文:齋藤春子/写真:松川 忍、南 孝幸
レースを共に戦う頼もしき協力者たち


1988年からチームのメインスポンサーを務める「F.C.C.」や、EWCマシン製作のサポートを行う「アールズギア」など、TSRのレース活動に共闘するパートナー企業は数多い。さらに、1991年の上田昇氏をライダーにした世界GP125クラス参戦にもずっと帯同していた松下さん(下写真左側)のように、情熱と技術を兼ね備え社員たスタッフ達の存在も欠かせない。

パーツメーカーのTSRではラインアップをさらに強化
──藤井さんがチーム総監督を務める一方、酒匂さんは営業面を統括されていると伺いました。TSRさんはレース活動と並行して、市販アフターパーツの販売もされていますが、こうした製品の開発はどのように進めているのでしょうか。
藤井「うちはレース用品と一般向けの営業パーツが完全に分かれていてね。レース用品は単純に少しでも軽く、少しでも強くをモットーに、自分達のレース活動のために作っているんです。それを市販もするけれど、高価だし、乗り心地は悪いしで、買う人はかなり限られるわけですよ。だから酒匂が社長となってからは、営業パーツをより充実させてくれていますね」
酒匂「これは以前、藤井さんが言ったフレーズですが『CBR is TSR』だと。まさに、長年CBRで挑戦を続けてきたTSRを表す言葉だなと感じたので、営業パーツもこの言葉にならい、CBシリーズとCBRシリーズに特化していこうと決めました。また、モノづくりという意味での変化では、EWCを通じて樋渡治社長率いるアールズギアさんからサポートを受けたことを機に、営業面でもコラボレーション商品の開発やOEM製品の製造など、両社がタッグを組んでの新たな取り組みを進めています。TSRとアールズギア、それぞれの個性と強みを融合させることで、これまでにない製品開発やコストダウンを実現できていますね。ここで言う〝コスト〟は単なる金額面のことではなく、開発時間やテスト期間といった〝時間的コスト〟の削減も含まれていて、両社にとって良い関係性を築けています」
活動のベースにあるのはバイクとライダーへの愛情

──あらためての質問になりますが、これまで積み重ねてきた実績と経験が培った〝TSRらしさ〟とは、どのようなものだと思われますか?
藤井「レースに関してはやるからには勝ちたいし、勝つための努力はする。あとは例えば、今うちのチームは、2026シーズンに向けて体制をシフトしている最中ですが、これまでいた人間を外に出したり、かなり大きく変えることが確実なんですね。もちろんそうすることで苦労するし、大変になることはわかってるんだけど、そういうことがすごく好きではあるね。逆境だとか、絶対的トップに逆転を狙う状況の方が、むしろやりがいを感じたり、やる気が出る。イベントとかでもよく話すんだけど、俺のベースにある気持ちはバイクが好きで、バイクに乗る人を尊敬しているし、大好きなんです。バイクの何が楽しいって、雨が降れば濡れるし、夏は暑くて冬は寒い。そうやって大変でつらいのが喜びだし、そういうことが楽しいと思える人が乗る乗り物だと思うし、そこが良いわけですよ(笑)。でもじゃあ、そういう〝らしさ〟をどうすれば次へつなげられるのか、という問題はありますけどね。こういう経験をしろ、こういうことを継続しろと言えば伝わるのかと言ったら、そんなことはないから」
酒匂「藤井さんが海外拠点から戻ってくると、僕は親分が帰ってきたということで、いつも(中部国際空港)セントレアまで迎えに行くんです。そうすると帰りの車の中で、藤井さんが昔のTSRのことだとか、いま自分が何を考えているかなどを教えてくれるのですが、僕はその時間がすごく好きで。これだけの記録を残してきた人なのに、藤井さんは全然偉ぶらないし、周囲に対しての敷居も高くないし、僕に対しても『やるんだったら中途半端なことはしないでやれ』って背中を押してくれるんですよ。TSRの社長に就任した時に、やはりビッグネームを背負うわけだから、歴史を継承しなくてはいけないと思うじゃないですか。でも藤井さんは『全部壊せ』と言ったんです。『全部壊して、お前の好きなようにしろ』って。僕にとっていちばん嬉しかった言葉だし、そういう過去へのこだわりのなさが〝TSRらしさ〟というか〝藤井監督らしさ〟だと思いますね」
──では最後に、今後のTSRがめざしている未来について聞かせてください。
酒匂「僕としては、レースと営業面のバランスが取れれば良いので、今後も自分が営業面を頑張ることに変わりはないですね。一方で、国内マーケットはコロナ禍で一時的なバイクブームがあったものの、今後は縮小傾向が続くと予想しています。なので、TSRの10年先、20年先を見据えた新たな挑戦として、2025年末に『TSRベトナム』を立ち上げる予定です。今後はアジア全体を視野に入れた営業展開を進めながら、これまで培ってきた日本の技術力と開発力を基盤に、新たな市場での価値創造を目指していきます」
藤井「もちろんこれからもレースは続けていくけど、どんなことだって永遠に続けられるわけじゃなくて、終わりに向かっていくもの。ただ、勝てなくなったらやめられるのがうちの強みだよね。メーカーだと周囲への責任があるだのなんだの言われてしまうけど、うちは自分達が嫌になったらやめちゃうから、そこは強いんですよ。だから勝てなくなったらやめる、かな…と言いながら、人の情にほだされて続けてきた部分もあるんだけど(笑)」
TSR/TECHNICAL SPORTS RACING インタビュー 写真
文:齋藤春子/写真:松川 忍、南 孝幸
