1993年から世界グランプリに参戦し、2ストローク250cc・V型2気筒から500cc・V型4気筒/V型3気筒、そして4ストロークMotoGPではV型5気筒、V型4気筒、直列4気筒と数多くのマシンを走らせ、開発に携わってきた青木宣篤さん。「アオキ・マニアック・レーシング」と題した当連載では、その名の通りマニアックな視点でグランプリの過去と現在を解き明かす。第3回は鈴鹿8耐の波乱劇を呼んだ要因を解明していく。

監修:青木宣篤 まとめ:高橋 剛 写真:FIM EWC
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素晴らしい舗装技術には「よすぎる」というワナがある

MotoGPはシーズン後半の佳境に入ろうというタイミングではあるが、今更ながら鈴鹿8耐について振り返ってみたいと思う。今年の鈴鹿8耐は、「セーフティカー導入のままレースが終わってしまい、つまんなかった(意訳)」という意見を含め、賛否両論あったようだが、ワタシとしては本件を舗装から解き明かしていきたい。

鈴鹿サーキットは、昨年に東コースの、そして今冬に西コースの舗装が新しくなった。ドライでの路面グリップは確実に向上したのだが、あちこちにワナが仕掛けられたのも確かだ。そして今年の鈴鹿8耐は、その「舗装のワナ」をいかにかいくぐるかが大きなカギだった。

これまで、デグナーの1コめや最終コーナーには、大きなギャップがあった。ここでは最終コーナーのギャップに絞って話を進めてみたい。最後の日立アステモシケインを立ち上がった先、最終コーナーに差しかかってから存在していた大きなギャップは、まさに目の上のたんこぶだった。本来ならスロットルを全開にしたい場面なのだが、ギャップを避けるためにややためらいがちに開け、コース幅2/3程度までで立ち上がっていた。

新たな舗装では、このギャップがキレイになくなっていた。するとどうなるか。ライダーは「よっしゃ!」とためらいなくスロットルを全開にし、コース幅をめいっぱい使うようになる。今までとは感覚が違うので、つい芝生まで出てしまう。「あっ、思ったよりスピード出てた!」と、転倒し、ストレートまで転がっていく……。そんなシーンも見られた。

画像: 気持ちよく開けていけるだけに、これまでとの感覚のズレもあったのかも。写真はレースウィーク金曜日で、まだ晴れていた。

気持ちよく開けていけるだけに、これまでとの感覚のズレもあったのかも。写真はレースウィーク金曜日で、まだ晴れていた。

ギャップの有無などは、割とすぐに慣れやすいことではあるし、実際、最終コーナーでの転倒もフリープラクティスでこそ何度か見られたものの、みんなすぐにバチッと開けての立ち上がりをモノにしていた。しかしこれは「新しい舗装がイイとは限らない」という好例なのである。

新しい舗装はスムーズで、基本的にグリップが高まり、タイムも向上する。「じゃあいいじゃん」と言いたくなるのだが、話はそんなに簡単じゃない。ライダーからは「舗装、よすぎるから!」というコンプレインも出てくるのだ。理由はいくつかある。

ひとつは、舗装がスムーズだとスライドがなかなか止まらない、という点だ。ライダーはもちろん自分の右手でスライドコントロールしているのだが、これはあくまでもタイヤが路面にどう食いつくか、という現象である。そして路面が滑らかであればあるほど、いったん滑り出すとそれが収束するきっかけを得にくい。ガラスのように平滑な面を想像してもらえれば、「滑り出したら滑りっぱなし」のイメージがつくだろう。路面には多少のラフさがあった方が、そこを取っかかりにしてスライドを収めやすいのだ。

もうひとつは、転倒時のダメージが大きいことだ。舗装状態がいいと、コーナリングスピードが上がる。荷重がかかり、サスペンションの沈み込み量も増える。そうなりすぎないようびセッティング等を施したとしても、荷重が高まることは間違いなく、それだけバネは強い反発エネルギーを蓄えていることになる。そして転倒などでそれが解放された時、とんでもなく滑ったり、とんでもなく跳ね飛ばされたりといったことが起こるのだ。今年の鈴鹿8耐でも今まで見たことがないような転び方や縦回転が見られたが、あれも新舗装の弊害と言える。

最高グレードの舗装も、水はけにはやや難

そしてもうひとつ大きなカギとなったのが、ウエットコンディションである。新しい舗装になり、普通にサラッと濡れている分には、グリップ力は高かった。ウエット路面での2分16秒台は、今までより2秒ほども速い。かなりのレベルアップで、こうなるとライダーは今までの感覚を捨てて、「エイヤ!」と歯を食いしばって行くしかない。そして、行ったら行ったで、ドライと同じように滑り出したら止まらない状態だったようだ。

新しい舗装は油分が残っていて、特にウエットではグリップしにくい、などと言われるが、鈴鹿8耐では確実にタイムが向上していたから、油分はさほどの問題ではなかっただろう。ワタシが着目したのは、アスファルトの肌理(キメ)だ。今までの鈴鹿サーキットやモビリティリゾートもてぎの路面は、若干キメが粗かった。例えるなら、ミカンネットのような感じ。ネットの隙間にゴムが食い込んでグリップする、というイメージだ。排水性も高かった。しかし今回の路面は、キメがかなり細かかった。従来のみかんネットに対して、キメ細やかな食器洗い用スポンジの滑らか面、という感じで、言ってみればツルツルだったのだ。

画像: 素晴らしく平滑な路面だが、それゆえの難しさもある。

素晴らしく平滑な路面だが、それゆえの難しさもある。

鈴鹿やもてぎのアスファルトはNIPPO(日本舗装)が張っているのだが、ハイスピードなサーキットということもあり、常に最高グレードの舗装を施している。今回も平滑さという意味では本当に素晴らしい仕事なのだが、ウエットでの水はけにはやや難があったようだ。今までの感覚では「セーフティカーを入れるほどの雨量じゃないよね」という状況でも、路面に雨水が残りがちだったのだ。

というわけで、冒頭のセーフティカー導入に関する賛否の件、ワタシとしては安全面を考慮するとやむなし、という見解である。セーフティカーのタイミングによって勝敗が決まってしまうのは、確かにいろいろ言いたくなる部分もあるだろうが、それもレースの一要素であり、勝ちは勝ち、負けは負けだ。それよりも、今年の鈴鹿8耐がライダーを無闇に危険にさらさないライダーファーストのレースだったことを、ワタシは評価したい。ライダーは使い捨てではないのだ。

そういう意味では、例年より1ヶ月繰り上げられた開催日も、ワタシとしては賛成である。実際、7月末はとんでもない猛暑に見舞われ、あの暑さの中でライダーが革製のレーシングスーツを着用し、高温を発するエンジンを抱きかかえるようにして走るなど、もはや無謀だっただろう。やはりできるだけライダーの安全性を確保したうえでレースするというライダーファーストの姿勢は、非常に重要だと思う。

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