カワサキのお家芸といえるミドルクラスのパラレルツインが今また「ザッパーの再来」として注目を浴び始めている。ザッパーとは、アメリカでの風斬り擬音「Zap」からのスラングで風を斬って疾走るオートバイのこと。今どきのザッパーは、時速300km/hでもゼロヨン10秒台でもない。いつでもどこでも、誰にでも思い通りの走りができるオートバイのことだ。
文:中村浩史/写真:森 浩輔

大きいことはいいことだが、小さいことは、もっといい

日本の多くの4気筒エンジンユーザーにしてみれば、やはり2気筒エンジンというと非力だったり、低コストだったり、どことなく最高じゃない、というイメージを持ちがちだ。

かく言う私もそうだった。所有した大型バイクは4気筒ばかりで、無理もない。1980年以降の日本のビッグバイクは、ほぼ4気筒エンジンをメインに進化してきたのだから。

さらに排気量650ccとなれば、同じ大型二輪免許でZX-14Rの1400ccにだって乗れるのに――と考えてしまう。排気量マウントなんて言葉は好きじゃないけれど、やはり大排気量に乗ることは、一種のステータスには違いないのだから。

そんな大排気量、4気筒好きが2気筒650ccに乗ると、本当に目からウロコが落ちる。車両自体も、エンジンの回転フィーリングも、とにかく軽い。400ccクラスの軽量な車体に750ccクラスのパワーを載せていることは、こんなに意のままに扱えるものなのか、と感心するばかりだ。

画像3: カワサキ「Z650RS」インプレ(中村浩史)

走り始めは軽快でころころとレスポンスするフィーリングだ。ドンと押されることがなく、非力さも感じない、スロットルの開け方に応じたトルクが取り出せるフィーリング。

そのまま回転を引っ張ってみると、4000回転くらいからころころとした鼓動が連続したビートに変わっていって、高回転域に伸びて行こうとする。このあたりがいわば常用回転域で、普通に使っていれば5000~6000回転も回れば充分なスピード域をカバーできるはず。このエリアのコントロール性がイージーなのだ。

ちなみにストリートで50~60km/hで走っていると、とんとんと早めにシフトアップして行って、せいぜい5000回転。軽快なレスポンスとトルクの出方が、4気筒にはないダイレクトさを伴って味わえる。

けれど、意外な一面はここから。スポーティな表情を味わってみようと、もっと回転を引っ張ってみると、トルクピークの6700回転を超えて7000~8000まで回すと、さっきまでの連続したビートが、まるでV4のレーシングエンジンのような咆哮を響かせ始めるのだ。この時のスロットルとリアタイヤの一体感、トラクションのかかりかたといったら!

画像4: カワサキ「Z650RS」インプレ(中村浩史)

もちろん、4気筒だってこのフィーリングを味わうことはできるけれど、その時にはもうとんでもないスピード域に突入していて、ほんの些細なミスも許容してくれないような、どこにスッ飛んでいくのかわからない不安な状態に陥ってしまう。今さらながら、並列2気筒にこんな一面があったなんて――4気筒ユーザーとしては、ついついそう思い知らされてしまう。

ハンドリングも4気筒のそれとは明らかに違う。重いものを軽快に動かそうとする4気筒エンジン車よりも、絶対質量が軽いものが素の動きをする2気筒車の自然さは、タイヤにもサスペンションにも負担がかからない、ブレーキにも大きな負荷がかかりすぎないような、軽快すぎない、俊敏すぎない動きを味わえるのだ。

小さいのがいいなら400ccでいいじゃないか――違うんだな、もう少し動きに重厚さと手応えが欲しい。

ハイパワーならZX-10Rの200PSがあるじゃないか――違うんだ、200PSの上澄みだけじゃない、68PSを一杯まで使うのが楽しい。

ザッパーとは風を斬って疾走するオートバイのこと。けれど風を斬るのは、なにも時速300kmや200PSだけの特権じゃない。今では、いつでもどこでも、思い通りの走りができることをザッパーと呼ぶのだ。

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