800cc化されて2シーズン目を迎えようとしているモトGPでは、ホンダの採用により、日本製4車がニューマチックバルブに足並みを揃えた。この技術の流れをリードし、いち早く実戦投入したのはスズキだった。そして、800cc初年度には、前年型の排気量を縮小したといえるマシーンでついに優勝。ターニングポイントにおける先進と抑制のバランスが見事である。

Photos:Teruyuki Hirano

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ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン

画像1: ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン

エンジンは75度V型4気筒。シリンダー挟み角は2005年型よりも10度大きくなっている。クランク軸の中心は、クランクケースカバー側面に張られたエンジンナンバー“XRE4E6005”の最初のEと次の4の間あたりのステッカー下縁あたりにあり、同歯数のドライブ/ドリブンギアを介して(等速逆回転で)前方にあるバランサー軸を駆動しているものと思われる。

画像2: ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン

バランサー軸端はオイルシールを貫通して露出。スズキのマシーンらしさを感じるエンジン右サイド。オイルパンは、内容積を稼ぎつつ底部を細く絞った形状に変化している。内部に設けられているであろうバッフルプレートと合わせ、モトGPマシーンの強烈な加減速による油面の変位に対処するのがその狙いだろう。

画像3: ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン

クランク軸あたりの右側面にMFバッテリー、その上方にレクチファイア/ボルテージレギュレーターが見える。エンジンハンガーよりも前輪寄りの上部にラジエター、下部にオイルクーラーをマウントしている。

画像: エンジンハンガーとラジエターの間のわずかなすきまから見たシリンダーヘッドとヘッドカバー。どちらもアルミ鋳造パーツである。

エンジンハンガーとラジエターの間のわずかなすきまから見たシリンダーヘッドとヘッドカバー。どちらもアルミ鋳造パーツである。

画像: フレーム左側面の穴からのぞいたところ。左下に見えるシルバーの部分がシリンダーヘッドで、右側のゴールドに見える部分は、前後シリンダーヘッド間にまたがる吸気エアボックスの土台。幾何学模様は“設計者の趣味”とのこと。軽量化を図りつつ剛性を落とさないための手法だろうか。この部分もエアボックスの一部となっており、空気が通らないよう、シリンダーヘッドに密着して取り付けられている。

フレーム左側面の穴からのぞいたところ。左下に見えるシルバーの部分がシリンダーヘッドで、右側のゴールドに見える部分は、前後シリンダーヘッド間にまたがる吸気エアボックスの土台。幾何学模様は“設計者の趣味”とのこと。軽量化を図りつつ剛性を落とさないための手法だろうか。この部分もエアボックスの一部となっており、空気が通らないよう、シリンダーヘッドに密着して取り付けられている。

画像: フレーム右側面の穴の内部は、レクチファイア/ボルテージレギュレーターが邪魔をして見づらいが、わずかに見えるシリンダーヘッド/ヘッドカバーの形状により、右側にカムシャフトのドライブトレインがあることがわかる。さらに、シリンダーヘッド/ヘッドカバーの合わせ面が気筒中心線に対して傾いて(前下がりになって)いることから、吸気ポートをできるだけ直線的にするために、排気側カムシャフトよりも吸気側カムシャフトを高い位置に置いていると推察できる。

フレーム右側面の穴の内部は、レクチファイア/ボルテージレギュレーターが邪魔をして見づらいが、わずかに見えるシリンダーヘッド/ヘッドカバーの形状により、右側にカムシャフトのドライブトレインがあることがわかる。さらに、シリンダーヘッド/ヘッドカバーの合わせ面が気筒中心線に対して傾いて(前下がりになって)いることから、吸気ポートをできるだけ直線的にするために、排気側カムシャフトよりも吸気側カムシャフトを高い位置に置いていると推察できる。

画像: エンジン右側前方の眺めは複雑だ。ラジエターの下にあるオイルクーラーへの配管は、カートリッジ式オイルフィルターの基部から出ており、オイルポンプからクランクケース内を通って圧送されたオイルは、まずオイルクーラーに入り、そこから戻った後にフィルターを通過してエンジン各部に向かっているものと思われる。注目すべきは、2本のエグゾーストパイプに取り付けられたO2センサーからの信号線カプラーの上部にある黒いプラグ(上下2本のボルトで固定)だ。何らかの軸加工をした跡なのは明らかで、ちょうどクランクケースの上下分割面にあり、ここを中心とする円形の張り出しが見えることから、こちら側にもバランサーが存在するのではないかと想像できる。

エンジン右側前方の眺めは複雑だ。ラジエターの下にあるオイルクーラーへの配管は、カートリッジ式オイルフィルターの基部から出ており、オイルポンプからクランクケース内を通って圧送されたオイルは、まずオイルクーラーに入り、そこから戻った後にフィルターを通過してエンジン各部に向かっているものと思われる。注目すべきは、2本のエグゾーストパイプに取り付けられたO2センサーからの信号線カプラーの上部にある黒いプラグ(上下2本のボルトで固定)だ。何らかの軸加工をした跡なのは明らかで、ちょうどクランクケースの上下分割面にあり、ここを中心とする円形の張り出しが見えることから、こちら側にもバランサーが存在するのではないかと想像できる。

画像: 限られたスペースの中で放熱効果を高めるためにラウンド形状のラジエターを使うのは、今やレーシングマシーンの常識となっている。そのうえで、少しでも多く前輪分布荷重を稼ぐべく、シリンダーヘッドとラジエターのすきまをギリギリまで詰めたマシーンが多いのに対し、GSV-Rは比較的余裕がある。前輪分布荷重の増大よりも、排気ポート直後のエキパイの曲がりを緩やかにするのを優先した結果か。

限られたスペースの中で放熱効果を高めるためにラウンド形状のラジエターを使うのは、今やレーシングマシーンの常識となっている。そのうえで、少しでも多く前輪分布荷重を稼ぐべく、シリンダーヘッドとラジエターのすきまをギリギリまで詰めたマシーンが多いのに対し、GSV-Rは比較的余裕がある。前輪分布荷重の増大よりも、排気ポート直後のエキパイの曲がりを緩やかにするのを優先した結果か。

画像: フューエルタンクを外すと、後ろ側バンクのシリンダーヘッド上部が見える。白っぽい樹脂を封入した2個の円筒形がダイレクトイグニッション(各気筒のスパークプラグにイグニッションコイルを直付けした方式)のコイルの一部であり、これにより、おおよそのシリンダー間隔がわかる。青アルマイトのアルミ製フィッティングパーツを多用した配管は、フューエルタンク〜ポンプ〜インジェクターを結ぶ燃料ライン。ジョイントにはクイックリリースタイプを使用している。

フューエルタンクを外すと、後ろ側バンクのシリンダーヘッド上部が見える。白っぽい樹脂を封入した2個の円筒形がダイレクトイグニッション(各気筒のスパークプラグにイグニッションコイルを直付けした方式)のコイルの一部であり、これにより、おおよそのシリンダー間隔がわかる。青アルマイトのアルミ製フィッティングパーツを多用した配管は、フューエルタンク〜ポンプ〜インジェクターを結ぶ燃料ライン。ジョイントにはクイックリリースタイプを使用している。

画像4: ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン

エンジン左側のバランサー軸端に設けられたスターター装着部。軸の上下にある丸穴でスターター本体を固定し、軸端のインボリュートスプラインにスターターの出力軸を噛み合わせ、クランキングする。

画像5: ニューマチックバルブスプリングを採用し、シリンダー挟み角を広げたエンジン
画像: ドライブスプロケット/クラッチレリーズシリンダー/ギアポジションセンサー/シフトシャフトそれぞれの位置関係がよくわかるカットである。2005年型まではクラッチレリーズシリンダーの下部に機械式フューエルポンプがあったが、このモデルでは上部に移設された。

ドライブスプロケット/クラッチレリーズシリンダー/ギアポジションセンサー/シフトシャフトそれぞれの位置関係がよくわかるカットである。2005年型まではクラッチレリーズシリンダーの下部に機械式フューエルポンプがあったが、このモデルでは上部に移設された。

SUZUKI GSV-R(2006)<No.03>へ続く

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