スズキGSX-Rとヨシムラの40年にわたる熱い絆が生んだ究極のコンプリートマシン・GSX-R750 YOSHIMURA COMPLETE #604。1986年にAMAデイトナを駆けたレーサー「#604」の魂を現代の技術で再構築し、高い性能とフレンドリーさを両立させた最新コンプリート車の魅力を紹介する。
文:山口銀次郎/写真:鈴木広一郎、南 孝幸、松川 忍/まとめ:オートバイ編集部/協力:ミスター・バイクBG編集部

ヨシムラ「GSX-R750 ヨシムラ コンプリート #604」解説

画像: SUZUKI GSX-R750 YOSHIMURA COMPLETE #604

SUZUKI
GSX-R750 YOSHIMURA COMPLETE #604

過去・現在・未来ヨシムラとGSX-Rの絆

スズキGSX-Rのレースシーンといえば、必ずヨシムラの姿が思い浮かぶ。1977年ヨシムラは空冷GS750のチューニングを行い、AMAスーパーバイクへ本格参戦。以後、世界耐久選手権や全日本選手権など、さまざまな舞台で主力マシンとして活躍した。

続いて空冷GSXでも名を轟かせ、作り上げたTT-F1マシンはスズキの次期モデルの開発にも影響を与えた。そして1985年に油冷GSX-R750が誕生。ヨシムラが闘う姿はライダーの心に刻まれ、マシンが水冷、1000ccとなっても偽りが利かない現場で数々の物語が生まれ続けた。現在もYoshimura SERT Motulチームで、ヨシムラチューンが施されたGSX-R1000Rと共にEWC(FIM世界耐久選手権)を走り続けている。

いわば、ヨシムラとGSX-Rは、一心同体。このペアが誕生して40年になる今年、特別なマシンが誕生した。ハヤブサX-1、カタナ1135R、トルネードS-1以来となるコンプリート車だ。

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「ヨシムラGSX-R750 #604コンプリートマシン」は、1986年、ヨシムラがAMAデイトナの舞台に登場させたスーパーバイク仕様の姿を見事に蘇らせた。シートカウルに彩られた#604は、1986年のデイトナ200マイルで辻本聡選手が駆ったマシンのゼッケンであり、ヨシムラのレーシングマシンにおける象徴的な番号。

辻本選手はレース中にトラブルでリタイアとなったものの、#604はヨシムラとGSX-Rシリーズの歴史において特別な意味を持っている。ボディカラーはもちろん、ステッカーの位置まで、ヨシムラマニアを唸らせる#604辻本GSX-R750仕様となっている。

ただし、このマシンを鑑賞用として隅から隅まで瓜二つに作ろうとしたのではない。現在のロードゴーイングレーサーとして、当時のマシン開発スピリットと現代の技術を融合。マフラーの名称は当時のレーサーに装着されたものと同じくデュプレックスチタンサイクロンだが、細部は進化。キャブレターはマグネシウムボディのスペシャルTMではなくTMR-MJN。他のパーツも含め、ほとんどが市販品として購入できるものばかり。

純正とは明らかに違うパフォーマンスを発揮しつつ、長く乗り続けられるコンプリートマシン。これがヨシムラが掲げたコンセプトでもある。気難しさやネガティブな面は一切なく、ライダーが身構える必要はない。むしろ「素直に乗ってごらん、楽しいぞ」と導いてくれる懐の深さがある。「優れたレーシングマシンは乗りやすい」という格言を公道用として証明しているのだ。

ヨシムラ「GSX-R750 ヨシムラ コンプリート #604」インプレ

画像1: ヨシムラ「GSX-R750 ヨシムラ コンプリート #604」インプレ

ヨシムラ印は伊達じゃない。獰猛性を包み込む車体造り

フルノーマルのGSX-R750を押し引きすると、未だにその軽さにギョッとしてしまう。本格的なレーサー然としたモデルの誕生は、発売当時は随分な衝撃だっただろうと想像に容易い。そして、現代のパーツや技術で組まれたヨシムラGSX-R750に触れると、あの衝撃三倍増といった具合にその軽さに驚かされてしまう。

バランス良く仕上げられたバイクは、押し引きをする段階で、素性の良さが解るというもの。そりゃ、問答無用のヨシムラコンプリートマシンなのだから納得できる。美しさを伴い、スマートかつシンプルな造り込みは、デイトナレーサーをイメージしただけのことはあり、駄肉感が一切なく「ロードゴーイングレーサー」というイメージにピッタリ。

ただし、それは押し引きの軽さや佇まいに当てはまるもので、跨ると現代のスーパースポーツモデルにはない、ソフトかつ大らかなラグジュアリー感があり、良い意味で時代を感じさせる、GSX-R750らしさを活かした乗車フィーリングとなっていた。「そう、スパルタンさ一切なし!」とてもフレンドリーである。走り始めると、そういった感想に誰しもなることだろう。まず、軽快さに加え、絞って引き締まったとはいえ厚みのあるシートは座り良く、至極快適だった。

乗車した段階でショックストロークは程良くありつつ、走り始めると無駄にフワフワしない、絵に描いた様な上質な足まわりそのもの。ショック自体が柔らかいのではなく、路面にヒタッと車体全体で吸い付く様な粘り気を帯びつつも、バンキングには俊敏に反応し、それでいて向き変えは大らかといった、細身の18インチタイヤらしさがうまく演出されている。

先に「向き変えは大らか」と表現してしまったが、これは回頭性に乏しいというワケではなく、バンク角の深さに比例するといった具合に、分かりやすく鋭さを増していく。あえて18インチのフィーリングにこだわりつつ、バタ付きもみせずスポーティーなコーナリングを実現するのは、独自のオフセット量を反映させたオリジナルのステムキットによる影響が大きいだろう。極低速時のハンドリングの軽さも、ステムキットをはじめとした車体姿勢作りが大きく貢献している。

画像2: ヨシムラ「GSX-R750 ヨシムラ コンプリート #604」インプレ

さて、気になるエンジンパフォーマンスだが、極端で過剰な演出やエグ味は一切なく、マイルドなフィーリングで喉越しが良いと表現したくなる出力特性となっていた。これは単に出力が抑えられているのではなく、全域で回転数上昇に伴うドラマチックな変化をみせつつも、キレ良く吹け切るモンスターっぷりを発揮するエンジンであることは間違いない。

正直、日本の標準的な峠のコーナー毎の距離や旋回半径では、2速ホールドでも充分、むしろやり過ぎた感のある速度域をすんなり叩き出してしまう程。当然、高速域においても、高いギアでの高負荷時にもキンキンにブン回り、リズミカルに加速する獰猛さは、クラスを超えたパフォーマンスといえるだろう。

画像3: ヨシムラ「GSX-R750 ヨシムラ コンプリート #604」インプレ

とはいえ、やはり扱いやすさに重点を置いた気遣い仕様だということ。貴重なコンプリート車に乗れるまたと無い機会ということで、多少ワイルドに高出力&高負荷をかけてみたが、ジッと顔色変えずに受けとめられる足まわりと車体があるからこそ、ワンランク上の上質さを感じることができた。日本屈指、もとい、日本一の歴史と技術力を誇るレーシングカンパニーが練り上げた、隙のないコンプリート車両であると納得させられた。

気難しさのない車体作りやエンジン特性は少々拍子抜けするほどフレンドリーで、車重はとても軽いのにもかかわらず、安定感や落ち着きはクラスを超えた風格に満たされている。優雅に流すも良し、ワインディングをスポーティに流すも良し、レーサーコンセプトモデルと一線を画す、道を選ばないオールマイティーさ加減にヨシムラの懐の深さと、器の大きさを感じた。

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