文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年9月15日に公開されたものを転載しています。
小型電動モビリティ普及のカギは、世界規模の共通規格交換式電池にアリ?
2050年カーボンニュートラルに向け、世界中の2&4メーカーが「電動化」に力を入れている昨今ですが、小型2輪EVに関してはその普及のカギとなるのは動力源としての交換式バッテリーになるだろうというのが、大方の見方です。
交換式バッテリーの分野では、現在最も先進的な台湾にてGogoroとキムコのアイオネックスが激烈なシェア争いを展開しています。両陣営ともに、その戦略は自社規格の交換式バッテリーを気軽に使えるようにすべく、バッテリーステーション網を広範囲に整備する・・・というのが基本になっています。
現状で2輪EVの大きな弱点としては、バッテリーの高価さと重さ、そしてICE(内燃機関)搭載車よりも航続距離が短いことが主にあげられますが、いつでもどこでもカンタンにバッテリーを交換することが可能になれば、それらの弱点は実質的に克服することが可能になります。
リチウムイオン電池主流の現時点の技術では、大型2輪EVの場合はバッテリーのサイズが動力性能および車体造りにも影響するためそのモデル専用のバッテリーを搭載。一方で大型車よりもショートレンジでの使用が主な電動スクーターに代表される小型2輪EVは、適当なサイズの規格化された交換式バッテリーを使うのが「最適解」となっています。
台湾では上述のとおり、Gogoroとアイオネックスがそれぞれの規格を使っているわけですが、もし2輪EV用バッテリーが私たちの暮らしに馴染み深い「乾電池」のようになったら・・・? ちなみに私たちが気兼ねなく使っている乾電池が発明されたのは1896年で、1898年にはDセル(単1)、1907年にはAA(単3)、1911年にはAAA(単4)の規格が生まれましたが、それらが広く普及するには結構な時間を要することになりました・・・。とどのつまり共通規格の普及とは、どんな分野においてもカンタンなことではないわけです。
Gogoroとアイオネックスの台湾市場での戦いは、野次馬的に観察する分には面白いのですが、ユーザーの利益を第一に考えた場合、独自規格の交換式バッテリーシステムを普及させることに専心するよりは、互換性に優れ「乾電池」的に使える電動スクーター含む小型モビリティ用交換式バッテリーの「共通規格」の普及を志向した方が良いのは明らかでしょう。
2021年秋に発足した、ホンダ、KTM、ピアッジオ、ヤマハという日欧の大手4メーカーによる、SBMC=スワッパブル バッテリーズ モーターサイクル コンソーシアムは、交換可能なバッテリーシステムの共通技術仕様の策定、バッテリーシステムの共通利用方法の確認、コンソーシアムの共通仕様を欧州および国際的な標準化団体で標準化および推進、コンソーシアムの共通仕様をグローバルに展開・・・という4つの課題を最初に設定しました。
三人寄れば文殊の知恵・・・では、21社+2団体が寄れば・・・?
2021年秋のSBMC発足の後、2022年に入ってからSBMCからの新たな情報開示は長らくありませんでした。世界の市場を対象とした、大規模かつ国際的なコンソーシアムですから物事がトントン拍子で進むわけではないのはわかりますが、台湾市場で大活躍するGogoroが世界市場進出への計画を着々と進めているニュースを聞くたびに、SBMCはどうなっているのかなぁ・・・と日本人で日本メーカーに肩入れしてしまう者としてはヤキモキした想いをしてしまいました。
もちろん、SBMCもボケーっと時を費やしていたわけはありません。9月15日のSBMCからのアナウンスによれば、SBMCは昨年秋の発足後から参画企業が4から21へ着々と増加していること・・・そしてSBMCの交換式バッテリー標準化に向けた、各種の活動を進めていることを明らかにしました。
現在SBMCは、コンソーシアム設立時のチャーターメンバー4社・・・ホンダ、KTM、ピアッジオ、ヤマハが、コアメンバーという重要な役割を担っています。
SBMC設立後に参画したレギュラーメンバーのうち日本企業は、ホンダ、ヤマハとともに国内のバッテリー・コンソーシアムを形成している2輪大手のスズキとカワサキ、そして日置電機(電気計測器メーカー)、ROKI(フィルターメーカー)、住友電気工業(ワイヤーハーネスシステムなどのメーカー)の5社になります。
そして海外のレギュラーメンバーは、Ciklo(スペインでヌーク・モビリティを展開)、ファイブバイクス(イタリアのE-バイクメーカー)、フォーシー・パワー(フランスの電池システムおよび電動モビリティ開発)、HYBA(英・伊のバッテリーシステム企業)、NIU(中国の電動スクーターメーカー)、ポラリス(米国のATV、スノーモビル、モーターサイクルメーカー)、サムソンSDI(韓国の電池・電子材料メーカー)、シンボン(台湾の電池コネクターアッセンブリーメーカー)、Swobbee(ドイツの電動モビリティおよび交換式バッテリーシステム開発企業)、Veネットワーク(イタリアのファンティック、モトーリ・ミナレリ、そして電池メーカーのアテックスの株主である会社)、ヴィテスコ・テクノロジーズ(ドイツのパワートレイン部品メーカー)、キムコ(台湾の大手スクーターメーカー)の12社です。
海外のレギュラーメンバーのなかに、米国の雄であるポラリス、幅広く世界展開をするNIU、そしてモトーリ・ミナレリを傘下に置くファンティックと、アイオネックスでGogoroと台湾市場で激しくやり合っているキムコがSBMCにいるのは、なんとも心強く思えます。
これらコアメンバーおよびレギュラーメンバー計21社に加え、AVL(オーストリアのモビリティテクノロジー開発)、JAMA(一般社団法人日本自動車工業会)が、政府、研究機関、学術機関などが該当するアソシエイツメンバーとしてSBMCに加わっています。
7月のSBMCサミットで、SBMC共通規格についてどのような話が具体的に出てきたのかについては、残念ながらアナウンスのなかでは明らかにはされませんでした。しかし、CEN-CENELEC(欧州標準化委員会および欧州電気標準化委員会)のリエゾン(連携)メンバーにSBMCは承認されることになり、CEN-TC301(電動車両)およびCEN-CENELEC JTC-13(サイバーセキュリティとデータ保護)のメンバーとして、SBMCが選任されたことは明らかになりました。
CEN、CENELEC、そしてETSI(欧州電気通信標準化機構)という、3つの欧州標準化機構と公式に結び付いたことがSBMCから発表されたことは、このコンソーシアムの試みが計画どおりに目標実現に向けて進んでいることをうかがわせるものです。EURO規制がEU域外の各国の規制にも強い影響を及ぼしている昨今、欧州で標準化される規格の策定にSBMCが関与する意味は大きいでしょう。
"船頭多くして船山に登る"という例えは、指図する人が多すぎると混乱して物事がうまく進まないことを不安視する際に使われますが、ヘンな野心を抱く企業がコンソーシアム内に複数存在した場合はSBMCの試みも例えどおりの結果になるのかもしれません・・・。ただコアメンバーである4社と、後に参画したレギュラーメンバー各社のいずれもが「標準化交換式バッテリー」実現を単独で成し遂げるには難しいミッションである・・・という大事なコンセンサスをSBMCのなかで共有できれば、上述の例えは杞憂に終わることになると思います。
無論、諸々のことがカンタンに進むとは思いませんが、大型2輪EVよりも早く普及されることが望まれる、電動スクーター含む小型モビリティの近い将来の発展のために、SBMCの様々な試みが今後ガンガン進んでいくことを期待したいですね! 首尾良く「標準化交換式バッテリー」が普及したあとは、SBMC内の2輪メーカー間の"開発競争"や"商戦"が激化するのは必須の流れでしょうが、それも世界中のユーザーにとっては、"選ぶ楽しみ"というメリットのひとつになるでしょう。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)