文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)
※この記事は「ロレンス」で2022年2月11日に公開されたものを転載しています。
小型2輪EVの分野の、世界のリーダーになるという野望!?
KTM、ハスクバーナモーターサイクルズ、ガスガスなどのブランドを擁するピーラー・モビリティは、投資家向けに今年2月版のプレゼンテーション資料を公開しました。全40ページの資料のなかには、結構な割合で同グループの電動化計画についての説明があり、「250W〜15kWの2輪EV分野で、世界的リーダーになることを目指します」という文言も見ることができます。
資料によると、2019〜2021年の欧州におけるE-モビリティ売上のCAGR(年平均成長率)は58%であり、2020〜2025年のCAGRも35%と高水準を保つ予想を立てています。またE-バイクの2021年の市場規模は、欧州450万台、北米50万台、オセアニア10万台でしたが、それぞれ2025年には600万台、200万台、20万台に成長すると分析しています。
すでにピーラー・モビリティはE-バイク分野で約181百万ユーロ≒237億1,387万円を得ていますが、E-バイク同様に将来急速に普及することが見込まれる小型2輪EV分野で、市場のリーダーとなることを目指しているわけです。
現状、2&4問わずEVはバッテリー容量の大小が価格設定を大きく左右しており、その点でも小型で低電圧な2輪EVは比較的安価にすることができます。また小型2輪EVは若いユーザー層の獲得が見込める分野でもあります。自社製品で初のEV体験をユーザーにしてもらいブランドへの「ロイヤリティ」を育んでもらうことは、将来ピーラー・モビリティが大型2輪EVを市場投入したときに、顧客獲得の面で有利にはたらくことも期待できるでしょう。
E-デュークは、予想されたとおりE-ピレンの兄弟車となりそうです?
資料の「開発中の電動モーターサイクル」の項には、子供用オフロードのKTM E10、ハスクバーナモーターサイクルズのE-ピレン、そしてKTMのE-デュークとフリーライド E LVという4機種が紹介されています。
非常に興味深いのはE-デュークの1機種のみ車両の画像イメージがピクセル化されており、そのディティールをごまかしている点です(ちなみにネット上には、E-デュークの姿がピクセル化される前の資料ドラフトが、何者かの手によってリークされています)。
そしてE-デュークについて、もうひとつ気になる点はE-デュークのみステアリングが切れた停車状態で、サイドスタンドが降ろされた姿になっていることです。つまり、E-デュークの姿に関しては、他の3機種のようなイラストではなく、現物のモデル(試作車かモックアップ)なのかもしれません?
公称出力15kW、5.5kWhのバッテリー容量・・・と、ハスクバーナモーターサイクルズのE-ピレンとKTMのE-デュークは同じスペックが与えられた兄弟車であることがわかります。ただ気になるのは、2021年に公開されたE-ピレン・コンセプトは3つの交換式1.5kWhバッテリーを搭載する・・・というコンセプトでしたが、今回の資料ではE-ピレンもE-デュークも車体固定式バッテリーを搭載、と記されていました。
E-ピレンもE-デュークも非交換式バッテリーのプラグイン充電にしたのは、3つのバッテリーパック・・・合計で20kgを超える重量物を充電するたびに積み下ろしするのは煩雑である・・・という判断なのかもしれませんね。そしてE-ピレンは2022年にもデビューする見込みでしたが、今回の資料では「未定」になってしまいました・・・。
またE-ピレンとともに、2022年に市場投入されると予告されていたハスクバーナブランドの電動スクーターですが、そのことについては今回の資料には触れられていませんでした。もしかしたら、アジア圏を中心に強力なライバルが数多く存在する電動スクーターの分野については、戦略を練り直す必要があるとピーラー・モビリティは判断し、一旦電動スクーターの計画は引っ込めた・・・のかもしれません? 真相は定かではありませんが・・・。
1万ユーロ≒131万円以下の価格で、2023年発売予定のフリーライド E LV
ハスクバーナブランドの電動2機種が2022年登場予定・・・というスケジュールを引っ込めた一方で、2023年に市場投入する予定を明らかにした開発中のモデルがKTMのフリーライド E LVです。
出力はKTMの現行電動オフロードモデル、フリーライド E-XC(1万1,290ユーロ)の18kWの半分の9kWですが、フリーライド E LVは4〜11kWの低電圧(48V)のL3e-A1モーターサイクル/スクーター(〜ICE125cc相当)に分類されるため、A1モーターサイクルのライセンスで運転することが可能です(フリーライド E-XCは、A2またはAライセンスが必要)。
また興味深いのは、E-ピレンで不採用となった交換式バッテリーが、フリーライド E LVでは採用されていることです。このあたりは、競技などに使用したときに交換式の方が予備バッテリーを用意でき、即応体制を構築できて便利・・・という判断なのかもしれません?
2輪EV技術は日進月歩で、そして業界をとりまく状況は目まぐるしく変化しますから、今回のピーラー・モビリティの投資家向け資料で公開された内容そのまま・・・になるかは定かではありません。現に、昨年の資料に記された内容どおりにはなりませんでしたから・・・。今年の秋の、モーターサイクルショーの季節にピーラー・モビリティがどのような電動モデルを投入するのか? もしくは、その前に姿を明らかにすることがあるのか・・・? 楽しみにしたいです。
文:宮﨑健太郎(ロレンス編集部)