文:小川 勤 写真:クシタニ
▶▶▶写真はこちら|小椋 藍スペシャルインタビュー
世界ランキング2位の小椋 藍選手は、今日も桶川スポーツランドを走る
小椋藍選手の手のひらは、とても綺麗だ。

MotoGPライダーといえば、硬くなった手のひらや無数のマメを想像する。「マメは爪切りで切っちゃうんです。それでもMotoGPクラスになってからクシタニのパームガードを使うようになりましたね。Moto2&3クラスで必要だと思ったことはないのですが、やはりMotoGPマシンは加速が別次元なんです」と小椋選手。

クシタニのレザースーツのサイズはMoto2時代から大きく変わっていないという。「これでも大きくなってきたんですよ。まあ、他の選手と比べると小さいですけどね」と小椋選手は笑う。確かに以前お会いした時よりも肩や上腕は、見るからに逞しさを増している。
クシタニと共に世界最高峰の舞台を戦う小椋選手は、そのスーツの着やすさ、動きやすさは圧倒的だという。

2017年からクシタニのサポートを受ける小椋選手。「初めてレザースーツをサポートしてくれたのがクシタニでした。結果のない時代、自分が何者でもなかった時から支えてくれていました。いつか一緒にMotoGPに行けたらいいなと思っていたので、それが形になって嬉しいです」
「脱ぎ着に苦労しているライダーもいますが、クシタニのスーツは本当にストレスがありません。特にオーダーしてはいませんが、自分の身体に合ったものを作っていただけているし、完全に信頼しています」と小椋選手。

「レザースーツだけでなくブーツも動きやすいですね。新品なのに使い込んだような馴染む感覚があるので、すぐにレースに使えます」
多くのライバルが「アイの走りは独特なんだ」と語る。実際にコースを走る姿を見ていると、その意味が少し分かる気がした。その走りはとても美しい。力でマシンをねじ伏せるような場面がほとんどない。スライドしているのに乱れることはなく、マシンが軽々と動く。速さと同時に"無駄のなさ"が印象に残る走りだ。

「バイクに乗っていて疲れるなら、自分の乗り方が悪い」。フィジカルトレーニングの有無を聞くと、以前、小椋選手はこう答えてくれた。「今もその考えは変わりません。本当にそうなんです」と小椋選手。綺麗な手のひらは、世界最高峰のマシンを力ではなく技術で操る、小椋選手らしさを象徴しているように思えた。

現在、小椋選手はオン&オフ合わせて10台以上のトレーニングマシンを所有し、その日の目的によって乗り分けるという。サマーブレイク中にもかかわらず、休暇ではなくサーキットにいる。それが小椋選手にとっての「日常」だ。

「楽しいんですよね。こうしてバイクに乗っていると」そう言って笑ったあと、小椋選手は少し間を置いて続けた。「レースは楽しくはありませんから……」。世界ランキング2位のライダーから返ってきたのは、意外な言葉だった。
自分の走りで嫌いな部分はまだまだたくさんある。理想には程遠い

小椋選手は、2006年シーズン、第5戦フランスGPでMotoGPクラス初表彰台を獲得すると、その後は初ポールポジション、第10戦オランダGPでプレミアクラス初優勝を達成。前半戦をランキング2位で折り返し、タイトル争いの中心へと躍り出た。誰よりも深く身体を落とすその走りは、常に進化しているように見える。
しかし、その話題を向けても、小椋選手の口から語られるのは、喜びよりも課題だった。

「確かにコーナーによっては誰よりも身体は落ちているかもしれません。でも自分の走りで嫌いな部分はたくさんあります。走りの追求、フォームの修正は時間がかかりますし、理想からは程遠いですね」と小椋選手。
多くのライバルが「アイの走りは独特」と評する走りは、その日に最も効率よく走る手段であり、必要ならすぐに変える。その積み重ねが小椋選手の速さと進化を感じさせるのだ。
小椋選手に限らずMotoGPライダーが目指すのは、なるべく早く向きを変え、なるべく早く立ち上がること。要は旋回時間を極力短くすることだ。

「ラウンドごとにそれを上手くできているライダーが上を走っています。ライディングスタイルでそうなっているというよりは、各々で違うスタイルがあり、そのコース、コンディションにどう合わせていくかだと思います。その時々によって正解も変わってきますし。自分のライディングスタイルという大きなものはありますが、それをどのように使うかで、正解を見つけ出せたライダーが強いのです」
「どの順位を走っていてもレースから得るものはたくさんあります。ただ、上位で戦った際と集団で戦った際に学ぶものの種類は違います。前半戦の最後の方に上位での戦い方がだんだんわかってきたイメージですが、まだまだです。もっとトップで走り続ける時間が必要です」
「まだまだレベルを上げる余地はあるし、それはライバルも同じ。それができるかできないかで差がついていきます。レベルをあげようと努力しても大体がステイ。さらにできていたことができなくなる時もあります。その中で、その時どうしていくかということを頑張っています。前進を怠った瞬間に後退が始まるため、少しずつ改善を続けていきます」と小椋選手。
完成していない走り、理想への貪欲な姿勢を聞くと、後半戦がさらに楽しみになっていく。
