角Zエンジン+FIを17インチ用独自フレームに搭載
ACサンクチュアリーが手がけるオーダーコンプリートカスタム、RCM(リアル・コンプリート・マシン)。
その多くがカワサキ空冷Z系であることから、「空冷Zはどこまでのポテンシャルを秘めているか」と旧車やカスタムファンの抱く期待を確かめたい。そして、車両にも大きな負担がかかるレースという場で何が起こるかを確認し、その結果を車両製作やパーツの開発・製作に反映したい。こうした観点からサンクチュアリーはZレーサー1号機、2号機、New1号機という3台によって、2002年からかなりの期間、TOT=テイスト・オブ・ツクバへの参戦も行ってきた。
そしてしばしの休止の後に2019年11月10日開催“TOT KAGURADUKI STAGE”に向けて製作されたのがこの“Zレーサー3号機”だ。
RCMを製作する中で車体は前後17インチタイヤ化に最適化するべくフレームを補強/ワイドオフセット加工し、ステム(フォークオフセット量やスパン)/スイングアーム(垂れ角や長さ)等でディメンション変更と最適化を行ってきた。各部パーツも対策品に始まって専用品を製作していく中で、ひとつ残ったパーツが、フレームだった。17インチ最適ディメンションを持ち、ヘッドパイプに大容量ベアリングを使うことで高負荷にも対応する…。
そのフレームをアメリカのRCM USAで製作し、KZ1000エンジンを載せ、フューエルインジェクションで動かす。それをサンクチュアリーでモディファイした上で販売する。
それがRCM-USA A16だった。そのフレーム=1R9Sを使って、3号機は仕立てられた。クラスはTOT最高峰で現在は何でもあり状態のハーキュリーズに混走となる、スーパーモンスターエボリューションクラス。1982年まで生産の4スト3~6気筒、鉄フレームでツインショックというモンスターエボリューションに準じたクラスで、モンエボで禁じられる国際級ライダーによるエントリーも可。空冷Zでの最速を狙うならここだ。
積まれるエンジンは、もちろんZ系。クランクケースはKZ1000だが、中身はすべてJ系に置き換わっている。これはJ系のラバーでなくリジッドマウントとするためだ。シリンダーヘッドは多球型燃焼室を持つGPz1100をツインプラグ加工し、カムはウエブ435。クランクはGPzでピストンは今後のデータ収集用に、アニーズ製ゼファー1100用φ77mmのトップ部を加工し、圧縮比13:1で排気量は1229cc。合わせてケース側もカムチェーンスライダー部加工等を行う。これで145~150psを狙い、実測でも147psをマークした。
ライダーは同クラスのレコードホルダー、國川浩道選手。ハーキュリーズのレコード(当時)にわずか0.37秒遅れの58秒447というタイムを空冷Zでマークしたライダーが走らせれば、そのタイム域でのマシンの真価、限界値も分かる(実際に國川選手は「レースはストリートの10倍の負担がかかる」と言っている)。そう考えての起用でもあった。
果たして迎えた当日、予選時はクラッチトラブルに見舞われながらも午後の決勝に向けて修復。その決勝では見事なホールショットからクラス優勝。ベストラップは58秒664と、空冷でのツクバレコードにあと0.217秒にまで迫った。
「車両側は今考えられる空冷Zの限界まで作り込んでいますが、エンジン側のスリッパークラッチの追加など、まだやれることはあるようです。ライダー國川浩道選手はレコード更新も可能と言ってくれてますし、あと少し頑張ってみようかと」。ACサンクチュアリー代表の中村さんは言う。
ちなみにこの3号機ではサンクチュアリー新作のトロコイド式オイルポンプも組まれていたが、全開の58秒ラップ連続でも油温/油圧とも安定化でき、レース後に開けたエンジンの状態も良好。この結果を受けて市販に移されたのだが、評価も高いという。
空冷最強・最速を目指したサンクチュアリー・Zレーサー3号機。単にレースの結果やタイムというだけでなく、カスタムマシンの延長としての各部の作り。そして市販パーツへのフィードバックなど、複数の視点から眺める興味は尽きない。
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