日本が誇る二輪車メーカー4社は世界各地で高い評価を得ている。そして日本市場では正規販売されていない機種が海外では数多く展開されてもいる。この連載では、そんな知る人ぞ知るモデルをフィーチャー。今回は日本語の車名が付けられたスズキ車をピックアップ!
文:小松信夫

スズキは日本語車名のバイクを世界各地で展開する

画像: SUZUKI Hayate EP 総排気量:113cc エンジン形式:空冷4ストOHC2バルブ単気筒 シート高:795mm 車両重量:107kg

SUZUKI Hayate EP

総排気量:113cc
エンジン形式:空冷4ストOHC2バルブ単気筒
シート高:795mm
車両重量:107kg

スズキの「ハヤテEP」と言っても、ほとんどの人はどんなオートバイなのか想像できないはず。そもそも、2012年にインドやバングラデシュなどに向けて開発された「ハヤテ」からスタート。スポーティなミニカウル付きのヘッドライトや、タンクからシートにかけてのデザインは今時だけど、スチール製ダイヤモンドフレームに二本サス、ドラムブレーキ、キャブ仕様の113cc空冷単気筒エンジンといった、枯れた信頼性の高いメカニズムで固められた実用コミューターで。

画像: スズキ ハヤテ(2012年モデル)

スズキ ハヤテ(2012年モデル)

インドとその周辺諸国では、非常に安価なこの手のモデルに今もかなりの需要があり、各メーカーの競争も激しいようでして。そして「ハヤテ」はその中でも人気な1台として、そして現在は改良を施された「ハヤテEP」になってます。登場時から外装は結構変わったけど、車体とかの基本的な構成はほぼそのまま。メカニズム的な変更は、排ガス規制対応とかくらい。

画像: スズキ ハヤテ125 Fi(2014年モデル)

スズキ ハヤテ125 Fi(2014年モデル)

ちなみにスズキには「ハヤテ」を名乗る別のモデルも存在しておりました。それがタイで販売されていた、ちょっとスポーティなスクーター「ハヤテ125」。両車メカニズム的にも性格的にも全く別物。

「ハヤテ125」は2007年にデビューして、結構最近まで販売されてたようなので、インドとタイで並行して全く別の「ハヤテ」が存在してた時期もありました。まあ、距離も離れてて文化圏も商圏も異なるので、特に混乱もなかったのかな。

画像: スズキ サムライ(GR150)

スズキ サムライ(GR150)

ところで皆さんご存知の通り、スズキは昔から日本的な言葉を車名に付けるのが好きですよねぇ。例えば「ハヤテEP」よりちょっぴりグレードが上の150ccモデルには、「サムライ」なんて大層な名前が付いててビックリ。スズキで「サムライ」っていえば、昔はジムニーの海外向けモデルだったんだけど。

画像1: スズキは日本語車名のバイクを世界各地で展開する

忘れちゃいけない、みんな大好き「カタナ」。2019年にスタイルもメカニズムも現代的にリファインされて復活して、世界中で再び人気になってますもんねぇ。日本国内はともかく、海外では今だに紋切り型な日本観というか、日本語のオリエンタルな語感とか(あと漢字)が今でも受けるんだなぁ。

画像2: スズキは日本語車名のバイクを世界各地で展開する

そして今年は、これまた世界的な超人気モデル「ハヤブサ」が復活したのも記憶に新しいところです。で、この「ハヤブサ」と「ハヤテ」と来たら、ある種の人(私だけかな)はオートバイじゃなくて、どうしても別の物のことを思い浮かべてしまうのです。そう、ヒコーキ好きな人は旧日本陸軍の戦闘機、一式戦闘機「隼」と、四式戦闘機「疾風」とオートバイを同列に考えてしまったりするんですよ。するんじゃないかな? するんだってば!

「隼」も「疾風」も製造したのは中島飛行機という現存しない会社でして、現代の自動車関連メーカーと歴史的に関連があるのは4輪のスバルくらい(日産ともちょっとある)。でも、スズキとは一切繋がりはない。でもまあ好きなもんで、ついつい益体もないことを考えちゃうんですよ。

あ、戦闘機の写真なんて手元にある訳ないんで、プラモデルの箱絵で「隼」や「疾風」がどんなものか見てください。

画像: 一式戦闘機「隼」 ハセガワ 1/72 日本陸軍 中島 一式戦闘機 隼 プラモデル amzn.to

一式戦闘機「隼」

ハセガワ 1/72 日本陸軍 中島 一式戦闘機 隼 プラモデル

amzn.to

「ハヤブサ」は強力なエンジンと空力特性に優れるフルカウルで、驚異的な超高速巡行が得意なメガスポーツですよね。

でもヒコーキの方の「隼」は、開発された時点ですでにやや非力なエンジンだったけど、軽快で小回りが効くのが特徴の、素直で優れた運動性能によって高く評価されたというから、「ハヤブサ」のイメージとはちょっと違う。「隼」のイメージをバイクにするとすれば、むしろ250ccスポーツっぽい。

画像: 四式戦闘機「疾風」 ハセガワ 1/72 日本陸軍 中島 四式戦闘機 疾風 プラモデル amzn.to

四式戦闘機「疾風」

ハセガワ 1/72 日本陸軍 中島 四式戦闘機 疾風 プラモデル

amzn.to

インドで売ってる「ハヤテ」の方は、経済性、信頼性を重視したザ・実用車でございます。

しかし「疾風」の方はというと、「隼」によく似たスタイル(同じメーカーで設計者も同じだから)の機体なんですけど、中身は完全に別物。非常に小型で高出力な新型エンジンを搭載し、速度も速くて運動性も良好という、「隼」や海軍の「零戦」を圧倒してたアメリカの大パワーな戦闘機たちに対抗できるというバランスの良い高性能機! バイクで言えば最新のリッタースーパースポーツ的な感じでしょうか。

というわけで太平洋戦争の終盤、すでに敗色濃厚だった日本で、「疾風」は戦局打開の切り札として期待を集めた!…んだけど。試作機はともかく、量産機では肝心な新型エンジンのパワーが出ずに、期待されたような活躍はできなかったんだけどね(小声)。

画像3: スズキは日本語車名のバイクを世界各地で展開する

ま、そんなことはスズキのマーケティング部門の人は1ミリも考えちゃいないでしょう。「ハヤテ」に興味を示すインドの人々も、スタイルや価格や燃費や使い勝手は気になるだろうけど、70年以上前の日本のヒコーキのことなんて知りやしません。

「ハヤテ」も「ハヤブサ」も日本的イメージと語感の良さで選択されたんだろうなぁ、それが当たり前の感覚。でも、今の実用車じゃなくて、「ハヤテ」という名の本格的なスポーツバイクが出たらどんなんだろう? という妄想をしてしまう残暑の午後なのでした。

文:小松信夫

スズキ「ハヤテEP」の主なスペック

全長×全幅×全高2025×740×1060mm
ホイールベース1305mm
シート高795mm
車両重量107kg
エンジン形式空冷4ストOHC2バルブ単気筒
総排気量113cc
最高出力8.6bhp/7500rpm
最大トルク9.3Nm/5000rpm
燃料タンク容量10L
変速機形式4速リターン
タイヤサイズ(前・後)70/100-17・80/100-17
ブレーキ形式(前・後)ドラム・ドラム

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