文:中村浩史/写真:松川 忍
この記事は「RIDE」2024年1月号で掲載したものを一部編集し公開しています。
カワサキ「GPZ900R」カスタム車|インプレ
大きな時代の変化を乗り越えた、世界が認める「ニンジャ」
それは、相当に衝撃的な登場だった。発表は1983年12月だから、もう40年も昔の話。カワサキがGPZ900Rニンジャを公開した時の話だ。
時代は、250ccからスタートしたレーサーレプリカという名の新しいスポーツバイクたちが、勢力を増し始めていた頃。それでもビッグバイクは、まだまだ「旧世代」が幅を利かせていて、ホンダはCB900Fや1100R、ヤマハはXJ900を、スズキはGSX1100Sカタナをフラッグシップとしていた。カワサキは、Z1をルーツとする空冷ZがGPZ1100まで進化していた時期だった。
1000ccオーバーで出力が120PSほど、それに車重は250kg近い旧世代のビッグバイクは、いわば重くてデカい、力強い恐竜たち。その殻をブチ破ったのが900ニンジャだった。
小排気量のレーサーレプリカ群とも似ていない、まるでジェット機のようなヘッドライトまわり、フルカウルなのにエンジン部をきれいに露出したスタイリング、ビッグバイクには似つかわしくないフロント16インチホイール、そして当時まだ実用化されているとは言い難かった水冷エンジン。冷却フィンの刻まれていないシリンダーのつるんとした表情に、僕らは言いようもない迫力を覚えたのだ。
――それも、排気量は900だろ? 時代は1100とか1300なのに。
そんな声も、ニンジャの動力性能が一掃した。カワサキが発表した最高速度は「240km/h以上」であり、ゼロヨン加速は「10秒976」。カワサキは自信満々で、この900ccのニューモデルで「世界最速」を謳ったのだ。
当時の世界最速のオートバイと言えば、CB1100Rか、1100カタナ。CBは当時からプレミアモデルだけに、なかなか目にすることはなかったから、カタナとニンジャという、実に日本らしいネーミングのオートバイが対決の俎上に上がることが多かった。
結果、ゴリゴリと重厚に回る空冷エンジン、高巡行速度に耐えうるロングホイールベースのカタナを、200ccも排気量の少ない水冷エンジンのニンジャが抜き去ってしまった。それは、古いものを新しいものが超越する、世代闘争の終焉のようなシーンだった。
ビッグバイクの時代が変わっていく――世界中のライダーは、そう肌で感じたのではないか。あれから40年。ニンジャは何度もの人気の浮き沈みを繰り返して、また今、人気が再燃している。ニンジャの魂は、ずっと輝いている。
もしも2023年式ニンジャがあったら、きっとこんなパッケージ
久しぶりのニンジャだ。きれいに仕上がっているとはいえ、もう立派な旧車。操作をていねいに、そーっと、ゆっくり扱いながら走りだすも、ものの5分も乗るだけで、それがまったく要らぬ心配だというのがわかる。朝イチだって、セル一発で始動、すぐにアイドリングが安定するのは、キャブ車にとって最高の整備状態だ。
「発売40年ですか、ニンジャもいろんな移り変わりがあって、カスタムの方向性だってたくさんあったけれど、今はニューノーマル、補修整備延命なカスタムですね。ノーマルのいいところを残しながら、より安全に乗り続けたいオーナーさんが増えています」というのは、ブルドッカータゴスの田子さん。田子さん自身、ニンジャと出会ってから、整備やカスタムに携わって40年、これまで数台のニンジャを所有し、いまプライベートで持っているニンジャも、所有して20年近い。
お借りしたニンジャは、ノーマルエンジン+FCRキャブ+マフラーに、前後サスもホイールも足回りを強化。速くなったのはもちろん、パワーもハンドリングも、レスポンスよくシャキッと走るようになった。とても40年も前のバイクだとは思えない!
「好きなバイクだから、もっと長く、もっと快適に、いいコンディションのまま乗り続けたい、というのがオーナーさんの気持ちですよね。うちはそこを手助けします。オリジナルで開発するパーツだって、パフォーマンスアップというより、もっと快適に乗り続けるためのパーツばっかりですから」
試乗したニンジャでいうなら、前後17インチで軽量ホイール、ブレーキが強化されて、タゴスオリジナルの35mmオフセットのステムキットで、900ccとは思えないフットワークなのがスゴい。それでいて、高速道路に乗り入れても直進安定性が破綻しない。完全整備のニンジャは、今でも一級品のスポーツバイクだと言って差し支えない作りとなっていた。
誰も、いまニンジャで「誰よりも速く走りたい」とか「峠で最速!」を狙うわけじゃないだろう。田子さんが狙うのもそこじゃないし、強いて言えば毎日の足がわりに使えて、現行モデルと一緒に北海道ツーリングできるような、そんなニンジャに仕上げたい。
「純正パーツだって手に入りづらくなってきたし、40年前のどノーマルの姿にするのも、今の時代に乗り続けるにはナンセンス。時代に合ったニンジャを作りたいですね。パーツ開発だって、僕のニンジャで、毎回テストしているようなものだからね」
ガレージにH2と一緒にニンジャをしまっておくロマン
1984年式のニンジャ900と、例えば現行モデルのZ900RS。その違いは多岐にわたるけれど、やはりオートバイといえども工業製品だからして、同じように使うわけにはいかない――と誰もが思う。
けれどニンジャも900RSも、4ストロークの水冷900ccエンジン、車体まわりだってエンジンだって、900RSが特別なパーツを使っているわけじゃない。40年分の進化を果たした部品単体の時制を合わせてやれば、同じように普通に使うことができることを、このタゴスのニンジャが教えてくれたようなものだ。もちろん、これはZだってCBナナハンだって、カタナだって、整備してくれるショップを選べば同じ事情のはずだ。
まずは、セル一発でエンジンがかかるのがいい。900RSのインジェクションが圧倒的に優れているのは、長期間放置でしばらくエンジンをかけていなくてもすぐに始動OKなこと。それでも、ニンジャだってひと月に一度でも乗ってあげれば、少しグズるけれど問題なく再始動できる。
走り出しは、騒音規制や排出ガス規制を受けていないニンジャの方がダイレクトでパワフルだ。低回転域のトルク、中回転域からの伸びは、現代のエンジンよりもニンジャの方がはるかに気持ちがいい。FCRキャブは、パワーアップの要ではあるけれど、セッティング次第では、まったく普通の使い方ができる、レスポンスのいい、力感あふれるキャブなだけだ。
ハンドリングだって、現代のタイヤ、前後サスとホイールを使用しているから、何ら遜色なく動き回ることができる。900RSのノーマルと比べるならば、やはり高品質のリプレイスサスペンションだから、フットワークは軽く、乗り心地もいいほど。
もちろん、900RSならばずっと乗りっぱなしで、そう多くの手入れも要らないで乗り続けることができるだろう。ニンジャはそうはいかないけれど、そこに特別な手入れは必要ないし、少しだけ手をかけてやればいい。
40年も昔に発売されたオートバイに今でも乗り続けることができることは、決して特別じゃない、オートバイ乗りにとっての大きなロマンだ。
そういえば、映画『トップガン マーヴェリック』でも、トム・クルーズ扮するピート・ミッチェルが、スーパーチャージャーH2を愛車としながら、ガレージに900ニンジャを大事にしまっていたもんな。
カワサキ「GPZ900R」カスタム車|各部装備・ディテール解説
文:中村浩史/写真:松川 忍
この記事は「RIDE」2024年1月号で掲載したものを一部編集し公開しています。