1947年の創業以来、機能的かつ高品質、そして優れた安全性と快適性を追求したライディングウエアづくりに定評のあるクシタニ。三代目にあたる櫛谷淳一さんは現在、クシタニの誇るレーシングスーツの実力を世界へと広めるために、新たな挑戦を続けている。
文:齋藤春子/写真:松川 忍

株式会社クシタニ

画像: KUSHITANI PROSHOP 本店 静岡県浜松市中央区白羽町662-1 TEL.053-488-8884

KUSHITANI PROSHOP 本店
静岡県浜松市中央区白羽町662-1
TEL.053-488-8884

1947年創業の老舗オートバイウエアメーカー。創業以来、最高級の素材を使い、伝統のクラフトマンシップと先進技術を駆使した製品づくりで「KUSHITANI QUALITY」を守り続けている。また、ミーティングイベント「KUSHITANI COFFEE BREAK MEETING」の開催や、全国で4店舗を展開する「KUSHITANI CAFE」、15のオフロードコースを用意する「ONTAKE EXPLORER PARK」のプロデュースなど、バイク文化の構築と浸透を目的とした活動にも積極的に取り組んでいる。


株式会社クシタニ CEO
櫛谷淳一さん

画像1: 〈インタビュー〉株式会社クシタニ CEO 櫛谷淳一さん|革ツナギはクシタニの原点であり、作り続けるべきもの【ブランドの歴史】

1974年東京生まれ。株式会社クシタニの代表取締役社長。現在はアジアを皮切りにクシタニブランドを世界に浸透させるため、一年の半分以上をタイ・バンコクの拠点で生活。アジア各国のレースやMotoGPライダーにレーシングサービスを提供するため各国を飛び回っている。

本社工場に積み上がった、はぎれの山にダイブした幼少期

──クシタニの始まりは、1947年に静岡県浜松市で創業した小さな革製品のお店だと伺いました。現在、3代目となる淳一さんはCEOとして、クシタニ東京の代表を務める弟の信夫さんと一緒にクシタニブランドを指揮されていますが、やはり幼い頃からバイクや革は身近な存在でしたか?

「そうですね。いちばん最初のオートバイの記憶は、父が大事に乗っていたBMWのK100RSです。ちょっとトランスフォーマー的な形をしてて、子供ながらに素敵だと思っていました。革の記憶でいうと、父は1971年にクシタニ東京営業所を設立して、その3年後に僕が生まれたのですが、祖母はずっと浜松でクシタニ本社をやっていて、夏休みとかによく遊びに行ってたんですね。工場の2階で縫い子さんや裁断をする方々が仕事をしていて、祖母もそこで仕事をしていたので、僕と弟もよく工場にいさせてもらってて。裁断の場には余った革を2階から1階に落とす穴があって、1階に革のはぎれが積み上がっているのですが、そのはぎれの山にジャンプして飛び込んだりしてました(笑)。革がクッションになるので、いい遊びだったんです」

──それは淳一さんならではの革の思い出ですね(笑)。クシタニ創業時代の話に戻るのですが、お祖母様が始めた革製品のお店は最初は何を作っていたのでしょうか。

「革を使った婦人服ですね。あとはランドセルだったり、戦後まもない頃は日本軍が払い下げたウサギの毛皮を仕入れて、コートを作ったりなどもしていたそうです」

画像: 本社工場に積み上がった、はぎれの山にダイブした幼少期

──女性向け革製品のお店が、革ツナギを作るようになった経緯を教えてください。

「僕も聞いた話なのですが、1947年に祖父母が開いた櫛谷商店は当初、近所の方々のために革製品のお直しや仕立てをしていたらしいんですね。当時は名古屋から革を仕入れて加工していて、原皮を仕入れたときは祖父が庭で鞣していた、なんて話も聞いたことがあります。そうやって革製品の加工・製造技術がある店ということが徐々に知られていったのか、1950年代に入ってから、同じ浜松のオートバイメーカーであるスズキさんから祖母のところに、レースのための革ツナギを作って欲しいという依頼が来たんです。当時、浜松にはたくさんのオートバイメーカーがありましたが、日本製の革ツナギは存在していませんでした。スズキの方はイギリス製の革ツナギを持ってきて、『これと同じものを自分たちのサイズに合わせて作ってほしい』と言ったそうです。そこで祖母達が試行錯誤しながら革ツナギを作ったことが、ライディングウエアメーカーとしてのクシタニの始まりです」

──現在、製品ラインアップはレザースーツに留まらずとても幅広い展開ですが、やはりレザースーツがクシタニの原点であり、アイデンティティなのでしょうか。

「そうですね。最高の安全を追求した革ツナギを作り続けてきたからこそ、現在のクシタニがあるという認識ですし、これからも変えてはいけない原点だと思います」

現状維持を狙うのではなく発展のための変化を求める

──淳一さんご自身の話もお聞きしたいのですが、子供の頃から、将来は家業を継ぐのだという覚悟がありましたか?

「子供の頃からずっとオートバイに携わる父の姿を見ていましたし、僕もクシタニに入社する前はバイク便の仕事をしていたくらい、オートバイは好きでしたから、いつかは継ぐんだろうなとは思っていました。ただ、特に1980年代から1990年代にかけてはレーサーレプリカブームもあり、会社の方向性が完全にレース志向だったので、そこへの反発心はありましたね。というのも10代の頃の僕はツーリングとかアメリカンバイクが好きで、会社と真逆の方向性だったんです(笑)。アメリカに憧れていたので、いつか留学したいなとも考えていた頃に、父から、アメリカにバイトに行かないかと言われたんですね。じつはアメリカにもクシタニの会社があったのですが、長く休眠会社にしていたので、残っている在庫を現地で売ってきて欲しいという話でした。願ってもない話ですから、スタッフに加えてもらい、3カ月ほどアメリカで過ごしました。バイクが集まりそうな場所を転々としながら在庫を販売して回ったのですが、何十年も前の商品でも品質はしっかりしているので、外国のライダーの方々がすごく喜んで買ってくれるんですよ。その姿を見て、こんなに喜ばれる製品を作ってきたクシタニというブランドにあらためて愛着が湧いてきて、帰国後に入社させてもらい、店舗で働き始めたんです」

──最初はどの店舗にいらしたのですか?

「当時あった桜新町店で半年ほど働いてから、新しくできた世田谷店の店長として働きました。接客は好きでしたが、まったくレーサーレプリカブームを知らない20歳とかの人間が働き始めて、でもお客さんはみんなレーサー好きの年上の方ばかりなわけです(笑)。皆さん、すぐに僕が無知だとわかっただろうに、すごく優しくいろいろ教えてくださって、毎日が勉強でした」

画像: 現状維持を狙うのではなく発展のための変化を求める

──2010年代以降、淳一さんと信夫さんがクシタニを率いるようになってからは特に、カジュアルなテキスタイルウエアが充実したりと製品面でも変化があったり、さまざまな新たな試みも始まりました。

「15年以上続く人気イベントとなった『クシタニ・コーヒーブレイクミーティング』や、クシタニ・プロショップの移動店舗『クシタニ・プロテント』のオープン、新東名高速道路NEOPASA清水と名阪国道の道の駅針テラスで展開中の『クシタニ・パフォーマンスストア』なども全部、いまの仲間達と一緒に始めたものですね」

──2013年にポップアップショップからスタートした『クシタニカフェ』は、現在全国に4店舗を展開していますし、2023年には御嶽スキー場と組んでオフロードパーク『オンタケエクスプローラーパーク』を開園。歴史ある老舗メーカーでありながら、新たなジャンルにも積極的に挑戦されている理由についても知りたいです。

「現状維持が嫌いだったんです。僕達が若い頃は特に、何か新しいことをやろうとするたびに、上層部からはめちゃくちゃ反対されましたよ(笑)。でも、ずっと現状が維持できればいいけど、変化せずには状況を上げることはできない。新しいことに挑戦していかないと、維持できなくなったときに絶対厳しくなるという危機感がありました。例えば、テキスタイルウエアで転機となった商品のひとつにアメニタジャケットがありますが、あれが売れるまで社内では、『フード付きのジャケットなんてライディングジャケットと言えない』という意見が圧倒的に多かったんです。それでも新しいものをやらないことには、今のように若いライダーの人達にも『着たい』と思ってもらえるようなブランドにならなかったでしょうし、現在は僕自身もお金を出して買いたくなる商品をたくさんラインアップできていることが、すごく嬉しいなと思います。同時に、今の商品デザインを手掛けているメインのデザイナーは僕と同世代なので、現実的にあと何年、若い世代に響くデザインを作っていけるかという不安もある。なので今後も、人の新陳代謝も含めてどんどん新しいことをしていかないと、と考えています」

創業当時の店舗の姿をショップ内にそのまま再現した本店

画像2: 〈インタビュー〉株式会社クシタニ CEO 櫛谷淳一さん|革ツナギはクシタニの原点であり、作り続けるべきもの【ブランドの歴史】

2021年9月に浜松にオープンした「KUSHITANI PROSHOP 本店」は、最新ウエアモデルからレーシングスーツ&レーシングギア、アクセサリー類までクシタニの全ラインアップが揃う。

名だたるライダーに提供した革ツナギの展示がされている他、店内に1947年創業当時の櫛谷商店の姿を忠実に再現するなど見どころ満載。クシタニの製品を長年支えてきた年代物のミシンが設置された2Fスペースでは、パンツの裾上げやウエアの修理が行われる。

画像3: 〈インタビュー〉株式会社クシタニ CEO 櫛谷淳一さん|革ツナギはクシタニの原点であり、作り続けるべきもの【ブランドの歴史】

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