二輪ジャーナリスト柏 秀樹氏が常々疑問を感じていることを考察する好評連載「柏秀樹持論」。今回は、「レバーは鉄製の方がいいんじゃないか?」という持論です。ぜひ一緒に考えてみましょう!

鉄ではダメかい?「無事に家に帰れる性能」を考える

さてここでやっと核心の話に入ろう。

その核心とはレバーの材質。通常のレバーはアルミ製。最高純度のアルミ材なら曲がっても元の形状にもどすことがある程度可能かもしれないが、そんなものと出会ったことがない。おそらく存在しない。

一般的なアルミ製レバーは形状を元に戻すのは難しいし、戻す途中でポキッと折れるのが普通。加熱などをしながらでも元の形状に戻すには限度がある。

画像: 折れてしまったブレーキレバー

折れてしまったブレーキレバー

だが、もしもレバーが鉄製でできていたらどうだろうか。

アルミ製よりも転倒時にポキッと折れる確率は少ないし、アルミ製よりは曲がりを元に戻せるだろう。だから、無事に帰らなければならないツーリングには適している。

ただし鉄製のレバーで転倒実験や補修実験をしたことがないから、あくまでも憶測の範囲だ。でもきっとこの憶測は大きく外れないだろう。

鉄製には鉄製のネガはきっとある。重量的にはアルミよりも重い。重いけどレバー2本ぐらいの話では誤差にもならない程度。アルミ製のように相応の表面処理をしていないとグローブが汚れるだろう。

鉄だと処理によってサビが出るかもしれないから鉄製ならでは処理は必要になるだろう。ともあれ何度も転倒させるビギナーやオフロードの練習では鉄製レバーの存在理由は大きいのではないか。

ではなぜバイクメーカーはそれをやらないか?

考えられる1つ目は、最初からそんな発想がない、ということ。

2つ目は発想があってもニーズがなさそうだからやらない。

無事に家に帰るコンセプトなら足元のステップやブレーキペダルやチェンジペダルはどうだろうか。これについては大型バイクは多くはアルミ製。中型以下のサイズだと鉄製もある、という感じ。

画像: 低速での転倒により、押し付けられてしまったチェンジペダル

低速での転倒により、押し付けられてしまったチェンジペダル

過去にバイク雑誌の撮影やツーリング中に何度も見たことがあるのがタチゴケ程度の転倒でもステップがポロリ。ブレーキペダルがポキッというパターン。ステップだけではなくステップを支えるステーが折れてしまう例もある。

これでは足が載せられないから手元のレバーに劣らぬほど不便になる。なので私としてはステップとペダル周りは鉄製で良いのではないか、と思うわけ。

1gでも軽いのが是とされるハイパフォーンス系バイクだけがアルミでもジュラルミンでもチタンでもやれば良い。

それ以外は鉄製のステップ&ペダルにするのはどうか。あるいは鉄製ステップ&レバー装備の仕様もあって良いのではないか。

ということでレバー類やステップやペダル類は折れにくい、曲がっても戻しやすい=無事に帰宅できるバイク優先のバイク作りにならないか。

画像: 割れてしまったウインカーのレンズ。接着剤で一時的に固定している

割れてしまったウインカーのレンズ。接着剤で一時的に固定している

これに付随するのがウインカー。ちょっと倒しただけでウインカー本体やレンズが割れてしまうし、場合によってウインカーを支えるステーに応力がかかってカウルまでベッコリ割れてしまう例が非常に多い。

軽度の転倒ぐらいで大変な出費になるし、そもそもウインカーが壊れて点滅しないことには公道走行できないから家に帰れなくなるし、何よりも大事なバイクがそんなことになって精神的にショックを受けてしまう。

ウインカー、レバー、ステップの3点セットで破損という例も多い。ハイスピードクラッシュならわかるけれど低速域での転倒でさえ。

だから「無事に家に帰れる性能」こそとても重要と思うのだが、いかがだろうか。バイクの開発側は、それって地味な機能だから売り上げに直結しない、と読んでいるのか不明だが、当たらずといえど遠からず、のことか。

やはりどうしても開発の優先順位にならない。まずは見た目の格好良さ、なんだろう。

壊れにくいバイク、無事に帰れるバイクは安全安心の大事な礎になること。

腕が良い開発ライダーやバリバリのデザイナーや図面を描く設計者にとって、この問題は些細なことなのかな。技術的には簡単なこと。

あとは視点を変えて、鉄の魅力が実感できるデザインやアピール方法が問われても良いのではないか。

文:柏 秀樹

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画像: ナイケン初乗時にちょっとだけグルグル周りの巻 www.youtube.com

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柏 秀樹 プロフィール

大学院生(商学研究課博士課程)の時代に、作家片岡義男氏とバイクサウンドを収録した「W1ツーリング~風を切り裂きバイクは走る~」を共同製作。大学院修了後にフリーのジャーナリストとして独立。以降、ダカールラリーを始めとする世界中のラリーを楽しみながら、バイク専門誌の執筆活動や全国各地でトークショー出演などを行っている。

バイク遍歴60台以上、総走行距離100万キロ以上、そして日本中の主要ワインディングロード、林道のほか世界の道を走ってきた経験をもとに2003年に始めたライディング・アート・スクールをリニューアルして2009年から新たにKRSこと柏 秀樹ライディング・スクールを開校。バイクやクルマの安全と楽しさを一人でも多くの人に熱く伝えることを生き甲斐にしている。

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