今年で創業53年を迎えたデイトナは常にライダーの声に耳を傾け、ユーザー視点に立った独自の企画力、開発力で、世界中のライダーからの多種多様なニーズに応える商品をリリースしてきた総合パーツメーカー。2016年に3代目社長に就任した織田哲司さんに、デイトナが積み重ねてたきた歴史と目指すべき未来について聞いた。
文:齋藤春子/写真:松川 忍

怒らない、叱らない、話しやすい雰囲気をつくる

──社長就任後、社員の皆さんとはどんな理念を共有されているのでしょうか?

「デイトナブランドの方向性というか、今後強化するジャンルに関しては僕が決めます。自分がバイクに乗るので、どんな商品を作るべきかはだいたいわかるんですよ。さっき言ったスマートフォンホルダーもそうですし、ホルダーが売れるなら、それをマウントする用のバーホルダーが必要だろうな、USB電源が欲しくなるだろうな、という具合で予想はつきますから。ただ、その強化するジャンルの中でどういう商品をどの順番に立ち上げるかや、商品にどういう味付けをするかは社員に任せて、口は出さないです。人気となったシートバッグシリーズも、『出すならたくさんの種類を一気に出す方が効果的だから、まとめて作る方がいい。その中でうまくいく商品と売れない商品が出てくるだろうけど、失敗しても構わないから挑戦しな』と伝えて、開発してもらいました。というのも、もともと弊社のコンセプトは『1勝9敗で食べていく』なんです」

──えっ! 面白いコンセプトですね。

「本当にそうなんです(笑)。実際の話として、2勝8敗にはいかないんです。現在デイトナには1万点以上の商品がありますが、その18%の商品で売上の8割を占めてて、残りの商品はあまり儲けになってないんですね。かといってなくすわけにもいかないので、『なんでもあるデイトナ』というのは、いろんな商品を手掛けた結果そうなったというのが正直なところです。もちろん常にヒットを見込んで商品開発をするわけですけれど、結果論としては、なんとか1勝9敗でギリギリ会社を残していけてる(笑)。創業者がよく「私は失敗ばかりしてきた」と言うくらいなので、これはもう失敗も含めてデイトナの文化ですね」

画像: 「会社の役割として社長をやってるだけで、ただのおじさんですから」と笑う織田社長。就任当初から社長室は作らず、同じフロアで社員達と机を並べて仕事しています。

「会社の役割として社長をやってるだけで、ただのおじさんですから」と笑う織田社長。就任当初から社長室は作らず、同じフロアで社員達と机を並べて仕事しています。

──デイトナの文化で言えば、本社に伺うといつも社員の皆さんが自由に仕事をしている雰囲気と言いますか、社内の風通しの良さを感じます。織田社長が社員と接する時に心がけていることはありますか?

「ポリシーとして叱る、怒るはしないですね。昔と違って、叱ったり怒ったりでプラスになることはないですから。あとはちゃんとコミュニケーションを取って、ちゃんと話を聞くこと。僕は社員とすれ違う時には、ほぼ9割方『お疲れ様』と自分から声をかけます。そして世間話はしても、商品の進捗状況などは各商品グループのリーダーに任せているので、自分から聞くことはありません。それから、僕が作った社内制度のひとつに、フリーエージェント制度があります」

──プロ野球の移籍などでよく聞きますが、自分が望んだ部署に移動できる制度ですか?

「3年間同じ部署で働いたら、自分で行きたい部署のリーダーと交渉できます。そしてそのリーダーが受け入れて、『彼がうちの部署に来たらこれだけの業績が期待できる』という報告書を提出したら、もう異動OK。出ていかれる側の部署リーダーに止める権限はありません。年に2人ぐらいは利用する人がいますね。どうせ働くならやりがいのある部署で働く方がいいですし、誰かに出ていかれたままという部署もまずないので、社員にとっては経験値が増えるし、部署にとっては新しい人材が入ってくる、いい循環になってます。あとは僕自身が出戻りなので、条件付きですが、出戻りOKのブーメラン制度もありますよ(笑)」

「◯◯のデイトナ」がない。そのことが独自の強みになる

──バイク乗りの求めるキャンプツーリングギアを実現する「デイトナアウトドア」や、アシスト自転車や電動キックボードの「デイトナモビリティ」など、新規事業も積極的に展開されていますが、現在新たに興味のある分野があれば教えてください。

「新しく開拓した販路がハマったこともあり、最近は発電機がなかなか好調です。他にもマーケティング的に行けるかも? レベルの新事業もありますが、これはまだ公表できるようなものではないので……」

──また、デイトナでは商品を販売するだけではなく、毎年恒例の「茶ミーティング」や、2022年から始まった「朝活カフェ」など、走る目的につながるイベント活動にも力を入れている印象があります。

「イベント活動に取り組むいちばんの理由は、ライダーにバイクに乗り続けてもらいたいという思いですね。『朝活カフェ』は2019年、デイトナの新エネルギー開発室が愛知県設楽町の公有地を太陽光発電の用地としてお借りすることになり、地域貢献として、設楽町観光協会と観光パートナーシップを結んだことから始まりました。町からは観光誘客をして欲しいというリクエストがあり、まずはライダーが走るための目的地となるイベントを作ろうと考えたんです。毎年これだけ夏が猛暑となると、日中はバイクに乗っていられない。だったら早朝から走り出し、午前中に完結するツーリングイベントとして、地域の道の駅などに協力をいただきながら、ライダー同士の交流を楽しむ場を提供する朝活カフェがスタートしました。その後、渥美半島の田原市や設楽町周辺の町からもオファーをいただき、どんどん規模が広がっています」

──2024年にバイク好きが集まるコミュニティサイト「森町お天気山ジャンクション」を立ち上げたり、今年も2025茶ミーティングを記念したデジタルスタンプラリー「茶ミスタ☆ラリー」を実施したりと、ネットを活かしたイベントも開催していますが、こうしたアイディアはどこから?

「ビジネス系のテレビ番組をよく見るのですが、そこで取り上げられる異業種の企業活動からヒントを得ることは多いですね」

バイクを楽しむ“場”の提供にも尽力

多種多様なニーズに応じた幅広い商品・サービスの提供を通じてバイク文化の創造目指すデイトナでは、ライダーがバイクで走ることを楽しみ、ライダー同士の交流を楽しむ場を生み出すことにも積極的に取り組んでいる。

その活動の目的は「なによりもライダーにバイクを降りてほしくない。走り続けて欲しい」という思いだと織田社長は語る。

画像: 茶ミーティング 地域貢献とライダー同士が語り合う場の創出を目指して2009年から開催している「静岡・森町 茶ミーティング」。本社施設を会場として開放し、多彩な催しが行われるこのイベントには毎年3000人に迫るライダーが大集結。今年は9月23日(火・祝)に開催。

茶ミーティング

地域貢献とライダー同士が語り合う場の創出を目指して2009年から開催している「静岡・森町 茶ミーティング」。本社施設を会場として開放し、多彩な催しが行われるこのイベントには毎年3000人に迫るライダーが大集結。今年は9月23日(火・祝)に開催。

画像: 朝活Cafe! 2022年に愛知県設楽町でスタート。デイトナと観光パートナー協定を結ぶ各地の地域団体が会場を提供することで、ライダーに各地域の魅力を伝える場にもなっており、2025年7月現在、愛知・静岡・新潟の各地で開催されている。

朝活Cafe!

2022年に愛知県設楽町でスタート。デイトナと観光パートナー協定を結ぶ各地の地域団体が会場を提供することで、ライダーに各地域の魅力を伝える場にもなっており、2025年7月現在、愛知・静岡・新潟の各地で開催されている。

画像: 茶ミスタスタンプラリー 茶ミーティングの開催を記念したデジタルスタンプラリー。2025年はデイトナと観光パートナー協定を締結した地域団体が厳選したスポットを中心に、岩手・新潟・長野・千葉・静岡・愛知の全85か所のチェックポイントが用意された。

茶ミスタスタンプラリー

茶ミーティングの開催を記念したデジタルスタンプラリー。2025年はデイトナと観光パートナー協定を締結した地域団体が厳選したスポットを中心に、岩手・新潟・長野・千葉・静岡・愛知の全85か所のチェックポイントが用意された。

──インターネットの発達により、あらゆる情報が簡単に入手できるようになった現代は、ユーザーの企業に対する要望も高くなっているように感じます。その中で、二輪業界におけるデイトナ独自の強みは、どのようなところにあると思われますか?

「こだわりがないところ。弊社には『デイトナはこの範囲で』というこだわりがありません。経営理念に「独創的な商品を豊かに追及し提供します」とありますが、『◯◯のデイトナ』のような、専門分野を作らないことなんです。魅力的な良い商品を作ることは大前提に、さまざまな企業活動を通してデイトナというブランド力を上げることは意識していますが、こだわりがない分、時流の変化に合わせた商品開発を追求できるのが、デイトナ独自の強みだと思います。」

画像: 「◯◯のデイトナ」がない。そのことが独自の強みになる

「また、自社設計、自社製造にこだわらず、信頼できる協力会社に設計・製造を委託している点も強みになっていると思います。自社でできることをベースに企画開発すると、商品の幅が狭くなってしまうじゃないですか。でも生産は優れた専門技術を持つ製造会社さんにお任せしつつ、我々からはライダー目線でのデザインや機能を提案、テストを重ねて完成度を高めていくコラボレーションができれば、新たなジャンルでも魅力的な商品は発売できる。これからも総合パーツメーカーとして、時流の変化とライダーニーズの変化をしっかり掴みながら、良い商品を作り続けていきたいです」

文:齋藤春子/写真:松川 忍

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