弾けた性格で突き進むか、意外な包容力に身を任せるか
あのドゥカティの素っ頓狂マシン「ハイパーモタード」が大幅マイナーチェンジ。扱いやすくなったとは言うが、ハイパーだけに素直に頷けない。真相を確かめにスペインへ飛んだ。
ソレに乗ってるだけで「スゲー奴!!」「ドカのハイパーに乗っている」ってだけで、あ、この人スゲー、キレてンな……と羨望や畏怖をもたらしてしまうバイク、それがハイパーモタード。他にも確かにそういう車種はある。だけれどそれは性能に裏付けされるものであったり、価格であったりと、視線や注目を集めている理由が違う。初期型からその過激な特性がファンを集め、乗る者を驚かせ、畏怖させ、感動させ、そして乗らない者にとってはますますそのジャジャ馬っぷりが伝説化していったと言える。スペック的には度肝を抜くほどのものではないにもかかわらず、これだけの立ち位置を確立しているバイクも珍しい。
初期の空冷モデル、そしてツーリング仕様のハイパーストラーダなども試乗経験があり、その過激さや魅力を体験していた僕に「新型に乗っておいで」と言ってもらえ「やった!」の気持ちと「ハイパーっすかぁ!?」の気持ちが同居した。新型もパッと乗った瞬間に「これはヤバい!」と感じることは間違いないのだけれど、あの激しいバイクの新型を理解し、評価することが僕にできるカシラ……。
でも「いや結構です」というわけもない。これまで以上にハイパーらしさを追求しつつ、ユーザーフレンドリーになった部分もあるという新型の試乗地に選ばれたのはスペインのグランカナリア島。山の中には延々と続く細かなワインディングがあるが、まずはSPをサーキットで試乗することに。ようし、これは気合を入れていかなければハイパーに喰われてしまう。前の晩には血の滴る大きなステーキを食べて、自分の中のエネルギー及び攻撃的な気持ち(?)を高めて臨んだ。
押し上げられた限界と歩み寄ったトルク
「ウッ! は、速イッ!!」ジャジャ馬ハイパーでもサーキットという閉鎖空間ならば手なずけるのは難しくないんじゃないかと思っていたのは思い違い。背は高いもののスリムで凝縮されたその姿だから、つい忘れがちだけれど、これは1000ccクラスのVツイン。サーキット試乗用に用意されたSPには一本出しのレース用マフラーが装着され、保安部品が外されたこともあってさらに軽量になり、そしてハイグリップタイヤを履いていたおかげでパワーを余すことなく開放できる仕様だ。
エンジンの速さはピカイチで、アクセル全開のままオートシフターでシフトアップしていくと本当に息つく暇もなく次のコーナーがグングン迫ってくる。一方でポジションがモタードらしく身体が起きていて、かつ着座位置も高いから、最初はバイクとの一体感をどう得て良いのかつかめない場面もあった。小排気量モタードなら股の間で遊ばせるようなイメージだけれど、これはパワーがありすぎでそうもいかない。シートとハンドルがかなり近いコンパクトなポジションであるがゆえ、強烈な加減速時にやっぱりちゃんとニーグリップして車体を抑え込まないと振り落されてしまう。
ハンドリングそのものは素直で好印象、特にサスのグレードが高まっているのは誰でも感じられるだろう。しっとりと路面を捉えコーナリング中に暴れるだとか滑るだとかそういった不安は一度もなかった。一方でストロークがあるがゆえブレーキはイメージするよりは少し制動距離が伸びる印象もあり、モタードらしくリアブレーキも併用した方が良かった。とはいえ実力は間違いなく、乗り方をうまく合わせ込むことができれば短めのコースなら相当コンペティティブだろう。
攻め込んだ時の速さやエキサイティングさは夢中になれるハイパーらしい魅力はかわらず持っている。それでいてもう一つ高いギアで走行会をイメージしたペースで走ってもこれが気持ちよかったのが意外だ。低速トルクが増強されたことで、キンキンに攻め込まなくてもスムーズで速い走りが可能だったのだ。よりハイレベルな走りを追求したモデルチェンジである一方、親しみやすくなった部分も確かにあったハイパーSP。限界を高めると同時に間口も広がったと言えるモデルチェンジだろう。
文:ノア・セレン
軽量化と上級サス採用で更なる高みへ
従来モデルでも存在したSPは今回も継続ラインナップ。ワンランク上のスポーツ性を求めるライダーに向けて、前後にストロークを増したことでバンク角も深く設定されたフルアジャスタブルのオーリンズサスの装着、アップ・ダウン双方に使えるクイックシフターの純正採用、そしてマルケジーニの鍛造ホイールを採用するほか、専用グラフィックでさらにスポーティなイメージを実現している。
なお、よりフラットなシートも採用したことでスポーツライディング時の自由度が増し、従来型よりも積極的にスライド等のモタードアクションをしやすいよう設定されている。これだけハイパフォーマンスでありながら、バルブクリアランスの点検・調整などのエンジンメンテサイクルが3万キロ毎というのも特徴だ。