Zを生み出し、Zを育んだ男たちがいる。カワサキの伝説、Zの神話は彼らの妥協なき技術者魂があればこそ、現代に語り続けられるものとなった。この記事では、Z1を造った稲村暁一氏をはじめとした開発者へのインタビューをお届けする。
文:バイカーズステーション編集部/写真:平野輝幸
※この記事はモーターマガジンムック『空冷Z伝 完全版』に掲載した記事を一部編集し転載しています。

Zイズムの創始者に聞く

画像: 稲村暁一氏/インタビュー当時(1990年)は技術総括部副総括部部長。1999年6月、(株)ケイテック取締役社長を退任後、同社顧問(非常勤)に就任。2000年6月、同社顧問を退任。

稲村暁一氏/インタビュー当時(1990年)は技術総括部副総括部部長。1999年6月、(株)ケイテック取締役社長を退任後、同社顧問(非常勤)に就任。2000年6月、同社顧問を退任。

Z1コンセプトは唯一無二の「ベスト・イン・ザ・ワールド」

世界に通用する初めての日本製オートバイであり、カワサキ初の世界戦略車であるW1。このW1に続くモデルとして、カワサキはオールカワサキ製の4ストロークエンジンを搭載する完全オリジナルの世界戦略車を目指す。1960年代のことである。

「当時、我々はアメリカを向いていたわけですね。アメリカ市場にはまず2ストロークを送り出し、その次に4ストロークのW1を送り出した。ただ、そのW1はBSAのコピーと言われていたわけで、我々としてはちょっと引っかかるものがあったわけです。完全オリジナルの4ストロークエンジンを作ろうということで、まずはW1の流れを汲む2気筒エンジンを中心にいろんなことをしてみたんです」

画像1: Zイズムの創始者に聞く

「しかし、いずれにしましても振動が多く、潤滑の問題もあって、これからアメリカ市場に投入するにはやっぱりアカンな、ということになり、全く別のエンジンレイアウトを検討することになったんですな。同時に、当時ホンダさんが送り出していたCB450の状況を見て、アメリカ市場におけるイングリッシュバイクの趨勢を駆逐するためには排気量の大きさが大きな意味を持つんやないかと考えました。目指す排気量はノートンで出していた750かハーレーの900だな、ということになったわけです」

稲村暁一氏は当時を思い出すかのように言葉を選びながら語る。氏は歴代のカワサキ4ストロークエンジンの殆どを手掛けている生粋の技術者である。

さて、目指す排気量が決まったところで問題になるのは、そのレイアウト。W1のエンジンで採用されており、当時世界で最も優れたオートバイとされていた英国車独特のバーチカルツインは「振動は諸悪の根元」との考えを持つ稲村氏にとっては、様々な試みの結果「検討の対象外」となった。そこで出てきたのは、DOHC4気筒という当時としては画期的なエンジンレイアウトであった。しかし、その開発は思わぬところで中断を余儀なくされることになる。

画像2: Zイズムの創始者に聞く

CB750の衝撃がマジックナンバー900を生む

「性能的に見れば、排気量は750ccで十分であろうということで決定し、そのレイアウトはDOHC4気筒、これで行こうと開発に着手しました。ところが、エンジンとともに車体の方の煮詰めも相当進んだ頃、確か1968年でしたかな、モーターショーでホンダさんがCB750を発表されまして、一時開発がストップしてしまったんですな。
その頃は実走試験まで行っていたものですから、相当なショックを受けましてね。まあ、ホンダさんが出されるならマーケットの方も広がるであろうという明るい見方も出来ましたが、我々としては方向転換せざるを得なくなったんです。後発に甘んじるわけにはいきませんでしたから。そこで、出来るだけコンパクトに、そして排気量は1100ccくらいまでカバー出来る要素を残しながら900ccをやるということで設計しなおしたわけです。
900ccという排気量は、900ccのハーレーのスポーツスターがひとつのターゲットになっていたということと、私自身がそのオートバイに憧れていたということもあって決まったんですが、この900という数字が我々にとってはマジックナンバーのようになりましてね。何か新しいビッグバイクをやろうという時には、何故か900から始まるようになりましたなあ(笑)。開発コンセプトとしてはあらゆる面において、ベスト・イン・ザ・ワールドということになりますかな。これはカワサキの全てのオートバイに今でも生きているコンセプトです」(稲村氏)

画像3: Zイズムの創始者に聞く

結果的に、この時新たに開発し直されたマシンがZ1として我々の前に姿を現すことになる。「900ccという排気量を持つオートバイは、エンジン自体のサイズ、ボディのサイズともオートバイの原点的な美しさがあると思いますね」と稲村氏は言う。

「大きな排気量のエンジンというのは信頼性確保の面で難しい部分があるんですな。フルパワーを出し切る機会はあまりないが、フルパワーに対する期待、要求にはかなり大きなものがある。十分にポテンシャルに余裕を持たないと本当にいいエンジンは出来ない。だから、テストは十分に過酷なものを実施するわけでして、結果的にレーサーベースとしても十分に使えるエンジンになったわけです」(稲村氏)

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