文:小川 勤 写真:南 孝幸 取材協力:モータリスト
▶▶▶写真はこちら|VINS「DUECINQUANTA」
VINS「DUECINQUANTA」インプレ(小川 勤)

VINS
DUECINQUANTA
2026年モデル
総排気量:249.5cc
エンジン形式:水冷2ストロークケースリードバルブV型2気筒
車両重量:112kg(ガソリン抜き)
価格:990万円(※2022年当時の予価、為替により変動)
元フェラーリエンジニアの夢のバイク。そのプロトタイプが待望の上陸
「バラバラバラバラッ、バイーン、バイーーン」。スロットルを開けると同爆90度V型2気筒の2ストロークエンジン特有のエキゾーストが響き、懐かしい。しかし、懐かしさに浸ったのはわずかな時間だけだった。
先進的かつ独創的な車体は新たなるバイクの誕生を感じさせるのに十分だし、何よりも250ccの2ストロークエンジンは、驚くことに完全新設計なのだ。

このDuecinquanta(ドゥエチンクアンタ=イタリア語で250の意味)を制作したのは、イタリアのVINS S.r.l.(ヴィンス)社。懐古主義ではなく、最新技術で2ストロークのバイクを再定義してきた。今回はそのプロトタイプが待望の上陸。箱根で試乗させていただく機会を得た。
ヴィンスは、元フェラーリのエンジニアであるヴィンセンツォ・マッティア氏が、フェラーリにほど近いマラネロに2017年に設立した会社。ヴィンセンツォ氏は、2014年からドゥエチンクアンタの構想を抱き、ガレージで設計を開始。フェラーリで学んだ技術があれば、幼い頃に夢中になった俊敏かつパワフルなバイクを現代に甦らせることができると考えたのだ。
その後、2017年にヴィンス モータースを設立し、その年のEICMAでプロトタイプを発表。エンジン&シャシーをゼロから作り上げた。
ヴィンスはドゥエチンクアンタ発表後に、このエンジンに惚れ込んだイギリスのランゲン社とパートナーシップを結び、エンジンを供給。100台限定のランゲン 2ストロークが発売され、メーカー在庫はすでに完売(日本は残り1台)している。
『ヴィンスは消えてしまったのか…』。プロトタイプ発表後、音沙汰がなかったためこんな推測も飛び交ったが、ヴィンスは4年間ランゲンのエンジン制作に邁進。その水面下でヴィンセンツォ氏はドゥエチンクアンタに情熱を捧げ、細かい部分を改良。現在は、オーダーが入れば生産できる体制とのことだ。

目の前にあるドゥエチンクアンタは、プロトタイプである。
実はドゥエチンクアンタの情報は世界中を見ても少ない。ではなぜこのタイミングでプロトタイプが日本に上陸したのか…。輸入元のモータリスト代表の野口英康氏は「ヴィンセンツォ氏と友達になってしまったんですよ」と笑う。
いずれにしてもドゥエチンクアンタに試乗できるのは光栄なこと。価格は2022年当時の発表では990万円を予定、とのことだったが、昨今の円安によっては変動する可能性もあるだろう。
ちなみにヴィンスは、バイク製造がメインの企業ではない。大きな投資会社の資金も入っていない。3D モデリングやエンジニアリング、特に空力設計とカーボン製造が事業の中核で、アルファロメオ、ミニクーパー、パガーニ、アストンマーティンなど欧州の様々な四輪メーカーの仕事を請け負っている。
全ては軽さのために。何物にも似ていない世界線を貫く

『Light is Right=軽さは正義』。車重112kg(!)のメリットは、取り回した瞬間に伝わってくる。ドゥエチンクアンタに採用された数々の機構は、すべて軽量化を追求した合理的な構造。巨大なカーボンモノコックフレームは、足まわりやエンジン懸架はもちろん、燃料タンクや車体内にこもった熱を排出する機能、シートカウルも兼ねた巨大な一体パーツ。もはや理解が追いつかないし、ここまでやるのかと唸るしかない。
前後MUPO(ムポ)製のサスペンションを採用する足まわりも個性的だ。フロントはホサック式が採用され、フロントアームはカーボン製。リアはカーボンスイングアームと両端からリンクを介してショックを押し引きするパラレルダブルプッシュロッド式。このシステムにより、前後足回りは従来的な構造より20〜30%重量を削減できている。
プロトタイプのブレーキはJ.JUAN(ホタホアン)製だが、市販バージョンはブレンボに変更される。
そして注目すべきはエンジンだ。ユーロ5+規制に対応する逆回転クランクを採用する249.5ccの2ストロークエンジンは、アプリリアの250cc GP マシンに搭載されていたロータックス258を研究した、V型2気筒の同爆仕様。試乗したプロトタイプは75HPだが、市販バージョンは83HPを発揮するという。
また、今回は混合給油だったが、市販車は分離給油になり、オイルタンクの温度を安定させる方法やオイルを圧送させるシステムも特徴的。燃料や吸気系、さらに冷却システムは数々の特許に溢れている。似ているものはどこにもなく、想像できない乗り味にワクワクする。
「2ストローク=懐古」ではない。新しさに溢れる現代の2ストロークスポーツ
ブリッテンを意識したカラーリングは、細部を理解するほどにそれが単なるリスペクトでないことがわかる。「自分の理想のエンジンとシャシーでバイクをゼロから作る」。ブリッテンが夢見た世界を、現代の技術で描き直しているのだ。
エンジンはセルで簡単に目覚め、アイドリングも安定。ブリッピングしても白煙はほとんど出ない。これが冒頭のワンシーン。感動に似た気持ちでいっぱいになる。クラッチミートも簡単で、むやみに回転を上げる必要はない。エンジンはトルク型で、タコメーター表示のない5000rpm以下でもフレキシブルに走れる。

走り出して感じるのは軽さよりも安心感だった。いわゆる80〜90年代の2ストロークレプリカのようなコンパクトでどこまでもコーナリングスピードを上げたくなるような感覚ではない。低中速域ではフロントまわりに手応えがあり、速度を上げていくと軽快さが出てくる。
車体はそれほどコンパクトではなく、コーナーのアプローチでしっかりと向きを変え、すぐさまバイクを起こしてタコメーターを高回転に飛び込ませるように組み立てる。
250cc2ストロークスポーツといえば、柔らかなシャシー&サスペンションのピッチングモーションを感じながら、どこからでも曲がり出せるハンドリングを想像するが、ドゥエチンクアンタは走りの組み立てがビッグバイク的。向きを変えるポイントやラインを明確に決め、立ち上がりでもバイクを起こしてからパワーを与えたい。また、走行中のディメンジョンの変化が少ないが、それを理解した乗り方で挑むと楽しさが広がる。

エンジンは8000rpmを超えたあたりから振動が増え、それとともにパワー感が広がっていく印象。75PSの2ストロークの高揚感を一般道で感じられる悦びは、とても大きい。高回転を使い出すとスロットルを開けた際のドンツキなどもあるが、この日は雨上がりの真夏日で、湿気が多く、標高も高い場所での試乗だったことをお伝えしておこう。
数分走っていると振動で腕が痺れてくるので、クールダウン。この感覚も久しぶりだ。高いギアで5000〜6000rpmを繋ぎながら流す。驚くほど従順だ。ストレートで少し大きめにスロットルを開けると、二次曲線的に加速していく。気持ちがいい。プロトタイプであることを考慮すると、この完成度は上々である。
ドゥエチンクアンタは、最新技術で再定義した2ストロークスポーツだ。それは、一人のエンジニアの夢であり、浪漫でもある。
