文:小川 勤、オートバイ編集部/写真:南 孝幸
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ドゥカティ「パニガーレV2S」インプレ(小川 勤)

Ducati
PANIGALE V2 S
総排気量:890cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブV型2気筒
シート高:837mm
車両重量:177.6kg
発売日:2025年6月21日
税込価格:240万8000円
全ライダーに恩恵のある前モデル比マイナス17kg
ここ数年、ドゥカティの新車でこれほど反響が大きかったモデルはないかもしれない。
パニガーレV2Sの海外試乗会に参加したのは2025年2月のこと。帰国後、イベントやSNSを通じて、ディーラー、カスタマー共にパニガーレV2Sを気にかける声がとても多く、すでに何人もの知り合いが購入している。前パニガーレV2からはもちろん、中にはパニガーレV4から乗り換えの方もいて、僕も含めた多くのライダーが「こんなバイクを待っていた!」という心境なのだろう。
パニガーレV2Sは、「V2」と名付けられた排気量890ccのNEWエンジンを搭載した初のバイク。皆が気になるポイントは、なんと言っても「軽さ」だ。V2エンジンはドゥカティのVツインエンジン史上、最も軽量かつコンパクトに仕上がり、前パニガーレV2のエンジンから9kgの軽量化を実現している。
これまでドゥカティのスーパーミッドシリーズは、大排気量エンジンからのダウンサイジングだったが、初めてミドルクラス専用に設計。またバルブ開閉機構はデスモドロミックを廃し、通常のバルブスプリングに。これでヘッドまわりがコンパクトになった。
「ドゥカティの新章の始まり」。これはV2エンジン発表時のスローガンだが、現代に求められるクオリティとニーズを達成するために、エンジンをイチから設計してしまうのがドゥカティなのだ。
軽いバイクを作るために車体も一新。穴だらけのフロントフレームと、片持ちから両持ちになったスイングアームは、共に横方向の剛性を落とし、ライダーの操作に対する応答性の良さを獲得。NEWパニガーレV2Sは、様々な改良を重ね、前モデル比マイナス17kgの車体を手に入れたのだ。
大胆な軽量化は取り回しからして衝撃的で、それは890ccのバイクの質量とは思えないもの。実際に走り出すと数値以上の軽さに驚かされる。かつてないパッケージで生まれ変わった史上最軽量パニガーレは、次々と異次元のハンドリングを披露してくれた。

自由度の高さを武器に常にコンパクトに旋回
パニガーレV2Sに再会するのは、国際試乗会以来。スペインではスリックタイヤ&専用サスセッティングでの試乗だったため、フルノーマルのパニガーレV2Sは今回が初めて。コースは慣れ親しんだ袖ヶ浦フォレストレースウェイだ。
スペインでの印象はとてもよく、軽量さは機敏さに直結し、どこまでも大胆な操作を許容してくれた。運動性の高さは250ccや400ccクラスに匹敵。本当に感動的な軽さだっただけに、日本での試乗を心待ちにしていたのだ。
跨ると前モデルよりアップライトだ。車体はコンパクトかつ前傾もキツくはないため、気構える必要がない。また、跨った瞬間にサスペンションが良く動くことを感じられ、それも安心感に繋がる。
モードは、レース、スポーツ、ロード、ウエットの4種類。モードによってトラクションコントロールやウイリーコントロール、ABSなどの介入度が変化する。まずはスポーツで走り出す。
17kgの軽量化がもたらす異次元のコーナリングは、走り慣れたコースでこそわかりやすかった。パニガーレV2Sは、一瞬で身体にフィットし、前後タイヤの状況を正確に伝えてくれる。そしてタイヤが温まってからは、まるで自分自身が上手くなったかのように感じさせてくれるのだ。
僕が思い描いた理想のラインを外さずに走ることができ、上半身の角度や顔の向きなどを工夫すると、さらにコンパクトに旋回していくから驚く。

軽くて、扱いやすく疲れないし、楽しい
パニガーレV2Sは、どんなシーンでも重さを感じさせない。ブレーキングでも良く止まり、コントローラブルだ。
エンジンは扱いやすさが際立つ味付け。確かにデスモドロミックにあった高回転でのひと伸びはないものの、トラクションの良さはドゥカティならでは。クイックシフトの感度もよく、発進&停止意外でクラッチレバーを握る必要はなく、旋回中でもギアチェンジできるため常に欲しい回転が手に入るイメージだ。
モードをレースにするとレスポンスがアップ。スロットル操作でさらに車体のピッチングモーションを作りやすくなり、リズムを掴みやすい。このあたりはキャリアにもよるため、自分に合ったモード探しは必須だろう。また、アベレージを上げていくと、立ち上がりではタイヤが滑りはじめ、トラクションコントロールがわかりやすく介入。ライダーをきちんとサポートしてくれる。
パニガーレV2Sは今回のモデルチェンジで、前モデルから排気量を65cc、パワーを35PS失った。ただ、走り込んでもその数値をパフォーマンスダウンに感じるシーンはないのだ。
実際、ドゥカティが行ったテストでも、キャリアの異なる数人が新旧パニガーレV2Sを乗り比べたところ、キャリアの浅いライダーほど新型で良いタイムを刻んだという。これが、軽さがもたらすメリット、そして新時代の到来を証明していると言っていいだろう。ちなみにマルク・マルケスは新旧パニガーレで、ほぼ変わらないタイムを記録している。
V2エンジンは最大トルクの70%を3000回転で獲得し、3500~11000回転の間で最大トルクの80%を下回ることはない、という特性を持つ。今回、全モードで低中速を繋いで走ってみたが、これまでにあったギクシャク感が少なく、各ギアの守備範囲は確実に広がっていた。この扱いやすさが、速さや楽しさに繋がっている。
不思議なのは走るほどに「もっと走りたい!」と気分を上げてくれるところ。炎天下の中、それなりのペースで走り、身体は何度も左右に入れ替え、加減速Gにも耐えている。しかし、疲労感はほとんどなく30分を走り切れてしまうのだ。軽さはライダーを疲れさせないメリットにもなっていた。まさに新時代のドゥカティの登場である。

パニガーレV2とムルティストラーダV2は、同系統のV2エンジンを搭載。ムルティストラーダV2は低速域での使い勝手を向上させている。