監修:青木宣篤 まとめ:高橋 剛 写真:FIM EWC
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素晴らしい舗装技術には「よすぎる」というワナがある
MotoGPはシーズン後半の佳境に入ろうというタイミングではあるが、今更ながら鈴鹿8耐について振り返ってみたいと思う。今年の鈴鹿8耐は、「セーフティカー導入のままレースが終わってしまい、つまんなかった(意訳)」という意見を含め、賛否両論あったようだが、ワタシとしては本件を舗装から解き明かしていきたい。
鈴鹿サーキットは、昨年に東コースの、そして今冬に西コースの舗装が新しくなった。ドライでの路面グリップは確実に向上したのだが、あちこちにワナが仕掛けられたのも確かだ。そして今年の鈴鹿8耐は、その「舗装のワナ」をいかにかいくぐるかが大きなカギだった。
これまで、デグナーの1コめや最終コーナーには、大きなギャップがあった。ここでは最終コーナーのギャップに絞って話を進めてみたい。最後の日立アステモシケインを立ち上がった先、最終コーナーに差しかかってから存在していた大きなギャップは、まさに目の上のたんこぶだった。本来ならスロットルを全開にしたい場面なのだが、ギャップを避けるためにややためらいがちに開け、コース幅2/3程度までで立ち上がっていた。
新たな舗装では、このギャップがキレイになくなっていた。するとどうなるか。ライダーは「よっしゃ!」とためらいなくスロットルを全開にし、コース幅をめいっぱい使うようになる。今までとは感覚が違うので、つい芝生まで出てしまう。「あっ、思ったよりスピード出てた!」と、転倒し、ストレートまで転がっていく……。そんなシーンも見られた。

気持ちよく開けていけるだけに、これまでとの感覚のズレもあったのかも。写真はレースウィーク金曜日で、まだ晴れていた。
ギャップの有無などは、割とすぐに慣れやすいことではあるし、実際、最終コーナーでの転倒もフリープラクティスでこそ何度か見られたものの、みんなすぐにバチッと開けての立ち上がりをモノにしていた。しかしこれは「新しい舗装がイイとは限らない」という好例なのである。
新しい舗装はスムーズで、基本的にグリップが高まり、タイムも向上する。「じゃあいいじゃん」と言いたくなるのだが、話はそんなに簡単じゃない。ライダーからは「舗装、よすぎるから!」というコンプレインも出てくるのだ。理由はいくつかある。
ひとつは、舗装がスムーズだとスライドがなかなか止まらない、という点だ。ライダーはもちろん自分の右手でスライドコントロールしているのだが、これはあくまでもタイヤが路面にどう食いつくか、という現象である。そして路面が滑らかであればあるほど、いったん滑り出すとそれが収束するきっかけを得にくい。ガラスのように平滑な面を想像してもらえれば、「滑り出したら滑りっぱなし」のイメージがつくだろう。路面には多少のラフさがあった方が、そこを取っかかりにしてスライドを収めやすいのだ。
もうひとつは、転倒時のダメージが大きいことだ。舗装状態がいいと、コーナリングスピードが上がる。荷重がかかり、サスペンションの沈み込み量も増える。そうなりすぎないようびセッティング等を施したとしても、荷重が高まることは間違いなく、それだけバネは強い反発エネルギーを蓄えていることになる。そして転倒などでそれが解放された時、とんでもなく滑ったり、とんでもなく跳ね飛ばされたりといったことが起こるのだ。今年の鈴鹿8耐でも今まで見たことがないような転び方や縦回転が見られたが、あれも新舗装の弊害と言える。
最高グレードの舗装も、水はけにはやや難
そしてもうひとつ大きなカギとなったのが、ウエットコンディションである。新しい舗装になり、普通にサラッと濡れている分には、グリップ力は高かった。ウエット路面での2分16秒台は、今までより2秒ほども速い。かなりのレベルアップで、こうなるとライダーは今までの感覚を捨てて、「エイヤ!」と歯を食いしばって行くしかない。そして、行ったら行ったで、ドライと同じように滑り出したら止まらない状態だったようだ。
新しい舗装は油分が残っていて、特にウエットではグリップしにくい、などと言われるが、鈴鹿8耐では確実にタイムが向上していたから、油分はさほどの問題ではなかっただろう。ワタシが着目したのは、アスファルトの肌理(キメ)だ。今までの鈴鹿サーキットやモビリティリゾートもてぎの路面は、若干キメが粗かった。例えるなら、ミカンネットのような感じ。ネットの隙間にゴムが食い込んでグリップする、というイメージだ。排水性も高かった。しかし今回の路面は、キメがかなり細かかった。従来のみかんネットに対して、キメ細やかな食器洗い用スポンジの滑らか面、という感じで、言ってみればツルツルだったのだ。

素晴らしく平滑な路面だが、それゆえの難しさもある。
鈴鹿やもてぎのアスファルトはNIPPO(日本舗装)が張っているのだが、ハイスピードなサーキットということもあり、常に最高グレードの舗装を施している。今回も平滑さという意味では本当に素晴らしい仕事なのだが、ウエットでの水はけにはやや難があったようだ。今までの感覚では「セーフティカーを入れるほどの雨量じゃないよね」という状況でも、路面に雨水が残りがちだったのだ。
というわけで、冒頭のセーフティカー導入に関する賛否の件、ワタシとしては安全面を考慮するとやむなし、という見解である。セーフティカーのタイミングによって勝敗が決まってしまうのは、確かにいろいろ言いたくなる部分もあるだろうが、それもレースの一要素であり、勝ちは勝ち、負けは負けだ。それよりも、今年の鈴鹿8耐がライダーを無闇に危険にさらさないライダーファーストのレースだったことを、ワタシは評価したい。ライダーは使い捨てではないのだ。
そういう意味では、例年より1ヶ月繰り上げられた開催日も、ワタシとしては賛成である。実際、7月末はとんでもない猛暑に見舞われ、あの暑さの中でライダーが革製のレーシングスーツを着用し、高温を発するエンジンを抱きかかえるようにして走るなど、もはや無謀だっただろう。やはりできるだけライダーの安全性を確保したうえでレースするというライダーファーストの姿勢は、非常に重要だと思う。
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