まとめ:ヨ(webオートバイ編集部)
▶▶▶写真はこちら|同じマシンに乗ればM.マルケスと互角? のペドロ・アコスタ(画像9枚)
限界を極めた中での500rpm
MotoGP第15戦オーストリアGPでは、ペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Factory.Racing)が優勝した。KTMにとっては久しぶりの優勝だ。経営的にゴタゴタし、音を立てて崩れそうな時期もあったが、よくここまで立て直したものである。
今シーズンも、第6戦カタルニアGPではアコスタが急に失速し、アレックス・マルケス(BK8 Gresini Racing MotoGP)が避けきれずに追突するという大クラッシュが発生した。あのあたりからエンジンのバルブに問題があったようで、アコスタの失速もバルブのトラブルが原因だったようだ。
しかし、エンジン開発が凍結されている今のMotoGPでは、エンジンを開けることができない。KTMはやむなくレブリミットを500rpm下げざるを得なかった。「えっ? たった500rpm!? そんなので影響するの?」とお思いのアナタ。影響、大アリです。限界を極めた中での500rpmは、とんでもなくデカい。

KTM勢の中で頭ひとつ抜けた走りを見せ続けるペドロ・アコスタ選手。
ワタシがスズキのMotoGPマシンの開発ライダーを務めていた頃、V型4気筒エンジンがどうしても壊れてしまう事態が発生し、レブリミットを(確か)500rpm下げたことがある。これがもう、加速力がものすごく下がってしまうのだ。ライダーとしては「別モノエンジン」と評価したくなるほどの差だった。
たかが500rpm、されど500rpm。KTMとしても、いつまでも500rpmダウンでは勝負にならない。夏休み前にはバルブが原因と突き止めていたようだが、KTMはコンセッション(開発の優遇措置)が適用されないので、エンジン仕様を変えることができない。「どうにかエンジンを開けさせてくれ」と頼み込んだが、「絶対ダメ」と拒否されていた。
しかし、カタルニアGPのような大クラッシュがまた起こらないとは限らない。リスクを避ける意味で、特例としてバルブの素材変更が許されたようだ。サマーブレイク後に新バルブが投入され、500rpmの足かせもなくなり、徐々に上向きになった、ということのようだ。

マルク・マルケスを超える存在になり得るか
バルブにプラスして、オーストリアGPではタイヤのアロケーション(割り当て)も有利に働いた。暑さが厳しいサーキットにおいては、ミシュランは構造が異なるリアタイヤを持ち込む。そのサーキットが、ブリラム(タイ)、フィリップアイランド(オーストラリア)、そしてレッドブルリンク(オーストリア)。ざっくり言えば硬めの構造なのだが、これがKTMに合っていた。
KTM・RC16は、MotoGPマシンの中ではフロントまわりの剛性が弱い。もっともヘナヘナと言っていいだろう。あくまでも「MotoGPマシンとしては」という但し書き付きだが、フロント頼みのハードブレーキングはやりにくいはずだ。
そこでリアをスライドさせ、その摩擦を減速に生かすという独特なテクニックが要求される。そういう特性のマシンだから、硬めのリアタイヤがマッチしたのだ。ブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)もまずまず好調だったから、マシンがうまく機能していたことは間違いない。
それにしても、レッドブルがメインスポンサーにしているKTMが、レッドブルリンクで優勝するとは……。しかもKTMを傘下に収めたインドの二輪車メーカー・バジャージのCFO(最高財務責任者)、ディネシュ・タパーさんが視察している目の前で……。できすぎとしか言いようがない。

個人的な見解としては、「よくぞあのマシンで勝てたものだ」と、アコスタの実力に感服した。バルブの仕様を変えても、リアタイヤがマッチしても、KTMのパフォーマンスは決して高いとは言えない。アコスタの力があってこその勝利だろう。

彼が特に優れているのは、ブレーキコントロールだ。ハードブレーキングをしながらも、繊細にブレーキを操作して車速を絶妙にコントロールできる。来年、ドゥカティに移籍したら、彼本来の持ち味をさらに生かせるようになるはず。チームメイトになるマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)を超えるのではないか、と期待したくなる。
パーソナリティも面白い。行動や発言がなんとも動物的というか、我が道を行くというか、野生味たっぷりというか、人類の1歩手前というか、とにかくワイルド。次世代MotoGPの牽引役であることは間違いなく、いろんな意味で楽しみな人材だ。

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