PHOTO:松川 忍 TEXT:ゴン川野
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「B+COM 7X」シリーズとは?

サイン・ハウス
B+COM 7X EVO/7X
価格:5万9400円/4万9500円
サイン・ハウスが8年ぶりにフルモデルチェンジした最新インカムシリーズ。独自の通信システムでシームレスなグループ通話を実現し、新設計スピーカーとマグネット式着脱システムを採用。通信・音質・使い勝手のすべてが大幅に進化している。
“走っていい音”を実現した「B+COM 7X」シリーズの音作り
──Q.そもそも「ライドオーディオ」とは?

サイン・ハウス
事業推進本部 企画部
利光 正大 氏
バイクで音楽を聴くという体験は、ホームオーディオやカーオーディオとは根本的に異なる。サイン・ハウスの利光氏が真っ先に指摘するのは〝ライダーは運転している〞という至極当然の事実だ。
「バイクはクルマ以上に運転タスクの負荷が大きい乗り物です。しかし同時に、ライダーはその運転そのものを楽しんでいます。身体全体でマシンを感じ取っており、そこには常に大きな走行騒音がつきまといます。この3点がライドオーディオにおける大きな特徴です(利光氏)」

『ライドオーディオ』 図解
しかもライダーにとって、エンジン音や排気音は単なる雑音(騒音)ではない。音楽を愉しみたい時にはしっかりと音の世界へ没入できること。その一方で、ひとたびライディングに意識を向ければ、心地よいエンジンや排気の鼓動も感じ取れること。この「音楽」と「バイク」を高次元で共存させることこそが、ライドオーディオにおける真の出発点なのだ。
──Q.走ると、どうして音楽が聴こえなくなるんですか?

パイオニア
グローバル技術開発統括本部 技術開発本部
岡田 佑介 氏
「やはり一番大きいのは走行騒音です」 パイオニア岡田氏は語る。実際に走行中の騒音を調べると、特に200ヘルツ付近の成分が大きく、さらに高い周波数まで広くノイズが存在することが分かった。高速道路ではヘルメットに当たる風切り音の影響も大きい。
ここで問題なのが、人間の聴覚の〝マスキング〞という現象だ。「同じ周波数帯に大きな音があると、本来聴きたい音が聴こえなくなります。実際に走って、どのぐらい音が埋もれているのかも加味しながら調整しました(岡田氏)」
高速道路に入った途端、それまで気持ちよく聴こえていた曲から低音やボーカルが消え、シャカシャカした音だけになってしまう。7Xシリーズは、この“走ると失われる音”をどう取り戻すかから音作りを始めたのである。
──ならば低音をガツンと上げればいいのでは?
「そこが単純なイコライザーとは違うところです(岡田氏)」イコライザーで低域を持ち上げれば、確かに低音の量は増える。しかし岡田氏によれば、補正量を増やすほど低音がぼやけたり、スピード感が失われたりする。
さらに低音だけを強くすれば、ボワボワとした、低域過多の気持ちよく聴けない音になってしまう。「走行騒音に負けないように全部をブーストすればいい、ということではありません。音のメリハリが重要なんです(岡田氏)」
そこで使われたのが、パイオニアが長年培ってきた音響信号処理技術である。
──Q.40㎜のスピーカーで、本当に低音が出せるんですか?
ヘルメットの中に巨大なスピーカーは入れられない。そこで7Xシリーズでは、小型スピーカーの限界を音響処理で補っている。「低音については大きく2つの補強技術を使っています(岡田氏)」

仮想低音増強技術イメージ
ひとつは人間の聴覚特性を利用して、スピーカーが物理的に再生しにくい低音まで感じられるようにする技術。

低音増強技術イメージ
そしてもうひとつが、低音のアタック感やメリハリを引き出す技術である。つまり、ドンドンと低音の「量」だけを増やすわけではない。バスドラムやベースが持つ押し出しや存在感を明確にすることで、小さなスピーカーでも低音を感じられるようにしているのだ。
──Q.低音だけ良くしてもダメですよね?

サウンド明瞭度向上技術イメージ
そこで低音補強と並ぶ重要な技術が「音の輪郭」の補正だ。「楽器それぞれの音、一音一域が聴こえるようにする処理を入れています」と岡田氏は説明する。走行騒音によって音楽がマスキングされると、ボーカルや楽器の細かな情報まで失われる。そこで輪郭を浮き立たせ、走っていても解像感を保てるようにした。

パイオニア
グローバル技術開発統括本部 技術開発本部
中島 瑞稀 氏
これは音楽に存在しない音を付け加えることとは違う。「元々あったものが走行音で打ち消されてしまう。それを回復させるという感覚です(中島氏)」高速道路でも低音、ボーカル、ハイハットがバラバラの音ではなく〝音楽〞として聴こえる。その状態こそが狙いなのである。
──Q.音作りはどこから始めるんですか?

音響デバイス特性補正技術
実は低音補強や輪郭補正の前に、もうひとつ重要な工程がある。それが「音響デバイス特性補正」だ。「まずスピーカーユニット自体の特性を補正します。そこが、その後に走行環境へ合わせて調整していくための土台になります(岡田氏)」
スピーカーの周波数特性にある凹凸を整え、できるだけ素直な状態にする。その上で低音補強、輪郭補正などを組み合わせていく。ただし完全にフラットならいいというわけでもない。無理な補正をすればスピーカーへの負荷も増えるため、実際の音を確認しながら性能をギリギリまで引き出しているのだ
──Q.ヘルメットで音が変わるって本当ですか?

サインハウスの利光氏らが強調したのが、スピーカーのフィッティングである。「耳との位置関係が重要です(利光氏)」耳の中心からスピーカーがずれたり、距離が離れたりするだけで音は大きく変わる。
理想はスピーカーの中心と耳の位置を合わせ、できるだけ近づけることだ。そのためB+COMには、スピーカーの裏に入れて高さを調整するスポンジが用意されている。

写真は別売りの「ヘルメットスピーカー セット series7 スタンダード」。写真左上にあるのが本体付属の調整スポンジだ。
実際、筆者もこれを1枚追加して耳へ近づけてみたところ、走行中の音が明らかに変わった。「こんなに違うのか」と驚いたほどだ。音が小さい、低音が足りないと思ったら、設定をいじる前にスピーカーの位置を確認する。これは7Xシリーズの音を引き出すうえで非常に重要なポイントだ。
──Q.最後は測定器で音を決めるんですか?

サインハウス
事業推進本部 企画部
柴原 浩志 氏
「最後は必ず走ってから決めます(柴原氏)」この言葉がライドオーディオという考え方を最もよく表している。パイオニアが机上でチューニングし、それをサインハウスが実際にバイクで試す。「ここをもう少し」「これとこれの中間が欲しい」とフィードバックし、パイオニアが再調整。それを持って再び走る。
さらに両社合同の走行テストも実施された。「実際に走ってみないと分からないことが大きいですね(柴原氏)」一般道、高速道路、異なるバイク、異なるヘルメット、さらに風向きまで変わる。その中で何度も走って音を追い込んでいった。測定値だけでは完成しない。最後はライダーが実際に走り、自分の耳で判断するのである。
──Q.一般道と高速道路で音を変えられるんですか?
7Xシリーズには音響補正効果の「OFF」「1」「2」が用意されている。標準は「1」で、より補正効果を強めた「2」も選択できる。「高速道路なら2、というイメージは正しいと思います」と利光氏。
一般道では1、高速道路など走行騒音が大きくなったら2。走る場所に合わせてライダー自身が切り替えられるのだ。実際に切り替えてみると、単純に低音が増えるのではなく、音全体がぐっと近づき、メリハリが強くなる印象があった。これはぜひ7Xユーザーに試してもらいたい機能である。
──Q.ライドオーディオのこれからの展望は?

「余地はまだたくさんあると思っています」岡田氏が挙げたのが、速度や走行騒音に応じて補正量を自動的に変える仕組みだ。停車状態から高速走行まで、バイクの音響環境の振れ幅は極端に大きい。それならライダーが毎回切り替えなくても、走行状態に合わせて自動的に音が最適化されればいい。
さらにヘルメットごとのチューニングや、ユーザーの好みに合わせたパーソナライズという可能性もある。ただしインカムは小型であり、演算能力にも限界がある。「高度な処理を入れればいいわけではありません。適度に軽い処理でどこまでできるか。そこは逆に腕の見せどころだと思っています(岡田氏)」
静かな部屋で聴くホームオーディオでも、クルマの室内で聴くカーオーディオでもない。エンジン音を聞き、風を受け、バイクを操りながら、それでも音楽を「音楽」として楽しむ。ライドオーディオとは、バイクで走ることを邪魔せず、その時間をもっと楽しくするための新しいオーディオなのである。
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