文:齋藤春子/写真:井上 演
良い革、良い品質を守り定番の革ジャンを作り続ける
──深野さんが再びカドヤに戻ってきた1999年頃というと、すでにバイクブームも落ち着いていましたよね。当時、会社の業績は好調だったのでしょうか。
「この業界はすごく波があって、1980年代はそれこそ怒涛の勢いでいろんなモデルを出したし、出せばそれが売れて、お客さんも次から次へと来てくださった。でも1990年代に入って雲行きが怪しくなってきた時に、カドヤで何が売れていたかというと、信哉さんプロデュースのバトルスーツや“ゴッドスピード”だったんです。さらに1990年代中盤には草レースブームが起こり、高橋サトシさんプロデュースの“クラッシュキング”シリーズが人気となった。そういう時代、時代を飾る人気モデルがありつつ、一方では、スタンダードな革ジャンもメインで売り続けていた、という流れがあります」

──時代の流れに合わせながら、基本の革ジャンを大切にしてきたことが、いまのカドヤさんにつながっていると?
「そうなんです。それこそバイクブーム真っ只中の1980年代、全日本だ、地方戦だと日本のレースシーンも熱狂的に盛り上がって、革ツナギがすごく売れましたし、職人さんも多く抱えていました。あの時に商品をツナギだけに絞っていたら、バイクブームが縮小した時にもっと大変なことになっていたかもしれません。革ジャンをはじめ、バトルスーツにしろ、クラッシュキングにしろ、カドヤにはロングセラー商品が多いのですが、スタンダードな革ジャンは定番性も高いんですよ。そうやって革の良さを大切に、質の良い革ジャンを作り続けてきたところに、2009年頃にストリートバイクブームが起きて、街でも着れる革ジャンが人気となりました。バンソンですとか、ラングリッツレザーとか、海外のレザージャケットブランドが注目された時に、昔からバイクに乗ってる人達が『やっぱり日本の革ジャンはカドヤだよね』と言ってくださった。お客さんの気持ちにしっかり向き合い、ちゃんとした革製品を作ろうというのが創業以来のカドヤのものづくりの姿勢ですが、その姿勢をずっと変えずに守ってきたからこそ、カドヤというブランドも続いてきたのだと思います」

▲通信販売購入者に宛て、商品に同封していた創業者・正次郎氏のお礼状。お客さまの気持ちを第一に考える姿勢は現在も変わっていない。
──まさに、カドヤさんの「選ばれる理由」ですね。深野さんの考える“カドヤらしさ”について、他にはどのような点があるのかをお聞かせください。
「基本的には『着る人のことを考えながらつくる』という、創業者の祖父が残した言葉が一番だと思います。良い革ジャンとは何かは、用途によって変わってくる。例えば、ロングツーリングにごく薄手のシープ素材の革ジャンがおすすめとはならないですし、逆に、街着としての革ジャンをツナギに使う厚手の革で作ったら不都合が出てくるでしょう。だからどのライダースも、お客さんの着るシチュエーションや特性を考えて作っているのが、カドヤらしさのひとつですね。あとは、しっかりとした質実剛健なつくり。革製品との付き合いって、他の素材では考えられないくらい本当に長いものになるじゃないですか。買って10年で終わりなんてことはまずなくて、20年、30年が当たり前、手入れ次第で40年前の革ジャンも問題なく着用できます。ですから『カドヤで買って良かった』と思ってもらえる商品にすることが絶対必要ですし、革の選び方から、設計、縫製など、すべてにおいて手を抜かず、お客さんの信用を裏切らないものづくりを常に意識しています」

▲創業90周年の節目を迎えた2025年には、3種類のアニバーサリーモデルを発表。限定モデル専用の青い裏地や、右袖に配置された90周年ワッペンなど、随所が特別仕様となっている。
カドヤクオリティーを実現する国内外の強固な生産体制
──創業以来、一貫して自社工場を維持されているのもカドヤさんの強みだと思います。2003年からは本社工場の職人が手がける最高峰ブランド「HEAD FACTORY」がスタートし、長年の歴史で培われた職人技が継承されていますが、「K'S FACTORY」ブランドは海外生産により、カドヤの高品質な革ジャンをもう少し手軽に手に取ることが可能となっています。海外生産モデルでも“カドヤらしさ”を貫くために、どのような工夫をされていますか?
「確かに海外生産モデルの品質管理に苦労することは多いと思いますが、うちの強みは、取引先の工場がほとんど変わらないことなんです。一番長い工場とはもう30年のお付き合いで、海外の工場とそれだけ長い間取り引きを続けてるって、すごいことなんですよ。新しい工場はあまり増やさないようにしていますし、しかも工場との間を取り次いでくれているのが、もともとうちの本社工場で縫製をしていた職人さんなので、カドヤの求めるクオリティについてもしっかり伝えてくれる。洋服の設計図を引くパターンにしても、どうすれば強度を持たせられるか、どうすれば当たりが少なくできるかと、本社工場で試行錯誤を重ねてはアップデートされているのですが、そうした情報もしっかり協力工場さんに共有されるようになっています。HEAD FACTORYがありつつ、海外生産モデルも品質を落とさずに両立ができているのは、そういう理由なんですよ」
──製品の素材となる革の仕入れに関しても、年代による変化はありますか?
「去年と今年で商品の革質が大きく変わってはいけませんから、安定した品質の革を仕入れる難しさはありますね。今は比較的安定していますが、2000年代に入って中国経済が急速に成長した頃は、買い占めによって、質の良い革が入手しづらい時期もありました。国内のタンナー(なめし革業者・皮革メーカー)さんが高齢化などの問題で廃業してしまったり、ものづくりの背景は少々厳しい時代ではあるのですが、それだけに我々は、安定した品質の革を選び、安定した品質のタンナーさんと長くお付き合いしていかなくてはと思います」
革を愛する職人の熱意と技術が“本物”の一着を生み出す本社工場

本社・本店が言問通りに面した現在地に移転したのは1985年のこと。現在の本社ビルは8階建てで、6階と7階が本社工場となっている。
工場内は職人達が各々集中しながらていねいに作業を進めており、心地よい緊張感が漂う。素材選び、設計、縫製まで、すべての工程に長年の歴史が培ってきた熟練の技と熱意を込めて、「職人一人一着縫い」で作り上げるHEAD FACTORYの一着は、この工場から生み出される。

歴史と技術を継承し未来につなげていくために
──長年愛用している昔ながらのファンも多いところに、新規のファンも増えていて、さまざまなニーズに応えるためにラインアップは充実する一方ですね。
「今はライダースジャケットだけでも、シングルで12型、ダブルも8型くらいありますね。どういう着方をするのかに合わせて革質も変わってきますし、プロテクターの装備も変わってくる。革質のバリエーションが豊富なのもカドヤの特徴ですが、革ジャンって部材を変えるだけで雰囲気がガラッと変わるんですよ。細かい部分ですがステッチの色、ファスナーの色、ポケットの位置をひとつ変えるだけでも全然表情が変わって、そこがまた面白いんです。もちろん安全性も重要ですし、シルエットや動きやすさも重要な要素。そのうえで着る人のニーズと時代に合った革ジャンとは何かをオーダーメイド並みに突き詰め、既製品に落とし込んでいます。既製品でももっと自分の色にしたいのであれば修理もできますし、本当に自分だけの1着が欲しいという方にはHEAD FACTORYでのカスタムオーダーもあれば、もちろんフルオーダーも可能です。そうやって、お客さんのこだわりに合わせて段階を用意しているのがうちの強みですし、革ジャン屋としての美学ですね」



──幅広いといえば、本社工場ではベテラン職人さんと若手の職人さんが肩を並べて仕事に取り組む姿が印象的でした。
「ものづくりにしても、修理にしても、本当にカドヤは職人さんあってこそ。ベテランさんの絶対的な技術と安定感は偉大ですし、若い職人さんには技術力を補う情熱と向上心があります。いま一番若い職人は20代前半ですが、昨年からうちの倅も職人として働いているんです。そうやって次の代につなげていくことも、ものづくりをする会社の責任だと思うんですよ。売り切ったらおしまいでは、これまでカドヤを支持してくださったお客さんに寂しい思いをさせるでしょうし、修理もできなくなってしまいます。最近は海外のお客さんも増えているので、日本の革ジャンをもっと多くの人に着てもらいたい、という目標もあります。これから先100周年、さらに150周年と続けていくための行動を企業として取らないといけないと思いますし、今はそのための人材を育てている最中ですね」
──最後に、今後のカドヤさんにとって、バイク乗り向けの製品が主軸であることに変わりはないのでしょうか?
「自分もバイク好きですから、バイク乗りの気持ちはわかるつもりですし、バイクに特化したパターンのアイテムは今後も変わらず大切に作り続けていく予定です。そのうえで、若い世代やバイクに乗らない人にも買っていただける商品展開をしていけたらなと。やはりウエアメーカーとして、バイクに乗る時だけじゃなく、日常生活でもカドヤを身につけてもらうことは目標でもあるんです。今日、自分が着ているテイラードジャケットもそうした試みの一貫で開発したものですが(※現在はソールドアウト)、さまざまなトライをしながら、バイク乗りとしてのカドヤとも普段に着るカドヤ、その両方を良い形で展開していきたいですね」
カドヤの幅広いラインアップが揃う革のまち「東京・浅草」の東京本店

本社ビルの1、2階にあるカドヤ東京本店。1階はTシャツやグローブ、テキスタイルジャケットなどのカジュアルウエアを中心に展示、2階はHEAD FACTORYを含むレザーウエアが展示されている。
革とバイクを愛するスタッフがウエア選びのアドバイスをしてくれる他、カスタムオーダーや修理についても随時受け付けているので、気軽に相談を。

文:齋藤春子/写真:井上 演

