ホンダ「CL250」「CL500」やトライアンフ「スクランブラー400X」の登場もあって、いま沸き立つスクランブラー・ブーム。しかしこのスクランブラーいうバイクのカテゴリーは、なんだかあいまいでハッキリしない。歴史を紐解きながら、どういったモデルを指すのか見ていこう。
文:中村浩史/写真:モーターマガジンアーカイブ

「スクランブラー」の歴史

ダートでも岩場でも斜面でも速い。それが無差別級スクランブラー

スクランブラーというカテゴリーの歴史を紐解いていくと、やはりオートバイ生誕の地、イギリスにたどりつく。

日本でいうスクランブラーとは、よく知られているように、まだ「オフロードバイク」というカテゴリーが成立する前のオフロードモデルの総称だが、そこも突き詰めていくと、1913年にイギリスで誕生したISDT=インターナショナル・シックス・デイズ・トライアルにたどりつく。

ロードレースが決められたトラックを周回するレースならば、A地点からB地点まで、誰が一番速いかを決める新しいレースをやろう――それがISDTのスピリット。同じくイギリスで生まれたゴルフが自然の地形をそのまま利用するように、ISDTも自然の地形を使った、ダートも岩場も斜面も舗装路もあるコースを、6日間かけて数千キロも走破するレースだった。

「スクランブラー」というネーミングは、イギリスのレースアナウンサーが発したひと言とされ、目の前で次々と岩場を飛び超えるライダーを「かなりスクランブルです!」と叫んだことがルーツといわれている。この場合のスクランブルとは、和訳すると「敏捷に這いまわる」という表現が一番近いだろうか。

スクランブルするため、ISDTに出場するライダーたちは、いぼつきタイヤを履き、サスペンションストロークを伸ばし、腹打ちを防ぐために最低地上高を取るべく、ハイパイプを装着。これが、現代まで続くスクランブラースタイルの作法のひとつだ。

そのうち、メーカーもスクランブラースタイルのモデルを発売し、ラッジ、アリエル、ヴェロセットといったメーカーをはじめ、ビッグメーカーであるトライアンフ、BSA、AJSもスクランブラーモデルを発売する。

そして、走る場所を選ばない、無差別級に速い、強いオートバイの姿、つまりスクランブラースタイルが日本へも伝わり、1960年代にはホンダがCLシリーズを発売するに至るのだ。


RoyalEnfierd SCRAMBLER(1953年)

画像: RoyalEnfierd SCRAMBLER(1953年)

1913年にスタートしたといわれるISDEに出場していたロイヤルエンフィールド350スクランブラー。トライアルバージョンや500ccモデルもあり、オフロードモデルへとつながっていく。


BSA Firebird SCRAMBLER(1968年)

画像: BSA Firebird SCRAMBLER(1968年)

ロケットやライトニングのモデルでも知られるA65シリーズにラインアップされたのがファイヤーバードスクランブラー。ハッキリとストリートリーガル向けに発売したもので、アメリカに輸出もされていた。


BSA Victor B44VS(1970年)

画像: BSA Victor B44VS(1970年)

英国車の雄、BSAによるモトクロス用マシンをベースに生まれたB44シリーズ。441ccの単気筒エンジンを採用、モトクロスやエンデューロに使用されたが、日本にはオンロードモデルとして紹介され、そのハイブリッドな成り立ちと構成から、スクランブラーの元祖とも呼ばれていた。


Honda CL72(1962年)

画像: Honda CL72(1962年)

アメリカのエンデューロレースにも出場できるよう、との触れ込みで開発されたのがCL72。フレームも専用設計し、スリムなフューエルタンク、左2本のアップマフラーが特徴だ。


SUZUKI Scrambler TC250(1967年)

画像: SUZUKI Scrambler TC250(1967年)

空冷2スト2気筒のT250をベースにアップマフラー化し、車名もスクランブラーTC250として発売された。同じく200ccのT200をベースとしたTC200も発売されていた。


Kawasaki 650W2TT(1968年)

画像: Kawasaki 650W2TT(1968年)

650W1の海外輸出モデル650W2SSのスクランブルバージョン。アメリカのオフロード向けのファンライドモデルで、最低地上高を確保すべくアップマフラーを採用していた。

文:中村浩史/写真:モーターマガジンアーカイブ

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