型式こそ変わらなかったが、カウルをスラント化し、キャブレターや電気に制御系、スイングアームといった多くの部分に手が入ったことから、市場ではこの1989年モデルを便宜上“MC18後期”と呼んで区分けした。時代はまさにレーサーレプリカトレンドがピークを迎える頃にあり、SPモデルも進化していった。
ホンダ「NSR250R(MC18後期)」(1989)各部解説
エンジン

1軸クランクでケースリードバルブ吸入、バランサーが不要な水冷90度V2エンジン。WGP250で1985年からの4連覇を果たしたレイアウトであり、MC18後期もその基本はMC18前期に同じだが、小変更を行った。先に記せば、クランクは圧入部の結合面積とピン径を拡大(Φ24→25mmに)して高剛性化して高回転に対応。
シリンダーヘッドは冷却水通路を拡大して冷却効率を高めて高剛性化。ピストンを軽量化し高回転対応とフリクションロス低減を実現。ACGフライホイールマスを20%低減。エンジンをフレームから降ろさずに、またクランクケースを割らずに整備できる利点を持つMC16以来採用されているカセット式ミッションは、MC16からMC18前期型に移行する際に変速比は①2.624→2.846 ②1.800→1.941 ③1.380→1.500 ④1.125→1.272 ⑤1.000→1.136 ⑥0.916→1.045に改めたが、MC18後期型では①はそのまま②2.000 ③1.631 ④1.368 ⑤1.250 ⑥1.173(6速は11%)へとレシオをクロス化して高効率の動力伝達ができるように変更した(2.360の1次減速比はそのままで、2次減速比は2.733→2.800と異なる)。
NSシリンダーやトリプルコーティングピストン、ワークスNSR同様の耐高温・高強度のピストンピン、PGM-IIで制御するエンジンオイルポンプ、ミッション給油専用オイルポンプは従来から継承する。
その上で、最適燃焼のために補正制御要素を強化して知的進化を遂げたとし、1500rpmにも渡るワイドなピークパワー回転域を確保したTRAPEZIUM(トラピジウム:台形)パワーカーブを実現しライダーの意思にダイレクトに反応させるようにした。その補機類はPGMキャブレターII、PGM-RCバルブ、PGMイグニッションII。これらが個々に機能強化。
具体的にはエンジン回転数とスロットル開度を検知して各定常状態での最高馬力発生点火時期、RCバルブ開度、空燃比をベンチテストで製作。次いで完成車の実走で定常状態に加えてかと状態の最適馬力化、ライダーの感性に合う出力特性化、不正燃焼やスロットルレスポンス、減速フィーリングの最適化によって前出要素を補正。
再度ベンチテストでデータと理論を照合。この作業の繰り返しで各2次元マップを重ね合わせたマップを有機的に結合してPGM-IIシステムとして機能し、エンジンの能力を最大限に引き出すということだ。

フラットバルブの2連キャブレターは基本をそのままに、PGMキャブレターII(上)となった。MC18前期では1ボディに対してエアフィルターからエアジェットへの直接流路に入る可変エアジェットが1個=1系統でこのエアをコントロールしていたが、このエアジェットを2個=2系統に増やし、4段階の流量調整で空燃比を制御。全開時やパーシャル時に燃料の濃過ぎを抑えて空燃比を最適化する。
PGMイグニッションIIはエンジン回転数とスロットル開度/変位速度を検知。演算するマップコントロール・デジタル点火システムに前後シリンダーの点火時期を独立演算かしアイドリングを安定させパーシャル時の不正燃焼を減らし、中~高回転域スロットルレスポンスを向上。急なスロットル操作に対し進角補正するワープ点火を16→32サイクル。2000~5000→1000~11500rpmカバーとして過渡特性の燃焼効率をアップ。
PGM-RCバルブはRCバルブIIの制御にエンジン回転数だけでなくスロットル開度を加え(上図)、幅広い状況下での最適ポートタイミングを設定し(下図のマップイメージ)リニアリティと高速からの減速フィーリングをより向上させた。

排気系は新設計(以下2枚の写真)で、右のように排気チャンバー(下写真)は楕円断面のオーバルチャンバーとすることで容量を稼ぎ排気効率を落とすことなくバンク角を増大(サス全屈時にロアカウルで29度から42度にアップ)。


テールパイプをアップタイプのステンレス製としたのも変更点。サイレンサーは全長で20mm短縮と小型化しながらも下の図のように、3本が並ぶインナーパイプのうち中央部の1本に角度を持たせて消音効果を向上。
チャンバー後端部とテールパイプ前端にレゾネーターを新設、排出ガス通過部とチャンバー外壁の間に400cc容量の空間を作り管共鳴音を低減して1988年型比で全開走行時に4dBの騒音低減を果たした。
F3キットパーツ装着車

カウルの形状はノーマルで既にNSR250/RS250Rとほぼ同じのため、キットパーツ組み込みで純レーサーに見えるほど。キットパーツはSP用、F3用があり、HRCサービスショップで販売。SP用でも組み付け・調整後に68PS/11250rpmを得ることができた。
またMC18後期(NSR250RK)にはレース用コンプリートのNSR250RK(紛らわしいがこちらの末尾はキットのK)も用意された。
メーター

メーターの配置やデザイン、指針が真下から動くエンジン回転計や速度計の設定などはMC18前期と変わらず、リザーバータンク別体式フロントブレーキマスターシリンダーも継続。ハンドルはジュラルミン鍛造製クリップオンで、ブレーキレバーは7段調整式。
トップブリッジは表面の色をシルバーからブラックへと変更、右上に小さなウイングマークエンブレムを加えた。なおスクリーンもゆがみを抑えて見やすくし、シートも前部を絞り込んで足着き性と良好なスポーティライディング性を両立している。
フロント&リアまわり

フロントフォークはΦ41mm正立でフォークオフセットは35mm、イニシャル調整機構付き。フロントブレーキは異径対向4ピストンキャリパー+Φ276mmフローティングディスクのままインナーの色をゴールドからブラックに変更した。
フロントホイールは3.00-17のまま、タイヤは110/70のサイズを変えずにラジアル化し、ここで前後ラジアルに。。リヤホイールはリム幅を4.00→4.50に拡大し、MC18前期型から採用のラジアルタイヤを150/60R18とワンサイズ太くした。フレーム後部にボルト留めされるシートレールは前期型と基本は同じだが、黒仕上げとしている。

リヤブレーキは片押し1ピストンキャリパー+Φ220mmソリッドディスクだが、キャリパーの支持方法を改めた。キャリパーサポートをスイングアームに固定してキャリパーの動きを規制するのでなく、フレームから伸びたトルクロッドで固定するフローティング式としており、ショックがストロークした際にキャリパーの取り付け角度が変わるのを最小に抑え、ブレーキング時にリヤサスの動きが妨げられるのを防止するのを狙った。
当時は流行したが、現在ではほとんど見られない手法だ。粉体塗装となって洗浄性を向上したホイールはMC18前期より旋回性向上を狙ってリヤを1サイズ拡大した4.50-17サイズとなっている。これはRS250Rと同サイズ。ドライブチェーンはゴールドプレートの製品を標準装備。

左右ステップはMC18前期型と同じで、上面に小さな滑り止めのラバーを持つフットペグと左右ペダルを同軸で固定する。小さなブラケットやヒールプレート、ペダル、ステップバーなどはアルミ製で、左右ペダルは鍛造品だ。

丸型2灯のテール/ストップランプやシートカウル後部の形状はMC18前期型と同じ。細身のサイレンサーは前ページにもあるように全長を20mm短縮している。
サイレンサーが上方に移動し、ステーが短くなったため、タンデムステップの固定位置はやや前側に移動。このタンデムステップは収納時から1段引き出すと荷掛けフックになり、もう1段引き出すとタンデムステップになる収納タイプだ。
ここで全体感について触れておけば、異型5角目の字断面のメインフレームはMC18前期型を踏襲するが、スイングアームは新作でメインフレームの左右スパーと同様の変則5角形(40×80mm)として剛性を向上した。
キャスターは24度から23度15分に立てられ、トレールを90mmから87mmに短縮、ホイールベースは10mm短い1345mmに変化した。
2代目NSR250R SPには乾式クラッチと減衰調整可能サスを新たに追加

HONDA
NSR250R SP
1989年
MC18後期型の標準車はは1989年2月10日発売。カラーは「ブラック/シードシルバーメタリック」と「ロスホワイト/テラブルー」の2色、価格はMC18前期型に+2万円の59万9000円。サイレンサーを高い位置に移動し、その直前のテールパイプをステンレス製としたのも特徴だ。
また1989年5月下旬には、HRCワークスカラーの「ファイティングレッド/ロスホワイト」が57万6000円(税抜き)で追加された。そして1989年4月1日には、MC18後期型ベースのNSR250R SPが追加される(上写真「ロスホワイト/テラシルバー」)、価格は68万9000円(+消費税3%)

上下の写真は1枚ものカタログの裏表で、SPとしての特徴が記されている。ハード面では1988年型=初代SPから継承されるマグテックホイール(3.00-17/4.50-18サイズ)に加えて、新たにシリーズ初となる乾式クラッチを装備。切れの良さとスタート時のフィーリングの良さを獲得とした。キックでスタートし、“バイーン”とエンジンが吹けるとともに“カラカラカラ……”という音がするのを覚えている人も多いだろう。

またフロントには標準のプリロードに加えて伸び側減衰力を調整可能としたカートリッジ式フォークを採用。リヤショックもリザーバータンク別体式で伸/圧減衰力、プリロード可変タイプを装備し、1985~'88年のHRCワークスレーサーNSR250からの技術フィードバックも強調した。カラーリングは1988年から世界GP参戦した「味の素TERRA・ホンダ・レーシングチーム」のNSR250をイメージした「ロスホワイト×テラシルバー×ノーベンバーシルバー」(通称:銀テラ)だ。
なおフロントとテールカウルに作られたゼッケンスペースの緑地は当時の世界GP250クラスでゼッケンスペースに指示された色(500クラスは黄、125クラスは白)で、カタログ裏面の「SP」マークにも反映。ここからもレーシングイメージを強めていた。
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