月刊『オートバイ』で書評コーナーを長年に渡り担当している小松信夫がライダーにおすすめの一冊を紹介します。

イカした“スピード娘”のイラストでジャケ買いしたら…

ある古書店でたまたま『はりきりスピード娘』という文庫本を発見。なんとなく手に取ると表紙には颯爽とスーパーカブらしいバイクで走る、イカした“スピード娘”の姿が! 味わい深いタッチのイラストに惹きつけられて即購入です、ええ、ジャケ買いですよ。単行本は1959年に出てたようですが、今回手にしたのは春陽文庫という時代物とか娯楽小説を得意とするレーベルから1964年に文庫化されたもの。この文庫版でも50年以上前の本。

画像: ホンダ スーパーカブC100

ホンダ スーパーカブC100

表紙イラストでスピード娘が乗っているのは、おそらくこの初代スーパーカブC100? 単行本刊行の1959年ならC100はもう出てるし。真っ赤ってのは輸出向けではあったけど、国内向けにもあったのかなぁ。しかし、実は作中では原付には乗ってるけどカブとは書かれてないし(父親が作ったものだったような)、単行本版の方の表紙に描かれてるバイクはカブじゃないらしいけど。ま、文庫版のイラストでマフラーが左側に見えてるも含めてキニシナイ。

作者は城戸 禮さん。明治42年生まれ、作家としてデビューしたのは戦前! 今ではほとんど忘れられてしまってる作家ですが。しかし1950〜60年代には毎月のように新刊を出してたという売れっ子で、ユーモア、アクション、ハードボイルドなどジャンルを問わず肩のこらない娯楽小説を執筆、映画化、テレビ化された作品も多数。おまけに亡くなられた前年、1994年まで新作を出し続けてたという鉄人。

その膨大な作品中、この『はりきりスピード娘』は、主人公が女子中学生という異色の作品のようですな。小さなオートバイ工場(まだ現存4メーカー以外の中小メーカーがあった時代のお話なんで)の娘・鮎子が(スピード娘!)、明るく快活な性格、柔道を得意とする高い身体能力と、男勝りのライディングテクニックを活かして、見習い工員や友人たちとライバル工場の悪巧みを打ち砕く! という痛快娯楽作。

画像: 春陽堂書店・春陽文庫『はりきりスピード娘』城戸 禮

春陽堂書店・春陽文庫『はりきりスピード娘』城戸 禮

レースのエピソードなんかもあるけど、城戸さんはバイクに詳しくないみたいで…結構適当。でも、そんな部分も含め、いろいろ勢い任せだけど、そこはそれ、大衆娯楽小説の王道。スピーディな展開と読みやすい文体、何より鮎子の魅力的なキャラクターにグイグイ引き込まれます。「ダイジョービ」「ヘッチャラのチャラよ」「ホッホッホ」などなど、時代を感じさせる鮎子のセリフが個人的にはツボです、もうたまんない。あっ、作品が執筆された当時、原付には14歳で乗れたので鮎子は無免許じゃないよ。

文:小松信夫

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