー内部前方は吸気エアボックスと電装系ブラックボックスの収納スペースになっている。

タンクカバー内部前方は吸気エアボックスと電装系ブラックボックスの収納スペースになっている。

画像: ゼッケン下に新気導入用開口部を持つフロントカウル。サイドカウルから前方に張り出したダクトの前端とピタリと合わさる。高精度/高剛性なパーツならではの正確さだ。新気はフレーム側面の穴を通ってエアボックスに導かれる。底面は平らで奥まで伸びており、左右のフロントフォークの間を通った走行風をラジエターに導いている。

ゼッケン下に新気導入用開口部を持つフロントカウル。サイドカウルから前方に張り出したダクトの前端とピタリと合わさる。高精度/高剛性なパーツならではの正確さだ。新気はフレーム側面の穴を通ってエアボックスに導かれる。底面は平らで奥まで伸びており、左右のフロントフォークの間を通った走行風をラジエターに導いている。

画像: フロントカウルにあるのは穴のみで、ダクトはサイドカウル内側に取り付けらている。フロントカウル内には大きなブラックボックスはなく、各部に向かう配線のコネクターのみを配置し、整備性に配慮。

フロントカウルにあるのは穴のみで、ダクトはサイドカウル内側に取り付けらている。フロントカウル内には大きなブラックボックスはなく、各部に向かう配線のコネクターのみを配置し、整備性に配慮。

画像11: HONDA RC211V(2006)を徹底解剖する

メインフレーム右側面にあるふたつの穴のうち、前寄りの穴(写真右側が車体前方)から内部をのぞいたところ。半球形に成型されたネットの真下にフューエルインジェクションのスロットルボディが並んでいる。

その手前に見えるドライカーボンのプレートは、通路断面積を絞りつつ、流入風の乱れを防止するためのものか。フレーム側の穴の一部が前方に張り出しているのは、フレーム前方を持ち上げるタイプのスタンドを使用するとき、そのシャフトを通すためである。

画像: サイドカウル内側のダクトの、メインフレーム側面の穴にはまり込む部分のアップ。サイドカウル本体は、剛性の高さよりも破断に対する強度を上げるため、ドライカーボンではなくカーボン+ケブラー繊維による強化樹脂製であり、その裏面にドライカーボンのダクトを取り付けたうえ、別に成型されたカーボンFRP製のジョイント部を張り付ける。ダクトの内側にはろ紙式のエアクリーナーが装着されている。交換の際はこの部分をアッセンブリで取り替える。

サイドカウル内側のダクトの、メインフレーム側面の穴にはまり込む部分のアップ。サイドカウル本体は、剛性の高さよりも破断に対する強度を上げるため、ドライカーボンではなくカーボン+ケブラー繊維による強化樹脂製であり、その裏面にドライカーボンのダクトを取り付けたうえ、別に成型されたカーボンFRP製のジョイント部を張り付ける。ダクトの内側にはろ紙式のエアクリーナーが装着されている。交換の際はこの部分をアッセンブリで取り替える。

画像: 左側サイドカウル内側全景。エアボリュームを増して、短時間内における急激な圧力の増減を抑える分割式ダクトの形状に注目されたい。

左側サイドカウル内側全景。エアボリュームを増して、短時間内における急激な圧力の増減を抑える分割式ダクトの形状に注目されたい。

画像: 外装パーツのこれだけ合わせても3㎏以下という、信じられない超軽量外装パーツ。

外装パーツのこれだけ合わせても3㎏以下という、信じられない超軽量外装パーツ。

画像: 加圧成型するドライカーボンならではの形状を見せるカウルステー。

加圧成型するドライカーボンならではの形状を見せるカウルステー。

画像: フロントカウル両脇の取り付けネジは、凹みに落とし込まれている。

フロントカウル両脇の取り付けネジは、凹みに落とし込まれている。

画像: たった2本の工具でこれらの外装パーツの脱着を可能にしていることに驚く。

たった2本の工具でこれらの外装パーツの脱着を可能にしていることに驚く。

HONDA RC211V(2006)<No.04>へ続く

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