国内4メーカーとプロダクトデザイン1社のデザイナーが講師を務める特別講座が開催されるということで、学生と一緒に二輪デザインの魅力を探ってみた。今回参加できなかったデザイナーを志す学生の皆さんに向けて、二輪デザイナーになるにはどうすればいいのか、普段どのような仕事をしているのか、などを各メーカーのデザイナーに根掘り葉掘り聴いてきました!
まとめ:オートバイ編集部/写真:関野 温
この記事は月刊『オートバイ』11月号の記事を一部編集し掲載しています。

【Q&A】バイクのデザインに関する20の質問・疑問

Part1 Desigh Sketch(デザインスケッチ)

Q.1二輪のデザイナーになるには、オートバイに詳しくないといけないの?

A.オートバイのことを知らなくても、二輪免許がなくてもOK

オートバイのことをまったく知らなくてもバイク業界のデザイナーになることは可能。もちろん二輪免許がなくてもまったく問題なく、それによって入社試験の合否に影響することはない。オートバイのことは入社してから勉強し、時間のある時に二輪免許を取得すればいいそうだ。

変にオートバイの知識があるよりも、まっさらな状態で入社した方が良いこともたくさんあるという。バイク好きには響かないバイクでも、バイクを知らない人に響くバイクもあるので、違う入口から来て欲しいそうだ。二輪業界とは異なる業種のデザイナーから転職してくる人も多いそうだ。

画像: Q.1二輪のデザイナーになるには、オートバイに詳しくないといけないの?

Q.オートバイのデザインに関わる職種はどんなのがあるの?

A.オートバイのデザインに関わる仕事は大きく分けて4つある

二輪のデザイナーにはいろんな職種がある。スタイリングデザイナー、CMFデザイナー、クレイモデラー、デジタルモデラーが代表的なもの。ひとつのモデルを仕上げるのにメインのデザイナーひとりでは見切れないので、複数の業種のデザイナーが絡んでくるという。デザインの仕事内容はとても広いのだ。しかし、中には全部ひとりでやってしまう人もいるそうだ。仕事の裁量はデザイナーによってまちまちなので、どこまで関わるかはデザイナー次第というところが大きいそうだ。

画像: Q.オートバイのデザインに関わる職種はどんなのがあるの?

Q.3 デザイナーは手描きでスケッチするの?

A.手描きもするけど、今はデジタルスケッチが一般的

デザイナーは絵を描くのが仕事。その目的はデザイナーの頭にある色々なアイデアを手っ取り早く人に伝えることだ。いくら言葉でいろいろと説明しても、それを聞いた人はそれぞれ受け止め方が違うので、一番伝わりやすい方法が絵ということ。これは手描きスケッチだろうが、デジタルスケッチだろうが同じこと。絵は自分の考えを人に伝えるためのひとつの手法なのだ。デザイナーが何かを生み出すときや検討するときは、まずアイデアスケッチを描く。

しかし、闇雲に描いても意味がないのでコンセプトの世界観をしっかりと定め、吟味してから描きはじめる。描いたコンセプトの中からさらにアイデアを絞り込み、一番魅力的なデザインに仕上げていくのがデザイナーの仕事。デザインの決定までに、だいたい100枚くらいスケッチを描いている。経験値が上がればある程度頭の中でデザインを構築できるようになるそうだ。最近はデジタルスケッチが一般的になっている。

画像: Q.3 デザイナーは手描きでスケッチするの?

Q.4 二輪のデザイナーと四輪のデザイナーで異なることは?

A.二輪のデザイナーはエンジンやサスペンションなどの機能部品を描く必要がある

二輪が四輪と大きく違うのは、オートバイはエンジンがむき出しになっていることだ。つまりデザイナーの知識だけではスケッチを描くことができないので、設計担当者が関わってくる。要するにできるできないをスケッチの段階から設計担当者と密になり検討を行う。

とくにネイキッドモデルはエンジンなどのレイアウトを先に決めてから、ほかのデザインを描くこともあると言う。しかし、スクーターのようにエンジンがボディの中に隠れている場合は、スタイリングスケッチが先行することもあるそうだ。クルマのデザインはフロントフェイスとリアフェイスのデザイナーが異なるし、インテリアもそれ専門のデザイナーがいる。二輪と四輪のデザイナーの仕事内容はかなり異なるようだ。

画像1: バイクのデザインはどのように生まれるのか? プロのデザイナーに尋ねた20の質問|デザインに関するあれこれをQ&A方式で解説
画像2: バイクのデザインはどのように生まれるのか? プロのデザイナーに尋ねた20の質問|デザインに関するあれこれをQ&A方式で解説

Q.5 普段デザイナーとして気にして見ているものはありますか?

A.アパレルのファッション系、スニーカー、ファッション家電の色など

流行色は様々な組織や団体がリサーチを行い、その結果導き出された予測で流行色が発表される。モデルサイクルが短いファッション系はその流行色を即座に商品に反映するのだが一般的だが、二輪と四輪は少し遅れてトレンド色が採用される。つまり二輪にトレンド色が採用される頃には、ファッション系ではすでに過去の流行色になっていることが多いそうだ。

画像: Q.5 普段デザイナーとして気にして見ているものはありますか?

デザイナーは普段から服やスニーカーの色、有名ブランドのイヤホンやヘッドホン、ファッション家電などの色にも注目している。色は世界情勢にも影響を受けるそうだ。たとえばコロナ前に提案した2020年の色は、オリンピックの関係で赤だったのに、コロナの影響で色を変更した。さらに2002年のトレンドカラーは迷彩柄と言われていたが、アメリカの同時多発テロの影響で変更された。現在、黄と青はウクライナを連想させるなど、本来決まっていたボディカラーを変更することもあるそうだ。


Q.6 TFTメーターは誰がデザインしているの?

A.メーカーやモデルによって異なるが、一般的にスタイリングデザイナーが担当する

最近タブレットのようなTFTメーターを搭載するモデルが増えている。ボタン切り替えで異なるデザインのメーターが表示されるのは魅力的だ。当然TFTメーターに表示される幾つもの情報もデザイナーによってデザインされているのだが、メーカーによってはスタイリングデザイナーが担当することもあれば、CMFデザイナーがデザインすることもあるそうだ。

画像: Q.6 TFTメーターは誰がデザインしているの?

また、それ専用のデザインチームが設置されているメーカーもあるそうだ。当然TFTメーターを製造するボッシュやデンソーなどのサプライヤーメーカーにもデザイナーが在籍している。しかし、二輪メーカーのデザイナーとサプライヤーメーカーのデザイナーとでは、開発時の観点が異なることがたまにあるそうだ。たとえば「SS系のTFTメーターは奥行き感のあるタコメーターにしたい」とバイクメーカーのデザイナーが提案しても、サプライヤーのデザイナーは、「それだと今、何回転なのかわかりづらい。視認性が大事だ」というように、デザイナー同士でも違う観点が入ってくるそうだ。


Q.7 将来EVのオートバイが一般的になったらデザインは大きく変わるの?

A.超小型の軽量バッテリーが開発されない限り、大きく変わらないのでは

バイクは2つのタイヤで車体をバランスさせなければならないので、フロントフォークのキャスター角やフレームの通しなど、これまで培った技術を応用することになる。タンクやエンジンは重量物なのでバランスさせて走るには重心をどこに置くかを決める必要がある。

画像: Q.7 将来EVのオートバイが一般的になったらデザインは大きく変わるの?

結局EVもエンジンやタンクのところにバッテリーなどを置くことになるので、意外とスタイリングは変わらないのでは、という回答だった。しかし、技術革新が進んで超小型の軽量バッテリーになったとしたら話は変わってくるかもしれない、とも話していた。


手描きスケッチとデジタルスケッチを体験した学生のコメント

山田さくらさん(名古屋学芸大学)

画像: 大学1年なのでデザインの基礎やプロダクトデザインを学んでいます。プロダクト系のデザインに興味があるので、この講座に参加しました。父がバイク好きなのでバイクの後ろには乗ったことはありますが、二輪免許はありません。今回はじめてタブレットでスケッチしたのですが、筆圧を強弱できるので普通のペンのように使え、手が画面に触れてもペン以外は反応しないことにも驚きました。

大学1年なのでデザインの基礎やプロダクトデザインを学んでいます。プロダクト系のデザインに興味があるので、この講座に参加しました。父がバイク好きなのでバイクの後ろには乗ったことはありますが、二輪免許はありません。今回はじめてタブレットでスケッチしたのですが、筆圧を強弱できるので普通のペンのように使え、手が画面に触れてもペン以外は反応しないことにも驚きました。

前田瑠唯さん(名古屋芸術大学)

画像: 大学1年で具体的に専攻は決まっていないので、デザイン全般を勉強しています。オートバイをこんなに間近で見たのは今回がはじめてで、まったくバイクの仕組みがわからないので描き方が難しかったです。金属の表面がツルツルだったりするので、マーカーで素材を表現するのに苦労しました。家に帰って色々オートバイについて調べてみます。

大学1年で具体的に専攻は決まっていないので、デザイン全般を勉強しています。オートバイをこんなに間近で見たのは今回がはじめてで、まったくバイクの仕組みがわからないので描き方が難しかったです。金属の表面がツルツルだったりするので、マーカーで素材を表現するのに苦労しました。家に帰って色々オートバイについて調べてみます。

巣山悠斗さん(静岡文化芸術大学)

大学ではプロダクトデザイン全般を学んでいますが、バイクを描いたのは今回がはじめてだったので苦労しました。自分は鉛筆スケッチが未熟で、少しでも上達したいので鉛筆コースを選びました。トレースを学んだのですがプロの凄さを実感することができました。精一杯トライしたので達成感はすごくあります。バイクの免許は持っていないのですが、これから取ろうと思います。


Part2 CMF Desigh (CMFデザイン)

Q.8 CMFデザイナーはどんな仕事をするの?

A.ユーザーの「私らしさを引き立てるカラーリング」を開発する仕事

CMFはColor、Material、Finishを意味する。Cはカラーのことで色素や明度、彩度などを意味する。Mはマテリアル、つまり素材、アルミニウムなど商材に使われる全ての素材のことを指している。Fはフィニッシュ、表面加工のこと。アルミタンクのヘアライン加工やバフ掛け、塗料による艶、マット、樹脂の表面処理などのこと。CMFデザイナーは、モデルのコンセプト説明、モデルの機能の説明、ブランドイメージをわかりやすくユーザーに伝える役割を持つ。

画像: Q.8 CMFデザイナーはどんな仕事をするの?

具体的にはオートバイのカラーリングやグラフィックデザイン、ロゴデザインなどを製作する。しかし、オートバイは世界中に輸出されていて、それぞれの国で色やグラフィックなどの好みが全く異なるので、現地に出向いて現地の人が好む色やトレンドなどの情報を収集し、最適な商品に仕立てていく。さらにCMFは1年先、2年先の仕事を先行して行うので、次第に時代の先が読めるようになってくるそうだ。「3年前はこれで、今はこれ。ということは1年半後はこの色が流行るのでは」というような感じで現地スタッフと考えながら、一番適切な色を決めていく。ボディカラーの変更のみで、前年比の販売台数を大きく上回ることもあるのでやり甲斐のある仕事だ。


Q.9 四輪と二輪のCMFデザインの仕事はなにが違うの?

A.二輪はグラフィックを採用するが、四輪が採用することはない

CMFデザインはクルマ業界でも活躍しているが、ほとんどと言っていいほどグラフィカルなカラーリングを施したクルマを見たことがない。これに対し、オートバイはクルマと違ってグラフィカルなステッカーなどを採用することが多い。この点が四輪と二輪のCMFデザインの違い。

画像: Q.9 四輪と二輪のCMFデザインの仕事はなにが違うの?

Q.10 ボディカラーはメインのデザイナーが決めるの?

A.ボディカラーやロゴは、そのバイクを象徴する大事な部分

メーカーや車種によっても異なるが、カラーデザイナーがバイクのコンセプトに応じてカラーを決めることもある。とくにロゴやグラフィックなどのデザインは専門知識が必要なので、専門のCMFデザイナーが担当することが多い。近年は新型車のデザインが発表される前に、SNSなどで新型車に使用されるロゴを先行して発表することが多くなった。ロゴのデザインでどんなバイクなのかをイメージしてもらうことがとても大事なカギとなるからだ。つまりスタイリングデザインとは別のノウハウが必要だから、それ専門のカラーデザイナーCMFが存在するのだ。


Q.11 マット系カラーが増えているのはトレンドですか?

A.トレンドでもあるが、デザイナーが求める質感を優先した結果でもある

最近、マットシルバーが標準色として設定されているクルマを見かけるが、この色はとても塗装が難しいので今までほとんど採用されなかった。とくに塗装面が多いクルマのマットカラーは難しいだけでなく通常の艶ありカラーと比べて、塗り直しができないデメリットもある。マットカラーは光の反射がシャープに映らずに、じわ〜と映ることで金属っぽい質感に見えるのが特徴。トレンドというよりはデザイナーが目指したい質感を優先した結果、マットカラーを採用したということの方が多いかもしれない。

画像: Q.11 マット系カラーが増えているのはトレンドですか?

ユーザーにとって、全色マットでは喜ばれないし、全色艶ありでも喜ばれない。やはりそのバイクのコンセプトがカラーバリエーションに大きく影響する。またデザイナーが自分の好みの色を使うということもありえないそうだ。バイクのコンセプトに沿ったカラーリングを選択するのがプロの仕事。そうでないと商品性につながらないのだ。


Q.12 なぜ国によってカラーリングを変えるの?

A.国によって好まれる色やグラフィックが異なるから

たとえば日本でピンク色のオートバイに男性が乗ることは少ないが、フィリピンでは男性も普通にピンク色のオートバイに乗っている(下のカタログ参照)。なぜならフィリピンでは「ピンクは女性らしい色」という感覚がないので、男性でもまったく抵抗感がないそうだ。なのでフィリピンでは男性向けのオートバイにピンクの差し色を入れても販売には全く影響しないという。

画像1: Q.12 なぜ国によってカラーリングを変えるの?

一方、タイは奇抜な色使いのオートバイが多いという(下のカタログ参照)。タイ人はオシャレでファッショナブルな感じを好む傾向があり、さらにジェンダーレスの若者も多くいることから暗めの色は使いづらいそうだ。街全体が華やかな装飾に覆われているので、それに負けない華やかなグラフィックを採用しないと、タイでは埋もれてしまう。また国によって光の環境も違うので、現地で色がどう見えるのかを調査することもあるそうだ。たとえば同じ色をヨーロッパのどんよりした空の下で見るのと、アメリカの空で見るのとでは見え方が全く異なるという。カラーリングは地域に合わせて計画的に作り込まれている。

画像2: Q.12 なぜ国によってカラーリングを変えるの?

Q.13 男性と女性でデザインの感性の違いを感じることはありますか?

A.性別というよりは、個々の感性の違い

男女の違いというよりは、デザイナーそれぞれの感性の違いなので性別は関係ない。女性がスーパースポーツのカラーリングを担当することも普通にあるし、ビッグアドベンチャーやクルーザーなどを担当することもある。

性別というよりは、その人が得意とする方向性のモデルを担当することが多いそうだ。女性は色を見分ける力が強いと言われていて、それは、コスメなどの口紅や化粧品の華やかな色彩を普段から見ているからとされている。しかし、男性も同じ環境にいたら、その力は身に付くことだろう。見えているものは男も女も同じだが、感じ方のセンサーが違うのかもしれない。

画像1: Q.13 男性と女性でデザインの感性の違いを感じることはありますか?

はじめてのCMFにチャレンジした学生のコメント

「どこで?何を?誰が?」の3つのテーマからオリジナルのグラフィックとエンブレムのデザインを考案するCMF講座にチャレンジした鈴井葉月さんと渡邊友莉さん。2名1組で取り組むCMFに与えられたテーマは、「20年後の東京で」「通勤・通学する」「ヒーロー」というとても難しいものだった。彼女たちが製作したイメージを解説してもらった。

画像2: Q.13 男性と女性でデザインの感性の違いを感じることはありますか?

「通学というテーマから、日常的な感じを表現し、2種類の柄を選びました。スピード感よりも普段の生活に寄り添える落ち着きのあるイメージです。ヒーローは女子高生にしました。しかし、戦う時には男子に変身します。20年後の東京は、きっと今よりジェンダーレスが進んでいるだろうと想定し、赤色を女子だとしたら青色は男子。その中間をとって紫色を使いました。そして紫の上にグラデーションの白を載せることで変身を表現しています。ロゴですが、ヒーローの女の子は人々を守りたいという情熱と学生としても楽しみたい、色々欲張りな人間です。なのでロゴはポップな学生感を表現するデザインにしました」

鈴井葉月さん(名古屋学芸大学)

大学ではイラストレーターを使ったレンダリングを勉強しています。今回は4講座受けましたが、一番楽しかったのはクレイです。普段は2次元のデザインばかりなので、削りながら形を作る3次元でデザインしたのは初めてです。二輪のことはまったく知らないですが、せっかく参加したのでいろいろ触れながら学んでいきたいと思います。

渡邊友莉さん(女子美術大学)

自分で考えたグラフィックデザインを実際のオートバイで実現できるなんて夢みたいです。CMFのデザイナーはこのようにしてカラーリングを考えているんだと実感しました。これからは街中のオートバイの見方がちょっと変わりそうです。親がバイク好きなので小さい時からバイクは身近にありました。現在、二輪免許を取るために教習所に通っています。


Part3 Clay Modeler(クレイモデラー)

Q.14 クレイモデラーとデザイナーは違う職種なの?

A.デザインの作り込みは一緒に行うが、必要とされる能力が異なる職種

クレイモデラーはデザイナーが描いたスケッチを立体にする仕事なので、デザイナーが描いた平面のスケッチを見ながらデザインの意図を読み取る能力が必要になる。デザイナーの中には自分で描いたスケッチでクレイを削る人もいるなど、スタイリングデザイナーとモデラーはオーバーラップする部分もあるという。通常は、それぞれ違うチームに所属していることが多いようだ。ちなみにヤマハはモデラーのことを「スカルプター(彫刻家)」と呼んでいる。

画像: スズキのクレイモデラー 内山 茂さん(写真:左)とハヤブサのスタイリングデザイナー 小川和孝さんも講師として参加した。小川さんもクレイを削るという。

スズキのクレイモデラー 内山 茂さん(写真:左)とハヤブサのスタイリングデザイナー 小川和孝さんも講師として参加した。小川さんもクレイを削るという。

画像: 左のハヤブサ、シートとテールカウルはクレイモデルで制作されている。

左のハヤブサ、シートとテールカウルはクレイモデルで制作されている。


Q.15 クレイモデラーとデジタルモデラーは何が違うの?

A.四輪業界では多くのデジタルモデラーが活躍している

最近はデジタルモデリングが進み、これまでのクレイモデラーのほかに、デジタルモデラーという新たな職種が生まれた。クレイモデラーは粘土を使ってスケッチを立体にしていくのに対し、デジタルモデラーはCADソフトを使って3Dモデルを製作する。スズキはクレイモデラーとデジタルモデラーのすみ分けがなく、どちらも同じくらいの比率で仕事をするそうだ。クレイとデジタルではどちらが好きかという問いに「粘土は魂が宿る瞬間が見えるときがある。この時が一番好き」と答えてくれたクレイモデラーもいた。クレイモデラーでもデジタルモデラーでも、デザインを表現していくために日々造形を研究しながら仕事に取り組んでいる。

画像: スズキのクレイモデラー冨田昇伸さんもクレイとデジタルの両方を受け持っている。

スズキのクレイモデラー冨田昇伸さんもクレイとデジタルの両方を受け持っている。


Q.16 デザインスケッチだけで立体にできるの?

A.クレイモデラーは常にスケッチを超えるカッコ良さを追求している

モデリングするときは真横のスケッチを見ながら立体化していくことが多いそうだ。一番大事なのはモデラーにデザインの意図を伝わらせることなので、モデルによっては正面、真後ろなどのスケッチを描くこともあるという。

モデラーは常に「スケッチよりもカッコよくしてやるぜ!」という意気込みで作業をしており、デザイナーに自分の意見を伝えることも多々あるそうだ。実際に形になったモックアップをデザイナーが見て「こっちのほうがいいね!」というケースも珍しくないという。もちろんモデラーはスケッチのデザインを完全に変えるのではなく、あくまでもシルエットを継承しながら作業を進めていく。

画像: 右は2次元、左は3次元のクレイモデル。3次元の立体にするのはとても難しいのだ。

右は2次元、左は3次元のクレイモデル。3次元の立体にするのはとても難しいのだ。

画像: ハヤブサのテールカウルのクレイモデル。シートやテールレンズもクレイで製作している。

ハヤブサのテールカウルのクレイモデル。シートやテールレンズもクレイで製作している。


Q.18 クレイで製作したカウルの中身は全て粘土なの?

A.クレイの中にはベース形状となる発泡スチロールが入っている

クレイは発泡スチロールの上に盛られている。はじめにベースとなるブロックを発泡スチロールで製作し、その上に2〜3cmくらいクレイを盛っている。そこからモデラーが形を作っていく。クレイは25℃前後の常温では適度な硬度を保っているので、使用するときは専用のオーブンで60℃に温める。温まると軟らかくなる性質をもっている。削りすぎても再度盛ることができるので、何度でも再生することができる。ただし、削ったクレイを集めて再使用するには専用の機械で再度練り直し、脱気してから使う必要がある。環境にも配慮されており、使用後は普通ゴミとして焼却処分することが可能だ。

画像: インダストリアルクレイ専用のオーブンで60℃に温め、柔らかくしてから使用する。冷えると硬くなる性質なので温めることで何度も使用でき、環境に優しい素材が使われている。

インダストリアルクレイ専用のオーブンで60℃に温め、柔らかくしてから使用する。冷えると硬くなる性質なので温めることで何度も使用でき、環境に優しい素材が使われている。


Q.19 クレイを削るときに使っている道具はなんですか?

A.ナイフのような切れ味のクレイ専用品を使っている

クレイ専用のスクレイパーという道具で表面を削る。スクレイパーには大小様々な形状のものが用意され、刃先はナイフのように鋭く尖っているので、定期的に砥石で砥ぐ必要があるほど繊細な道具だという。中には包丁で有名な新潟県燕三条の鍛冶職人がハンドメイドした製品もあるそうだ。スクレイパーで削った面は、金属の鋼板を使って局面を滑らかに整えていく。鋼板はそれぞれ厚さが異なり、面の曲率が少ないときは硬い鋼板を、曲率が大きいときは柔らかい鋼板を使う。削り方は一方向だけでなく、いろんな方向から削るのがコツだという。

画像8: バイクのデザインはどのように生まれるのか? プロのデザイナーに尋ねた20の質問|デザインに関するあれこれをQ&A方式で解説
画像9: バイクのデザインはどのように生まれるのか? プロのデザイナーに尋ねた20の質問|デザインに関するあれこれをQ&A方式で解説

Q.20 クレイモデルが完成したらどうやって製品化するの?

A.デジタルモデラーが量産用の滑らかな面にするためにデータを整える

クレイモデルが完成したら3Dスキャナで測定しデータ化する。クレイモデルは人の手によって作られているので一見すると表面は滑らかに見えても、データ化すると凹凸がハッキリと現れる。これをデジタルモデラーが滑らかな面に仕上げ、量産できる状態にする。デジタルモデラーは海外のオートバイメーカーやクルマ業界では、かなりメジャーな職業になってきているそうだ。

画像: クレイモデルが完成したら3Dスキャナでデータ化する。デジタルモデラーがデータを元に滑らかな面に仕上げていく。

クレイモデルが完成したら3Dスキャナでデータ化する。デジタルモデラーがデータを元に滑らかな面に仕上げていく。


はじめてクレイ製作を体験した学生のコメント

竹内 隼さん(武蔵野美術大学)

画像: 大学ではカーデザインを先行したいと思っています。自分は集中力が続かないのですが、クレイはかなり集中して没頭することができ、とても楽しかったです。バイクが大好きでハンターカブを購入したいのですが、バイク屋さんに在庫がまったくありません!

大学ではカーデザインを先行したいと思っています。自分は集中力が続かないのですが、クレイはかなり集中して没頭することができ、とても楽しかったです。バイクが大好きでハンターカブを購入したいのですが、バイク屋さんに在庫がまったくありません!

中山日和さん(京都芸術大学)

画像: バイクに興味があるので参加しました。二輪の免許は持っていませんが、できればバイク関係のデザイナーになりたいです。はじめてクレイを削ったのですが、思ったより軟らかくて削りやすいですね。必要以上に削りすぎても、すぐに修正できるのがクレイの魅力ですね。

バイクに興味があるので参加しました。二輪の免許は持っていませんが、できればバイク関係のデザイナーになりたいです。はじめてクレイを削ったのですが、思ったより軟らかくて削りやすいですね。必要以上に削りすぎても、すぐに修正できるのがクレイの魅力ですね。

まとめ:オートバイ編集部/写真:関野 温
この記事は月刊『オートバイ』11月号の記事を一部編集し掲載しています。

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