まとめ:ヨ(オートバイ編集部)
▶▶▶画像はこちら|ヤマハの特許「後輪のグリップ力を調整する」の図版を抜粋(8枚)
まさかの関節つき!? “曲がるスイングアーム”の狙いとは
スイングアームといえば「剛性が高く、しなることはあっても折れ曲がるなんてあり得ない」パーツの代表格。しかし、ヤマハが出願・公開した特許に描かれていたのは、なんと2分割されたスイングアームだった。
このシステムは、車体側の「第1アーム」と、後輪を保持する「第2アーム」が回転軸で連結されており、その間をアクチュエータ(油圧シリンダー等)で屈曲させるという、前代未聞の構造を採用している。

スイングアームが中間から屈曲する構造。
なぜこんな複雑なことをするのか。それは、バイクが加速する際に避けて通れない「チェーン張力因子」の不安定さを解消するためだ。
バイクの後輪グリップは、タイヤが路面に押し付けられることで生じるもの(消しゴムを押し付ける様子を想像してほしい)だが、車両およびライダーの荷重による成分と、その一部を構成する「チェーン張力因子」に分けることができる。
後者についてもう少し詳しく言うと、例えば加速時にスロットルを開けるとスイングアームに沈む方向の力が加わるが、一般的にはチェーンの張力によってこれと反対側の力の踏ん張ろうとする力(アンチスクワット)も発生する。これが後輪を押し付ける力に変化を与えるわけだ。
アンチスクワットはスイングアームまわりの軸配置などで基本的な特性が決まるものなのだが、一方で、スロットル開閉の仕方によってチェーン張力が変動し、後輪を路面に押し付ける力が変化してしまう。これが、ライダーにとっては「後輪グリップが予測しにくい」という状況を生じさせている。
ヤマハはこの課題に対し、「サスが動いた分だけスイングアームを逆方向に折り曲げれば、スイングアームのジオメトリーを常に最適に保てるんじゃね?」という、コロンブスの卵的発想で挑んできたのだ。
グリップの変動を「ほぼゼロ」に?!
ヤマハの「屈曲アーム」は、加速によってリアサスペンションが沈めば第2アームが伸び上がり、逆に減速時にサスが伸び上がれば第2アームが沈む方向に屈曲することで、常にスイングアーム対地角(第1アームと第2アームを合成したもの)を最適な位置にとどめることができるというもの。
これにより、変動するチェーン張力によって生じる後輪を押し付ける力の変化の量が、きわめて小さくなる。数値でいえば50分の1程度まで抑え込めるようだ。ライダーにとってはスロットル操作に対する車両の応答がよりダイレクトで予測可能になり、安心して車両の限界性能を引き出すことができるようになる。

リアサスペンションのストローク量に比例して、後輪を路面に押し付ける方向の力“Frot”が変化していく従来の構造に対し、新機構では旋回時のストローク域でFrotを一定に保つことができている。
一種のアクティブサスともいえる本発明を適用可能な車両としては、「ストリート型、スクータ型、オフロード型、不整地走行用車両(ALL-TERRAIN VEHICLE)など」が挙げられており、レース以外の一般的な走行状況におけるグリップ力調整にも有効な技術であることが読み取れる。

リアストロークセンサーやIMUの情報をもとにアクチュエータを制御し、スイングアームを屈曲する。
とはいえ、「加速の予測しやすさ」と「タイムロスの削減」にメリットがあるとされることから、限界走行を想定したMotoGPマシンに最も利点が大きそうなのは確か。ちなみにだが、MotoGPで猛威を振るう「ライドハイトデバイス」が重心を下げてウイリーを抑制することによって最大の加速力を得ることが目的なのに対し、こちらはコーナリング時を中心とした「グリップ力の変化を抑えることで安定したトラクションを確保する」ことに寄与するのが主眼のため、似て非なるものととらえてよさそうだ。

こちらはMotoGPで採用されているライドハイトデバイス。機構自体は隠れていて見えないが、スイングアームが大きく沈み込んでいるのがわかる。
こうした特許は製品化に至ることなく消えていくことも少なくないが、こんな技術を採用した次世代スーパースポーツ、新型YZF-R1の登場に思いを馳せるのも、夢があっていいかもしれない。

特許図版はYZF-R1をベースにしている。





